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第15話「最弱の冒険者」

 戻って来た受付嬢が、奥へと引き返していくグレイディアを見て、俺を見た。


「グレイディアさんに目を付けられるなんて、何者なんですか?」

「ちょっと変なクラスの、レベル1の凡人ですよ」

「よく言う」


 グレイディアがにたっと笑みを浮かべて振り返っていた。

 なにこのロリババアこわい。


「実力を隠す術でも持っているのか、名無しの小僧」

「やめてくださいよ、本当にただレベルが上がっていないだけですから」

「私の眼を誤魔化せると思うなよ。その能力値が真ならば、赤子ですら龍を撃滅せしめているわ」


 盛大に勘違いしている。

 多分このギルドに居る者であれば俺は蹴られただけで即死するレベルなのだけれども、不覚にも深読みしているのが可愛いと思ってしまった。

 女性に失礼かもしれないが、非常に年齢が気になる。

 グレイディアが奥の椅子にちょこんと座ったのを見届けて、受付嬢が話を再開した。


「あの、よろしいですか?」

「はい」

「こちらにお名前を記入して頂けますか」


 小型の石版を渡された。

 ステータスを表示する石版に名前は出ているはずだが。


「失礼ですが、私共には読めない文字でして……」

「あっ」


 なるほど、考えてもみなかった。

 グレイディアが名無しといったのはこのためか。

 そういえばナナティンも俺を勇者様、他の勇者を戦士達と呼んでいたし、会話は補正でわかっても言語自体は違うのだからそうなるな。

 もしかすればクラスや能力値なんかのテンプレートな部分だけは変換されて見えて、名前などの個人で変動するものは伝わらないのかもしれない。


「恥ずかしながら文字が書けないのですが……」

「はい、代筆しますよ」

「ありがとうございます」


 名前か、どうしようかな。

 シュウを見た限りでは、生粋の村人は苗字が無いっぽいんだよな。

 フルネームだと貴族やお偉いさんに間違われていらぬ問題を呼び込みそうだし、キリサキは浮きそうだから、目立たない略称にしてしまおう。


「名前は、ライです」

「ライ様、ですね」


 受付嬢は小型の石版にチョークのようなものでささっと文字を綴る。

 文字はじんわりと石板に馴染み、消えていった。

 この世界に来て一番異世界っぽい光景な気がする。

 今まではどちらかというとゲームっぽかったしな。


「んお!?」

「どうされました?」

「い、いえ」


 驚いた、ステータスを表示していた石版の「霧咲未来」の文字が消え、読めない文字に書き換わったのだ。

 恐らくこちらの言語で「ライ」となっているのだろう。


 試しにメニューからステータスを開いて見ると、そちらの名前はライと片仮名表記であった。

 思えば他人を見た時も全て日本語で表記されていたのだから、メニューが俺用にチューンされているのは当然ではあるのだが、何だか妙に安心してしまった。


 予想だが、霧咲未来という存在はあくまで「伝説の勇者」という象徴のようなものであって、こちらの世界ではこれまで一個人として定義付けされていなかったのかもしれない。


「ところであのロリバ……グレイディアさんって、何なんですか? 見た所座っているだけのようですけど」

「居るだけで良いのですよ、居るだけで」

「ああ、なるほど」


 あの能力値だしな。

 眼を光らせているというだけで、馬鹿な真似は出来ないという事だろう。

 だとすればこのギルドでグレイディアを知らないのは、俺の様な新参者くらいなのかもしれない。


「それではこちらがギルドカードになります。紛失しないようにご注意ください」

「はい、ありがとうございました」


 カードを受け取ってジレのポケットに仕舞う素振りをしつつ、メニューを思考操作して謎空間に収納した。

 我ながら手慣れたものだと思いつつギ・グウを探そうとすると、マントを少し引っ張られた。


「何で……しょ、う?」


 振り返ると、可愛い少女が居た。

 いや、ロリババアが居た。


「小僧、今何をした? 見た限りでは仕舞う途中でギルドカードが消失したようだったが」

「俺は……手品、そう、手品が得意なんですよ」

「私の眼を誤魔化せると思うなよ」

「ほら」


 俺はズボンのポケットからギルドカードを取り出してみせた。


「ほう」

「どうですか。あっ、種も仕掛けもありませんよ」


 俺は再びズボンのポケットで収納すると、かがみ込んでグレイディアの服のポケットに手を伸ばす。

 訝しむグレイディアに笑いかけてから、そのポケットからギルドカードを取り出した――風に見せた。

 一瞬グレイディアの赤い瞳が輝いた気がしたが、すぐに落ち着き払ってみせた。

 気のせいか。


「す、すご、ごほん。まぁまぁだな。冒険者より奇術師にでもなったほうが良いんじゃないのか」

「これは本来他人に見せてはいけない秘伝の技なのです。泥棒にでも間違われたら事ですからね。淑女たるグレイディアさんですから特別に披露したのですよ」

「口の達者な奴め」


 ふんと鼻をならして再びカウンターの奥へ引っ込んで行ってしまった。

 グレイディアが居る場では軽率な行動は取らない方が良いかもしれない。

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