第17話「阿漕なスキル? の使い方」
朝、清々しい朝が来た。
街頭で明るいが、しかし太陽が無い朝。
現在時刻は五時、疲れていたのか睡眠時間は長すぎたが、良い具合だ。
俺はうんと伸びをしてからベッドより降り、適当な体操で頭と体を覚醒させた。
昨日はすぐに眠ってしまったが、俺にとって此処は結構良い宿だ。
地下街の基準はわからないし、さすがに天蓋付きの王族ベッドや風呂なんてものはないが、冷水のシャワーがあるのだ。
そのシャワーも個人用とはいえ、一階にひとまとめに配置され木板で簡単に区分けされているだけなので女性にはアレかもしれないが、俺みたいな奴にとってはこれで十分だ。
シャワーは魔法的な装置で水を生成しているらしく、一度に五分間使える。
宿泊費には一回分の値段も込みなのだから、もしかすれば意外とリーズナブルな価格設定なのかもしれない。
冷水で完全に覚醒した俺は、二階の部屋に戻って防具を身に纏う。
今日からはガンガン稼いでいかなければならない。
そのために体は資本である。
この朝も夜も曖昧な地下街において、俺は規則正しく生活し、体調を崩さないように心掛けていこうと思っている。
とはいえ実は、完全に昼夜が不明なわけではない。
精霊使いとかいう連中をギルドなどの大型施設は雇っており、精霊からおよその外の時刻を聞いているという。
また地下街ながら、だからこそか、教会がある。
教会では朝に一回、昼に二回、夜に三回と鐘を鳴らしてくれているのだ。
うーん、ファンタジー。
ただし昨日ギルドで見た通り、朝っぱらから飲んでいたりと荒くれ共には関係ない話のようだが。
腰の剣鞘にブラッドソードを挿し、一階へ降りて朝食を頂く。
野菜のシチューに硬めのパン。
美味しいが、なかなか胸に来る。
昨日は気にしていなかったが、王族レベルの、元の世界レベルの暮らしから一気に質素になったのだ。
「お客さん、何かあったんですか?」
「い、いえ。昨日はまともに食事もしていなかったもので、とても美味しいです」
「それならよかった」
料理を運んでくれたお嬢さんに心配されつつ、いよいよ異世界なのだなと実感していた。
俺は木のプレートを脇に、駆け足で塔へと向かう。
塔の入り口付近には既に店が出ており、開いているスペースを見つけて座り込む。
プレートを抱えて、今日の昼まではとりあえずこれで様子見だ。
そのプレートには、こう書いてある。
パーティ編成 請け負います
昨日ギ・グウに用意してもらったものだ。
実は文字が書けるって凄い事じゃないだろうか。
何者だ、ギ・グウ。
さて、そんな事より俺はこのパーティ編成を銀貨五枚でやるつもりである。
ギルドの僧侶エティアと比較するとその価格は五倍と、安定のぼったくり設定である。
これはエティアを利用する顧客とぶつからないようにしたためで、さすがに半額で客をかっさらって幼気な少女の人生を潰す、なんて外道な真似は気が引けたからだ。
しかしこれで昼までに日銭も稼げないようであれば、やらざるを得ないとも思っている。
別に延々これを続けるつもりではないからだ。
だがこれに関しては荒稼ぎ出来る自信がある。
三十分ほどして装備を纏った者達がちらほらと見えるようになると、遂に近付いて来る者が現れた。
三名の男だ。
「おう黒い兄ちゃん、パーティ編成出来んのか?」
「はい、安くて早くて安心! 銀貨五枚で請け負いますよ!」
「ちょっと高過ぎねえか? まけてくれよ」
「それでは初回特別サービスで銀貨三枚でどうでしょうか」
「全然安くねえけどギルド戻るのめんどくせえし、教会も遠いんだよな。俺達三人のパーティで頼むわ」
銀貨三枚を受け取った俺は、嬉々としてパーティ申請を投げる。
「うおっ!? 何じゃこりゃ!?」
「文字が見えるぞ!」
「気持ちわりぃ!」
パーティインの文字が視界に出現して錯乱する男達を諭し、ようやく落ち着くと恐る恐るといった様子でクリックしたようだ。
三人共を俺のパーティに入れた後、俺が脱退して完了だ。
「はい、パーティ編成終わりました」
「よくわかんねえやり方だけど確かに早いな」
そう、この世界のパーティ編成はめちゃくちゃ遅い。
なんといっても神様にお願いするとかいう訳のわからない形式なのだ。
そして編成している側は理解出来ているようなのだが、編成された側はパーティを組んでいる最中はわからない。
いざパーティとなればギルドカードに表示されるので、そうして確認するのだろう。
「な、なあ兄ちゃん、左上に何か残ってんだけど」
「ああ、それはHPとMPですね。名前も表記されているでしょう? 一番上の大きく表記されているのが自分自身の、その下が味方のものになります」
「本当かよ!?」
しばらく呆然とした男だが、はっとして仲間二人へと振り返った。
「おい、ちょっと殴らせろ!」
「おいやめぶべらっ!」
「マジでHPが減ったぞ!」
「すげえ!」
「てめぇやりやがったな!」
殴り合いを始めた冒険者たちは、ひとしきりHP減少を楽しんで、ボロボロになってようやく手を止めた。
肩で息をする彼らに俺は営業スマイルで締める。
「今後ともご贔屓に」
「おう、じゃあな!」
そうして回復薬を飲みながら塔へと入って行った。
ちなみにあの回復薬は銅貨五十枚の品である。
俺からすれば、決して安くは無い。
本当に荒くれだなと思いつつ、俺は確かな手ごたえを感じていた。
それから男達の殴り合いと会話を聞いて、遠巻きに見ていた団体も興味本位で編成を受けに来る。
最初から銀貨五枚でいくつもりはなく、銀貨三枚に割り引いて編成を請け負うというのは、完全にリピーターを狙ったものである。
一度HPMPの表示に慣れてしまうと、感覚的にわかるとはいえ無表示が恐ろしくなるのではないだろうか。
そういったある種の中毒的な面もあるので、値段は五倍に吊り上げているのである。
馬鹿な値段であれば俺がこの商売をやめた時に諦めもつきやすいだろうという考えだ。
パーティについての詳細はギ・グウに聞いており、塔や迷宮から出ると解除となるという。
また塔や迷宮以外では長時間離れたままでいるとパーティ解除されるらしく、要するに日常生活を送っていると自然とパーティ解除となり、その都度パーティ編成が必要となる。
これがパーティ編成で生計が立てられる理由のひとつだろう。
塔や迷宮の中というのは、どれだけ広大でも“ひとつの場”として認識されているのだろうか。
ともあれこれで、生活費はまかなえるだろう。




