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第155話「ドラゴンブルース」

 明日への予定も決まった所で、肩肘の張る話も終えて長い一日の終わりとなる。

 グレイディアには先に風呂に入ってもらった。

 シュウが仲間に入ってからは男女で別の部屋割りにしていたから、同居人が居るのは久々だ。


 部屋の中央、射し込んだ街灯に、濡れた金髪が微かに煌めく。


 風呂上がりに椅子へと腰掛けたグレイディアは、タオルで髪の湿りをよく吸い取って乾かしている。

 同じく小柄なヴァリスタが動物的な可愛さだとすれば、グレイディアは人形的な美しさだろうか。

 恐らくその保持スキルがある限り歳は取らないのだろうが、それにしたって整った顔立ちだ。


 作り物の様な美しさというのは表現としては間違っているのだろうが、そういった印象だ。

 いつもは何かしら考え込んでいる様だから、こうして気を抜いているグレイディアは普段とは別物に感じる。

 しばらく眺めて、浴室へと向かった。




 そういえば、ドライヤー代わりの魔導具は一般的ではないのだろうか。

 洗濯物を乾かせるくらいだから設備はあるのだろうが、例えば魔導具というのは火や風の単体は出せても、温風を出すのが難しかったりするのかもしれない。


 いや、小型化が難しいのか。


 小型の魔石焜炉があるくらいだし、火を点けるだけの装置の小型化には成功している。

 風呂場では熱湯が普通に出るから、あれは言うなれば火と水の合わせ技だろうか。

 例えばドライヤー代わりを作るなら、風呂場ならぬ温風場を作らなければいけないのだとしたらどうだろう。


 中々面白そうだが、確かに日常的には使い難い気はする。


 ディアナは元魔導学者というくらいだし、そういった研究も好きだったりするだろうか。

 魔石を魔導具に転用するなら、女性陣が捗る物を作ってもらえるのがベストだ。

 俺は主人だから基本逆らえないとしても、ディアナが他の仲間と良好な関係を築ければ連携も取り易くなるだろう。


 温風が出る魔導具を作れと命令してしまうと逆にモチベーションが低下しそうだが、魔導具の小型化を提案する形なら意外に乗って来そうだ。




 ディアナとの付き合い方も考えつつ浴槽に浸かり、ようやくと疲れが抜けた所で浴室を出た。

 ちょこんと椅子に腰掛けたまま待っていたグレイディア。

 髪も乾いて、いつものさらりとした金髪に元通りだ。


「まだ起きていたんですね」

「ああ」


 ベッドは大きく、小柄なグレイディアとなら二人でも余裕をもって寝る事が出来る。

 思わず欠伸を漏らしつつベッドの半分を占拠して寝転ぶと、グレイディアも隣に寝そべった。

 若干の視線を感じつつも、ここの所の疲労もあってかすぐに眠りに落ちた。




 ぐっすりと眠る事が出来た翌日、微かに首元に温もりを覚えて起きたが、気のせいだろうか。

 先に起きていたグレイディアは椅子に腰掛けちらとこちらを見た。

 目が合って挨拶を済ませると、起床する。


 それからシュウを筆頭としてヴァリスタ、オルガ、ディアナと勢揃いした。


 机を囲んで座っているが、俺の右隣がヴァリスタ、左隣がオルガという配置だ。

 懐いているヴァリスタはまだしも何故オルガが隣に来ようとするのかは考えたくはないが、此処までの付き合いでオルガをあしらえる一番の方法がスルーだという事はわかっているので放っておこう。

