第134話「風の迷宮、突入」
風の迷宮は街の中央。
風が吹き抜けて行く大通りを突き進み、辿り着いた。
広場の中央には巨大な石造りの壁。
その壁には四方に入り口が在り、どうやらそこから外に風が漏れ出ている様だ。
この石壁は人工的な物の様だから、風が全方位に吹くのを抑える役割なのかもしれない。
それぞれの入り口には二名ずつの騎士が立っていた。
冒険者もいくらかおり、どうにも金を払って通行するらしい。
銀貨一枚が通行料で、なるほど、国の持ち物として上手い商売となっている様だ。
塔や土の迷宮も、人気があれば金を取っていたのかもしれない。
一人銀貨一枚で、計五枚を払って正面から風を受けながら壁の中に入ると、広間の中央に幅の広い階段があった。
その階段から風が吹き出ている様で、どうやらこれが風の迷宮の入り口らしい。
階段へと近づくと、しかし強風に襲われる事は無かった。
風速があるから街の隅まで風が届く、という訳ではなく、どうやら一定の風速を維持して吹いている様だ。
この風もまた、魔法の様なものなのかもしれない。
一定周期に吹く風を浴びながら階段へと踏み入る。
暗がりを下り続けて十分程した所で、ふっと風が止み、視界が開ける。
一階層到着。
結構な数の冒険者が入っている様子だったが、誰も居ない。
真っ直ぐ一本道の通路は左右に枝分かれしているが、右の通路も左の通路も、それぞれにその先でまたひとつの通路となっている様だ。
どうやら迷路状ではなく、蜘蛛の巣状なのだろう。
人もモンスターも付近に居ない事を確認し、魔石焜炉を出してオークションの用紙を燃やす。
魔石焜炉を仕舞って、証拠隠滅完了だ。
どちらへ向かうか考えていると、グレイディアからの助言。
「確か右手へずっと行った道の途中に下の階層への階段があったはずだ」
グレイディアの地図では何もわからなかったが、彼女はマッピングされた資料元を見ているから多少は覚えているのだろう。
「では右へ向かいますか。シュウさんが前衛、俺とヴァリーとグレイディアさんが中衛、オルガが後衛で行きましょう」
「わかりました!」
俺は今回からディフェンダー一本が基本となる。
これはカイトシールドを持つとそれだけで敏捷性が殺されてしまう為で、もしもの場合は武器防御の付くディフェンダーでまかなうという少し手荒い考えだ。
勿論巨大な相手となればカイトシールドも持ち出す事になるだろうが、そもそもとして当たらなければ何ともないので基本的に回避の方が優秀なのは間違いない。
服装はシャツにハードジレ、ズボンにコンバットブーツと、マントを羽織っていつもの勇者装備。
ヴァリスタは鋭いロングソードに持ち替えさせた。
これは出血効果の高いロングソードで、風属性のモンスターが出るであろう風の迷宮で嵐のロングソードは無意味だろうから、少しでも効果のありそうなこちらに変更した。
ただ今回は悠長に失血死を狙うつもりは無いので、気休めだ。
服装はシャツとズボン、ベターだ。
オルガはロングボウ。
ヒーラーがメインとなりつつあるので、武器の質はそこまで重要ではない。
ただ未発見時に遠隔攻撃で先手を打つ事でダメージ二倍化の特殊効果始末が発動するので、乱獲を狙う今回は役に立つだろう。
服装はブラウスにハードジレ、ハイウエストなスカートの下にはタイトなズボンと、俺がプレゼントした服をフル装備している。
シュウはブラッドソードとカイトシールド。
いつも通りの装備だ。
そんな事よりメイド服での初戦闘だ。
グレイディアはロングソード。
グレイディアの持ち込んだ普通のロングソードだが、グレイディア自身が剣術の鬼なので正直剣タイプの武器なら何を持たせても並以上の活躍が期待出来る。
ヴァリスタとどちらが上なのかは気になる所だ。
