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第147話「アンバークライング」

 舞台袖から連れ出されたのは琥珀色の髪と赤い瞳を持つ女。

 一瞬の沈黙の後に、嘲笑にも似た声が上がった。

 他の奴隷と同じく首輪に鎖を取り付けられ貫頭衣のみの姿だが、その様は異様であった。


 顔は整っているし、背丈は恐らく俺と同等だろう。

 肉付きも良く、胸等も――あ、これシュウよりも大きいぞ――かなり理想的と言える。

 しかしだ、その女は特異な存在であった。



ディアナ 竜人 Lv.18

クラス ドラグナー

HP 1080/1080

MP 360/360

SP 18

筋力 540

体力 180

魔力 540

精神 180

敏捷 72

幸運 72

スキル 剛腕

状態 隷属



 まず竜人というのは初めて見た。


 その容姿はほぼほぼ人族と変わりない。

 見た限りでの相違点は耳が若干尖っているのと、尻尾が生えているくらいか。

 竜というだけあって、その尻尾の上部は毛ではなく鱗で纏われている様だ。

 反して下部はぷっくりとした撫で心地の良さそうな皮膚が見えており、何というかトカゲっぽい。


 人族寄りのリザードマンといった感じだろうか。


 クラスドラグナーの能力値は、土の迷宮で出会った赤い獅子の様な戦士ヨウのクラス尖兵に近い。

 尖兵が攻撃寄りならば、ドラグナーは若干防御面にも割り振った形だ。

 半面敏捷が大きく削がれているから、本質的には耐えて殴る感じだろうか。


 何よりスキル剛腕、これが非常に大きい。


 俺のスキル取得には存在せず後天的に得る手段の無い、いわゆる先天的な才能――天才という奴だ。

 土の迷宮のアースイーターや、風の迷宮のブレードハーピーの様に、肉体強化系のスキルは規格外の性能を有している。

 竜人ディアナは素が鍛えられていないのだろう。

 その腕に肉体強化スキル特有の膨張は見られず、筋骨隆々とまでは行っていない。


 しかしこれこそが嘲笑の的になった原因であるのは間違いない。

 男と遜色無いレベルにまで筋肉質となったその両腕はやはり異質であった。

 体術や剣術が技術に影響するのに対して、剛腕や剛脚は肉体に直接作用する。


 端的に言えばその身自体が武器になるという特殊なスキルだ。


 しかし恐らく戦闘経験は殆ど無い、もしくは皆無だろう。

 恵まれた肉体と能力値、スキル剛腕もありながら、その他スキルが発現しておらず、その両腕も肉質こそ筋肉が占めているがまだ人並みの範囲。

 またそのレベルも年齢と共に成長する範囲に収まっている。




 戦闘経験が無いという事は、一から教える必要がある。

 若干の手間は掛かる。

 とはいえこれを逃す手は無い。


 これは、逸材。


 この場でそう思ったのは、恐らく俺だけだろう。




「これは魔導学者として魔導具の研究開発を行っていた者です。その知的財産は計り知れないものとなるでしょう――」


 淡々と司会の男が語るが、まともに聴いている気配は見られない。

 それに対して司会もまた気にも止めずに話を続け、終盤でなく中盤に出した辺りからも、その容姿を笑いものにする意味合いが示唆されている気がしてならない。

 何よりこのオークションをセッティングした者は盛り上げるのが上手い様だから、目玉商品である竜人ディアナをこのタイミングで出したのも、売り上げを度外視しての構成だろうか。


 当の竜人ディアナはその赤い瞳だけではなく目も赤く腫らしており、涙目に見える。

 その容姿に対する心無い声に苛まれているであろう事はまざまざと感じさせられる。

 無事に競り落とせたとしても、コンプレックス持ちの彼女を扱うには少し注意が必要かもしれない。


 それにしても、魔導具の研究開発の技能というのは一見有能に思えるが、食いつきが少ない。

 確かに魔石を用いた設備や道具は既に充実しているし、元の世界で言う電化製品レベルにまで浸透、量産されている。

 いや――あまりに充実し過ぎている。


 恐らくそういった専門職や機関があるのだろう。


 だとすると魔導具は生産ラインも確立されている可能性が高い。

 一定の作り手が確保出来れば十分なのだろう。

 だとしたら研究者として購入しても伸びしろがないというか、将来性が少ないという事か。




 何より見た目で損している感が凄い。

 その恵まれた肉体はどう見てもパワータイプだから、研究者としての能力を考える者が居ないのだろう。

 実際、こうして能力を盗み見れる俺もまた戦力としてしか見ていない訳だし。


 そうなると、やはりオークション側はこの竜人ディアナを見世物として設定した可能性が高い。

 剛腕や剛脚の真の恐ろしさを知っているのは直接打ち合った事のある冒険者くらいのものだろうし、此処に集う金持ち連中とは縁遠いスキルだ。

 これはもしかすると、ライバルが少なく済むのではないだろうか。




 若干の安堵と共に競売の開始を待つ。


「――それではこちらの商品、開始価格は金貨三十枚からとなります」


 中途半端に高い。

 いくら見世物とはいえ、それなりに苦労して隷属させたに違いない。

 これが最低金額だから、ここから釣り上がって来るとなると競り落とせるのは二倍辺りを見た方が良いだろうか。


 安く見積もっても金貨六十枚となるか。


 この一日半で用意出来たのは金貨五十枚と、明らかに足りていない。

 しかしこれまでの商品を鑑みると、やはり俺が奴隷に求める価値観は一般的な奴隷像からは乖離している。

 つまりこれを逃すとこういった人材はもう出て来ないかもしれない。


 確実に競り落としたい。


 早速グレイディアから譲渡された資金に手を付ける事になりそうだが、此処で躊躇する訳にはいかない。

 この売買はオークションという闇競売経由だから、これが終われば相手の行方もわからなくなる。

 一度他者の手に渡れば買い上げる機会は無いと見た方がいい。


 能力を見るだけでなく、クライムの様にメモを取り、これまでの傾向や各参加者の金回りの具合を探っておくべきだったか。

 いや、この場で一人日本語をつらつらと書いていたらそれこそ不審か。

 何にしても、後悔先に立たずだ。


 まずは様子を見て、天井を見極めよう。




 人材に次は無いが、金ならまた稼げる。

 出せる資金は白金貨二枚と金貨五十枚。

 多少の損失は厭わない、こいつで確実に競り落とす。

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