 対面にはシュウ、グレイディアとディアナと並び、こうして見ると壮観というか、何とも不思議な光景だ。


 遂に六人パーティとなった訳だが、その内訳は人族、獣人、ハーフエルフ、吸血鬼、竜人。

 俺を人族ではなく本来の人間とするならば、六人全員が別人種という事になる。

 それにしても――。




「何故ディアナは着替えていないんだ」


 ディアナは椅子に座らず、その後ろに立ったままだ。


 そして前日の貫頭衣のままだった。

 それは別に汚れた物でもないし、着回された様な形跡も見られない新品だ。

 とはいえ貫頭衣、最低限の着衣ではあるが、決して普段着とは言えない。


 何より胸がまずい。

 ふたつのたわわに集約された山なりは薄手の布越しでは破壊力があり過ぎるから、寝起きに拝むものではない。

 服はそれぞれに余りがある程度には買い与えたはずだし――何だろうか、まさか早速仲違いしているとか。


「ご主人様、ディアナは……」


 困惑の俺を見て、オルガが答えようとして言葉を濁す。

 オルガが言葉に悩んだ所で、面倒くさそうな声色ながらヴァリスタがすぐに続けてくれた。


「ライから施しを受けたくないって」

「はあ?」


 思わず出てしまった声にディアナがびくりと震えて挙動不審になる。

 その恵まれた体格とは真逆の弱々しい反応。

 完全に俺を恐れている感じだ。


 オルガ達にはその真意を話したという事は、女性陣同士での仲違いではなく俺に対しての反抗か。




 思えば俺がこれまでに購入した奴隷というのが特殊過ぎたのだろう。

 開拓地送り寸前で、満足に食事も与えられず瞳を暗く落としていたヴァリスタ。

 俺の善悪を見抜いて自分から売り込んで来たオルガ。


 どちらもすぐに俺と打ち解ける事が出来た。


 ディアナというのはまた毛色が違う。

 オーバーリアクションをするからオルガの様に腹の内が見えないタイプではなさそうだが、しかし決して頭が悪い訳ではないだろう。

 だからこそ変に勘ぐっているのかもしれない。


 だが前日には協力する様な反応を返してくれていたはずだ。

 一体この一晩で何があったのか。




「俺達と一緒に戦ってくれるんじゃないのか?」

「それは、そうですが……」

「ならそのままの服装では連れ歩くのも難しいし、衣類や装備は受け取ってくれ。衣食住の確保は主人として最低限の責任だし、そんな事で吹っかける様な真似はしない」

「えっと……」


 ディアナはその大きな胸に手を当てて小声で返答し、言葉を選んでいる様だ。

 そんな時、視界の隅――対面のグレイディアを挟んでその隣に座るシュウが落ち着きなく自身の黒髪を弄っているのが見えて、ちらと目を向けるとその青い瞳と視線が合う。

 一瞬の後シュウもまたびくりとして、目を逸らした。


「シュウさん」

「ひゃい!」


 ほんの数秒だがその横顔を見ていると、諦めたのだろう。

 恐る恐るとこちらに向き直ったシュウは、しかし目だけは伏せて話し出す。


「魔族と戦闘した時の事などを話したのですが」

「魔族ですか?」

「は、はい」


 魔族パラディソとの戦闘の事だろう、特別問題がある訳ではない。

 むしろコミュニケーションを取ろうとしてくれていたのならありがたい事だ。

 このシュウの反応を見るに、その内容は大幅に脚色されている気がしなくもないが。


「魔族と戦うなんて聞いてません……」


 それを受けてぼやく様に呟いたディアナは顔面蒼白と言った所だ。

 俺の怒りを買う恐れも理解した上での判断か。

 それでも尚抵抗するというのは、魔族との戦闘だけはしたくないという事だろう。


 勇者と言えば対魔族と勝手に考えていたが、しかし此処までの露骨な落ち込み様は――。




 魔族の脅威とは騎士や冒険者より、むしろ一般層ほどその影響が強いらしい。


 前線に身を置く戦士と違い、その情報が伝わる頃にはそれこそ脚色され尾ひれの付いたものばかりなのだろう。

 それにオルガの住んでいた森林地帯やエティアの両親の様に、実際に魔族により多大な被害を受けている者も居る。

 そういった事件は更に誇張され伝え聞かされていく。


 何よりディアナは荒事とは無縁の魔導学者だったのだから尚更か。

 思い返せばギ・グウも真っ向からパラディソとやり合う事を躊躇していた。

 地下に来てすぐのゾンヴィーフ戦に、その後のパラディソも無事に征伐出来た事で、一般的な感覚から少しずれていたのかもしれない。


 しかし実際、魔族が現れれば戦闘する事になるだろうから、むしろ今のうちに知っておいて良かったとも言えるか。

 恐らくディアナのこの反応は、俺への信頼感の無さから来ているのだろう。

 ならば、冒険者としての力を見せるのみだ。

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