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第146話「オークション」

 オークション会場は、僅かながら騒めきも聞こえていた。

 例えばこのオークションに参加している顔馴染みだとか、そういった連中が会話しているのだろう。

 その声は波紋の様に広がって、個々の小さな話し声もどうにもうるさく感じられ――俺自身気が立っているのは確かだった。


 闇の奴隷市場に足を踏み入れた事を後悔している訳ではない。

 しかし多少ならずとも忌避感はある様だ。

 未だ人間らしくある事は喜ぶべきか――。




 塔を登り切るのが最終目的ではあるが、その実一番不安視しているのが勇者との戦闘だ。

 塔の制覇より、勇者との戦闘こそが最終決戦と言ってもいいだろう。

 そしてその最終決戦は避けられるとは思わない方が良い。


 なので地上を圧倒的な力で制圧する為に、対勇者に向けて優秀なメンバーが必要だ。

 今はヴァリスタ、オルガ、シュウ、グレイディア。

 それに俺と、別行動のレイゼイを含めて六人。


 対する勇者は三十人。

 近接職二十人に魔法職十人。

 その内訳は――


 イケメンを筆頭としたタンク十人。

 九蘇を筆頭とした近接物理アタッカー十人。

 ゴリくんを筆頭とした遠隔魔法職十人。


 ――およそこんな具合だ。




 勇者は特化された能力値の持ち主ばかりだから、最低でもタンクを潰せる火力は欲しい所だ。

 そしてアタッカー連中は完全な火力特化型ダメージディーラーだから、その猛攻を凌ぐにはやられる前にやるしかない。

 どちらも十人ずつだから、すぐさまにタンクかアタッカーを潰せれば勝機は見えるだろう。


 だとしても最低でも一線級の戦力が十人は必要だ。


 一瞬それだけで良いのかと思ってしまったが、途方もない数だ。

 何せ俺やヴァリスタほどの筋力値の持ち主は見た事が無い。

 勿論能力値が全てという訳ではない。


 オルガの様に有用な素質を持つ者であれば大歓迎だ。


 最終的にはレイゼイの達人スキルを利用してSPを能力値に変換しドーピングする予定ではあるから、極論を言ってしまえば俺の指揮を忠実にこなせる人材であれば誰でも良いとは言える。

 理論上防御能力を無視した完全火力特化部隊を作り上げ突撃させればどうとでもなるだろう。

 しかし近接アタッカーの勇者は敏捷値もまた膨大となっているはずだから、例えば魔力に特化させて援護射撃に重きを置いたとしても、こちらの前衛を避けて周り込まれれば潰されてしまう。


