第13話「塔の街」
ようやく復活したギ・グウの後に続き、街へ向かった。
ようやく光の下に辿り着き、目前にそびえるのはどれほどの長さなのか、隅の見えない長大で強固な壁。
この地下でもこういった防壁というものが必要なのだろうか。
俺はギ・グウと共に検問――というには簡素な門番の審査を通過しようとしていた。
槍を脇に防具こそ甲冑だが、ヘルムは被らずだらけ気味だ。
「ギ・グウか、随分早かったな。そいつは?」
「コイツは“上”から堕ちた人族ダ」
「ほう、珍しいな。それに黒髪黒目か……」
「ナンダ?」
「いやな、最近また勇者が召喚されたとか聞いたんでな。一応調べさせてもらうぞ」
一応その勇者の一人だった者です。
とは言えず、そのまま詰所に連れて行かれ石版を持たされた。
城で使ったアレと似ているが、その性能は格別だった。
霧咲未来 人族 Lv.1
クラス 龍撃
HP 120/120
MP 8/8
筋力 60
体力 8
魔力 8
精神 8
敏捷 40
幸運 20
スキル スキル?
石版にはしっかりと俺の能力が浮かび上がり、SPや幸運半減が表示されない事を除けば遜色ない。
これがギ・グウがパラメータを知っていた理由だろう。
そうこうしていると詰所に居た者達がステータスを見て訝しみだしていた。
「レベル1だぁ?」
「壊れ……てるわけないよな。それにクラスは見た事ないし、スキルもおかしいな」
「まさか勇者――」
「んな訳ないだろ」
「ないな」
「それに勇者はクラスに表示されるのは確認済みだろ」
何故俺の顔を見て納得したのか。
全くもってけしからんが、面倒事にならなそうでよかった。
沈黙を貫いていたのは正解だった。
確認済みというのは、もしかしたら地下にも勇者が居るのだろうか。
上で召喚されるよりはマシかもしれないが、結局塔を登っていそうだ。
「んじゃまあ、一応ギルドで僧侶に見て貰ったほうがいいかもな」
「僧侶ですか?」
「ああ、俺達よりは学があるからよ」
はっはっはと笑い、検問は終了した。
ちなみに門番二人に詰所に二人の計四人を見たが、ステータスはだいたい同じようなものであった。
人族 平均Lv.28
クラス 騎士
スキル 剣術 槍術 盾術 光魔法
能力値にブレがあったのは、途中まで他のクラスだった者もいたという事だろう。
それ以外は汎用な騎士といった感じで、能力値は省いていいだろう。
そしてギ・グウが何やらを握らせた事で、俺達は無事に通過して街に踏み入った。
俺は街中を見る暇も無くギ・グウに尋ねる。
「門番ってあれで良いのか?」
「いつもあんなモンだゾ」
「犯罪者とか入ったら危険だろう」
「つってもオメサン上から来た時点でナァ」
「うぐ……」
上から堕ちたという事は、何かしらの不都合があって“消された”という事に他ならない。
そんな俺でも街へ入れたというのは、ある意味ではありがたいが――。
「それってつまり、この街には……」
「まぁなりを潜めているだけデ、そういった手合いも居るだろナァ」
「そういう連中が暴れたら、この街はどうなるんだ?」
「シメられるだけヨ」
ギ・グウいわく、この街にはいわゆるところの純粋な一般市民というのはごく少ないらしい。
というのも、先程の通りザル警備である事もあるが、何より塔の街だ。
冒険者という荒くれ連中がひしめいている訳である。
「ある意味で、しっかりした街だな」
「ここいらの冒険者の拠点だからナァ」
ギ・グウいわく此処以外にも街は存在し、それぞれに塔とはまた違う下へ下へと潜る形の迷宮が存在しているのだという。
それでも一番に難攻不落とされているのが塔であり、また登るという性質も塔特有のものであるらしい。
基本的に街というのは迷宮を中心として発展しているらしく、それぞれの迷宮での特産により貿易も盛んであるそうだ。
「最も塔の上に住んでいる連中はそんな事は既に忘れているだろうがナァ」
そんなギ・グウの言葉を最後に、視線を上げた俺は目を疑った。
「な、なぁ、ギ・グウよ」
「ドシタ」
「俺は上から堕ちた事でおかしくなっちまったのかもしれん」
「ソウカ」
「あ、あれは、おにゃのこの耳ではないだろうか」
獣人 Lv.21
状態 隷属
こんなのが、いくつか確認出来た。
首輪を付けられて素っ裸や貫頭衣一枚で歩かされている者も居る。
あの犬耳の娘なんて歩く度に豊満なちちぶやまが大運動会しているではないか。
非常に目のやり場に困ったので、俺はごく自然な態度で凝視する事にした。
隷属状態なのは別に獣人だけではなくて、中には人族も居る。
どういう趣味なのか、毛の無いゴリラみたいなオッサンを連れている者も居る。
「凄いな、地下街」
「奴隷は見た事ネェノカ」
「いや、ある意味では嫌という程見たが、上では獣人は居ないと聞かされていたぞ」
「そりゃあオメェ、上は人族の天下だからナァ。人族によく似た連中は邪魔だったんだろうサ」
「臭いものには蓋をしろって事か」
自分で言ってなんだが、まさしくその通りだ。
天を覆う地面が上にあり、そこには人族の国がある。
地面だと思っていたその下には、隠される様に俺のような奴やゴブリン、獣人といった者が存在している。
何とも気持ちの悪い構図だ。