服装はオフタートルのワンピースにタイトなズボン、ロングブーツを履いている。
旅の道中でもそうだったが、何というかスタイリッシュで、その上で動きやすさも確保している。
シュウが先頭に出た所で、その真後ろを俺がキープする。
シュウは硬質化付きのメイド服だが、その下半身はスカート状に隠されているだけで実に無防備である。
これ程戦闘が楽しみなのは初めてだ。
ひとつ、ふたつと通路を抜けた所で、どうにも敵の気配が無い。
そのまま通路の奥に下へ続く階段が見えてしまった。
「オルガ、精霊魔法の索敵に敵は引っかからないか?」
「もう少し先の所に一体居るね。その奥の方になら結構居るみたいだけど」
「よし、一旦そっちに向かおう。モンスターの情報は知っておきたい」
乱獲に当たっては相手の情報は重要だ。
手あたり次第倒していくつもりだが、もし一方的に狩れない相手が混じっていれば酷い事になる。
なので予め出現モンスターは知っておく必要がある。
通路の角から覗くと、そこにはいつか見た浮遊する土偶。
以前は土器色だったが、今回は緑色だ。
エレメントだろう。
エレメント 不定形 Lv.10
クラス ウィンドエレメント
HP 500/500
MP 500/500
筋力 0
体力 0
魔力 400
精神 200
敏捷 50
幸運 50
スキル 風魔法
ウィンドエレメント。
風の迷宮の一階層はレベル10が基本らしい。
能力値はアースエレメントと変わりなく、風魔法の砲台と言っていい。
恐らくだが単純にレベルが高いと魔石の質が上がるはずだ。
俺以外の者には敵のステータスを見て挑むなんて芸当は出来ないが、魔石の質や実戦での感覚で強弱の判断はつく。
この街の冒険者にとって一階層はスルーしていい場所なのだろう。
それならば、下への階段までのモンスターのみ殲滅されているのも頷ける。
「シュウさん、一旦こっちの剣で攻撃してもらえますか」
「任せてください」
シュウに嵐のロングソードを持たせ、エレメントと交戦させた。
やはりウィンドエレメントもアースエレメントと同じく体がぐにゃりと変形し、攻撃速度を殺している。
近接武器とは相性が悪い。
しかしシュウは防御系の能力が高いから、反撃を盾受けした上でオルガが回復魔法を飛ばせば余裕で戦闘が継続出来る。
シュウの攻撃は筋力値そのままのダメージが通っていた。
やはり同属性ではダメージの変動は無い様だ。
もしかすれば同属性でダメージ減衰や吸収が起こるかとも思ったが、そんな事は無かった。
とすると、基本の四属性においてダメージ変動があるのは得意属性と苦手属性のすくみだけなのかもしれない。
火と土、水と風は属性の影響を受けない可能性が高い。
シュウがエレメントに二太刀入れて、倒し切る。
魔石を拾って嬉しそうに手渡して来た。
「どうでしたかライ様」
「素晴らしいですね、最高です」
「ありがとうございます!」
ブラッドソードを返しつつ真面目腐って返答してみせた。
シュウのパンツは黒だった。
いや、俺が渡した物なので知っていたが。
その後別の通路にも移り一階層で計五体のモンスターを倒してみたが、どれもエレメントだった。
そういえば塔の街のギルドマスターヴァンが風の迷宮は魔法を使うモンスターが多くて面倒くさいと言っていた覚えがある。
とすれば、この一階層のエレメントは土の迷宮でいうゴブリンに近いモンスターなのだろう。
恐らくこの魔石も銅貨五十枚、高くて銀貨一枚といった所だし、この感じだと低階層ではモンスターの種類も少ないというのが迷宮の常識となるか。
焦りは禁物だが、今はオークションを控えた時期で、時間は貴重だ。
エレメントしか出ないのであればこれ以上の検証は不要なので、下の階層に移るとする。