 防御能力か敏捷性か、何かしら自衛手段を持たなければごく簡単に殺されるという事だ。

 それは捨て駒と言っていい。




 それでは勇者を召喚し戦わせる地上の腐った連中と何ら変わりない。




 いくら外道に染まっても――仲間である以上共に勇者との決戦を戦い抜き、そして塔を登り切る。

 それが俺の理想であり、あの腐った塔の天に住まうミクトラン王家様への下剋上だ。

 あのクズ共には俺達をこの地獄の様な世界に喚び込んだ責任を――いかんいかん、俺の強みは相手の情報を盗み見れる事だ。


 いくら嫌っていても冷静にならなければ勝てる戦も勝てなくなる。


 この調子では地上のミクトランと対峙した時に何を仕出かすかわからない。

 あくまで地上での目的は制圧と、勇者を解放する事だ。

 そこを違えてはいけない。


 オルガを見習って――いや、グレイディアを見習って、普段から冷静に思考する事を心掛けるべきだろう。




 無尽蔵に仲間を増やせば統率が取れなくなるし、ここら辺の匙加減は人対人の問題も絡んで来る為簡単な話ではない。

 俺に一年の命を買われて表面上は比較的従順に見せているオルガでさえその腹の内は知れないし、稀に変態発言で俺を追い詰めて来るし――。

 たった十人でさえまともに指揮を執れるか不安ではある。


 なので少しずつ戦力を拡充し力ある者や信頼出来る者でパーティメンバーの地盤を固めていきたいのが実情だ。

 だからこそアンダーグラウンドに突っ込んでまでオークションに参加する訳だが、果たして吉と出るか、凶と出るか。

 俺が仲間に求める有用性と、地下の者達の奴隷に求める理想像は乖離しているから、こればかりは蓋を開けてみなければわからない。




「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます」


 舞台上から声が聞こえて、物音が一瞬だが静まる。

 中央に立ったのは案内人と同様、小奇麗な男。

 司会進行役といった所だろうか。


 だとすれば――開催の時だ。


「今回も選りすぐりの商品をご用意しております。その数も多くありますので、早速となりますがオークションを開始させて頂きます」


 どれだけの者が違法に捕らえられたのかは知れないが、商品の数は多いという。

 場に飲まれて無駄に金を落とす事態に陥るのが一番厄介だ。

 片っ端から買い漁れる程資金は潤沢ではないしオークションというものに参加するのは初めてだから、まずは様子見と行こうか。




「まずは獣人の娘。格闘術のスキルを有しています。歳は――」


 そうして大まかな情報が開示されていく。

 舞台袖から連れ出されたのは、首輪に鎖を繋がれ、貫頭衣のみを着せられた獣人の少女。

 ターゲットしてその能力を照らし合わせてみると、情報に不備は無い。


 というか横の繋がりで持っている組織だから、ここで間違いが起きるのはまずいだろう。

 もし騙されて商品を買わされた者が暴露でもすれば、そこから情報が洩れて全員検挙だ。

 情報に関しては特別警戒する点は無さそうだ。


「――開始価格は金貨一枚となっております」

「金貨一枚」

「金貨一枚半」

「金貨二枚」


 最低価格も設定されており、それを基準として釣り上げていく方式らしい。

 それらの条件で気に止まった者であれば、手を挙げて自己申告で値段を告げる。

 より高値でも購入するという者が居れば、その値を釣り上げて競り合うという事だ。


 金貨一枚半というのは、金貨一枚と銀貨五十枚という事だろうか。

 普段はどんな雑な店でも銀貨から銅貨までしっかりと値段は告げられるから、オークション独自に発展した速度重視の体系と言えるか。

 まだ価格は伸びていくだろうから、俺には買えて一人か二人か――良さそうな人材を発見した時点で金は惜しまないで注ぎ込むべきだろう。


 この獣人の娘は能力としては特筆すべき点は無いが、重要なのはその容姿だろうか。

 小柄だがかなりの美形で、発育が良いのか出る所は出ている。


 比べてみると、初めて会った頃のヴァリスタはその目付きの悪い暗く落ちた瞳や、痩せこけた様から性別も不明だったが、此処では栄養管理も問題無いらしい。

 ヴァリスタに関しては犯罪奴隷という前提があってこそのあの待遇だったのだろうが。




 そうこうしている内に一人目のオークションも終盤に差し掛かっていた。


「金貨五十枚!」

「金貨五十五枚!」


 そこで価格の更新は止まり、落札された。

 若干どよめきが溢れた辺り、適正価格を大きく逸脱しているらしい。

 開始価格こそ低くあったが、それはとんでもない値段に膨れ上がっていた。


 これを競っていた二人は獣人愛好家の変態親父だろう、間違いない。


 元の値段が低く設定されていたのは、こういった競りを予測し序盤から会場を盛り上げる為だろうか。

 その証拠に次からの商品は開始価格もそれなりの値になっている。

 上手く考えられているものだ。


 俺としてはクラスやスキルで判断したい所だから、こういった美人を巡る意地の張り合いには付き合わずに済む……と思いたい。




 ちらと隣に目を移すと、クライムは先程から競売に参加する様子も無く辺りを見渡しメモを取っている。

 俺にはこの世界の文字は読めないので盗み見るつもりもないが、こういった抜け目のない所がクライムが貴族足りえる所以なのかもしれない。

 そうすると、やはり危険な男なのだろうと思う。




 それからも不備なく順調にオークションは進行した。

 俺は手を挙げる事も無く、腕を組んだまま延々商品の能力を見ては切ってを繰り返していた。

 やはり俺の求める基準は少しずれがあるらしく、若干気落ち気味だ。

 俯いて小さく息を吐き出した時だった。


「オークションも中盤へと差し掛かりました。さて、次はとある流通で仕入れられた見るも珍しい商品の紹介となります」


 その言葉の全てが耳に入るか入らないかといった所で、頭を上げて舞台上へと視線を戻した。

 クライムの言っていた目玉商品という奴ではないだろうか。

 俺だけでなくこの場に居たほとんどの者が反応した様で、確かに一瞬、場に緊張が訪れた。

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