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第151話「燻る」

 風の街へと戻り、ひとまず女性陣の部屋へと向かった。

 基本は俺よりも彼女達と過ごす時間の方が長くなるだろうから、最初が肝心だ。

 幸いディアナは気の強い方ではない様だから、仲間内で何か揉め事が起きる事は無いだろう。


 出迎えてくれたのはシュウだった。


「ライ様、お帰りなさい。良い仲間は見つか……ったようですね」


 俺の隣に立つディアナを見て――いや、正確にはその胸を見て、シュウは微かに言葉を詰まらせてとぼとぼと引き返して行った。


 ディアナの巨乳に嫉妬したのだろうか。

 いや、また奴隷が女だったからか。

 さすがに女五人を引き連れるパーティなんて俺くらいだし、我ながらどうかと思うが、実際戦力としては並以上の人材ばかりなのだから仕方ない。


 現在部屋には全員が集合している。


 ヴァリスタはベッドでぐっすりと寝ているが、今後ディアナ関連で何かあったとしても、その性格上すぐに文句を言ってくれるから問題は無いだろう。


 椅子に腰掛けていたオルガは、ディアナを見るなりむっとして無い胸を寄せて上げて見せた。

 やめろ、悲しくなる。


 グレイディアも同様に椅子に座っているが、僅かに口元に手をやって何やら考え込んでいる。




 反応はそれぞれだ。

 ディアナと共に椅子に腰掛け、早速紹介に移る。


「彼女は今日から仲間として一緒に行動する事になるディアナだ。仲良くしてやってほしい、特にオルガ」

「え、ボク?」


 軽く頷いて返答する。

 何だかんだ言って緩衝材として機能しているオルガは女性陣の中でも人当たりが良い方だし、ディアナを調教しろとは言わないが、同じ奴隷仲間として上手くやってほしいというのが俺の考えだ。

 ディアナの紹介を終えたら、今度は他のメンバーを紹介しておく。


「あっちで寝てるヴァリスタと、そこのオルガは俺の奴隷だ。出迎えてくれたシュウさんはメイド服を着ているが一般人だから注意な。グレイディアさんは冒険者ギルドの職員。ご覧の通り種族も出生も統一感の無い混成パーティだ。普段はかなりラフにしているから緊張はしなくていい」

「は、はい……」


 といっても緊張しないというのは無理だろうが。


「ただし俺の命令には従ってもらう。基本的に指揮を執るのは俺だから、これは戦闘での生死にも関わる。そこの所はよく覚えておいてくれ」

「あ、あの……もしかして何ですけど……」

「何だ?」

「私も戦闘に参加するんですか?」

「当然だ」

「そんなあ……」


 その恵まれた体格を持ちながら戦闘を嫌うのも、魔導学者だからこそだろうか。

 それはそうか、この性格を見る限り、恐らくそんな危険な戦場に出ない為に魔導学者となったのだろう。

 それが突然奴隷におとされて、戦わされて――それはもう転落人生だろう。


 だがディアナには悪いが、それでもその戦力は手放したくない。


 幸いディアナも物事を把握するのは得意そうだし、色々と説明をしつつ納得させるのが吉だろう。




「まず俺は他者の能力を視る事が出来る」

「能力を視る……ですか?」

「そうだ。だから基本的には勝てる相手にしか挑まないし、迷宮の攻略も今のところは確実にこなせている。死者も出していない」

「土の迷宮も踏破、破壊したしな」

「犠牲を出さずに、迷宮を……」


 グレイディアが付け加えてくれた。


 ディアナは目を丸くして、驚きの表情と共に息が抜けていた。

 どうにもオーバーリアクションな所があるから腹の探り合いといった感じにはなっていないが、塔を登る宣言の時といい土の迷宮踏破に関しての反応といい、こういった話題への食いつきが良い。

 本性の部分は好戦的だったり……はしないか、さすがに。


 興味が湧いているといった所だろう。

 この世界の技術職の事は知らないが、魔導学者というくらいだし物事への関心は広くあると思う。

 魔導具は魔石を媒体として運用されるものだから、迷宮も繋がりは薄くは無いはずだ。


 例えば、そうだ。


「ディアナは魔導学者とかいう仕事をしていたんだよな?」

「え、ええ。そうですけど」

「例えばディアナ一人でも魔石を使って何か物を作ったりとか、出来るものなのか?」

「小物程度なら!」


 食いついた。

 先程までとは別人の様に、ばっと晴れた表情でその巨乳を振るわせてこちらに向き直ったのだ。

 琥珀色の髪がばさりとたなびき、赤い瞳は俺に釘付けで突き刺さる。




 わかってしまった。

 何というか、あれだ。

 このディアナという竜人。


 こいつは異世界のオタクだ。


 自分の興味のある関心事には竜まっしぐらになってしまう、魔導オタクなのだ。

 だから戦闘なんて興味は無いし、命懸けで戦いたくもないが、迷宮や魔石に関しては興味がある。

 そんな感じではないだろうか。


 本来であればディアナは魔導学者として提供される魔石を使い、何処ぞで研究に勤しんでいたのだろう。

 それはディアナにとって生活の一部であり、趣味であり、仕事であった。

 それこそ趣味と実益を兼ねた、という奴なのかもしれない。


 闇市場からの不正な買い上げで俺達の関係は冷え切っている、最悪だ。

 それに戦闘経験無しという事実が相まって戦力としての運用までに時間が掛かると思っていた。

 しかしこの様子を見るに、やり口を変えれば意外とすんなりいけそうな気がしている。




 モンスターを倒し、レベルを上げて、金を貯めて、戦力を拡充する。

 これが塔に至る道程の概要だ。

 実に簡潔だが、金はモンスターがドロップしてくれる訳ではない。


 そこには魔石を入手して換金するというワンクッションがある。

 魔石は街灯に運用されたり、火を出したり、水を出したり。

 生活必需品と言っていいからこそ値が維持され、俺達冒険者の稼ぎとなっている。


 これの一部を例えば――


「これから一緒に戦ってくれるのなら、魔石の一部をディアナが好きに使っ――」

「戦いますよ!」


 ――見事に乗って来たディアナは俺の言葉を遮って手を取った。

 やはり剛腕や剛脚といった肉体強化系スキルは筋肉を別次元に昇華させている様で、その剛腕で握られた俺の手は悲鳴を上げている。

 だが俺は主人、奴隷の主人。


 主従関係の上位者である以上、へたれた姿は見せられないのである。


 ヴァリスタにはどうにか剣術で勝ち越したし、オルガもベッドで捻じ伏せた。

 戦闘経験すら無いディアナに敗北を喫する訳にはいかないのだ。

 歪みそうな顔を抑えると、平静を取り繕って切り返した。


「――お、おう。これから仲間として、よろしくな」

「はい!」


 こうしてどうにか魔導オタクのディアナを仲間として引き入れる事に成功したのだった。

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