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第124話「風の旅路」

 手元の明かりと、遥か遠方に見える王城の城下町の街灯を頼りに、塔の街からの旅路となる。

 カンテラは全員分を購入してある。

 とはいえ纏まって行動している現状では全員が持っていても燃料の無駄になるだけなので、ひとまず前列中央の俺と、その後ろを歩くオルガだけが持って、他は収納してある。


 特別警戒するものもないが、時折マップを確認しつつの移動だ。

 オルガもMPが回復し次第短時間に細かく精霊魔法を使っているらしいので、例え野盗が現れたとしても、滅多な事では不意打ちは食らわないだろう。


 いや、そもそも野盗とか居るのだろうか。

 思えば俺みたいな怪しい奴でもなれる冒険者という職業があるのだし、その冒険者も魔石という日常生活に浸透した安定的な収入源があるのだから、そうそう職にあぶれる事も無いと思うのだが。

 どうせこの暗闇を延々歩く旅路では時間はいくらでもあるのだから、わからない事はグレイディアに聞いて解決しておこう。


「グレイディアさん、この地下には野盗とか居るんでしょうか」

「居るな」

「もしかしてこうして歩いていると突然襲われたりします?」

「さてな。私は随分塔の街からは出ていないから実状は何とも言えんが、又聞きだが金になるモノを持っていそうな連中が狙われているというが。私達はお前の能力でほぼ手ぶらだし、そこまで心配は要らないんじゃないか」

「なるほど」

「ともあれ注意するに越した事はない」




 それから昼前には城下町付近に辿り着く。

 塔の街と同様外壁に囲まれており、巨大な門の先には街灯が眩しい。

 あそこで昼食にしたい所だが、今回は迷宮での長期滞在に備えての予行演習でもある。


 このまま城下町へは寄らず、遠方をぐるりと回る様にして城下町を避けて通る。


「ライ、どうしてこんな遠回りするの?」

「あー、何だ、その……」


 ヴァリスタの純粋な質問に答えづらい。


 城下町へ入るという事は検問を通る事になる。

 通行した履歴が残るという事だから、下手をするとフローラに筒抜けになって王城から出て来る可能性がある。

 もしかして俺が見つかった時点で連行しようとするかもしれない。


 いや、我ながら馬鹿みたいに飛躍した発想で話す気にならないのだが、しかしフローラとの接触は結構な問題だ。

 何せ姫だから邪険には出来ないし、かといって優しくすると襲い掛かって来そうだし――以前の様にきっぱり断ってもいいのだが、あまりやり過ぎてフローラに悪影響が出るとさすがにボレアスパパが動き出しそうだ。

 なので出会わないというのが賢明だ。


 身分差があまりに大きいので、正直対応に困る相手なのだ。


「出来ればフローラ姫に会わないように動きたいんだよ」

「フローラは敵なの?」

「いや、敵じゃない。間違っても剣は向けるなよ」


 ヴァリスタは忠誠心が高いというか、俺に対しては妙に素直で命令を違えないから、敵と言ったら抹殺するまでありそうだ。

 グレイディアが訝しんで、裾を引っ張って来る。


「姫と面識がある可能性は想定していたが、何かあったのか?」

「何かというか、ナニというか……」

「お前なあ……。節操が無いとは思っていたが、まさか一国の姫に手を出して知らぬ存ぜぬで通せると思っているのか」

「えええ!? ライ様がお姫様と、こ、子供を……」

「ご主人様、いつの間に?」

「やっぱり敵なの?」


 シュウが良からぬ想像をして真っ赤になってしまった。

 確かにフローラの腋と尻は素晴らしいが、手は出していない。

 あの時だってシュウの尻を思い出して相殺していたくらいだし、俺は本来理性の保てる男なのだ。


「そういった事実はありません、断じて。敵でもないし」

「ふむ。であれば何があったのだ」

「どうにもフローラ姫が俺の事を好いているとの事で告白を受けたのですが、きっぱりと断らせて頂きました」

「なるほど、冒険者として活動するならば賢明な判断だな」


 そこまで言って、グレイディアはふっと笑ってお道化て見せる。


「とはいえライ・ミクトランというのも悪くは無いと思うがな」

「やめてくださいよ。それでは自由に動けなくなってしまうでしょう」


 そう、問題なのは俺の自由が奪われる事だ。

 軍隊強化に携われだの国政に関われだの言われてはたまったものではない。

 とにかく力を蓄えなければならないのだから。




 城下町を迂回して通り過ぎ、少し進んだ所で街道を外れ小高い丘で休憩とする。

 街道と言ってもよく人が通るから草が剥げて踏み均されているというだけで、特別目印がある訳ではない。

 こういった所にも街灯の様な灯りを設置すれば良いのだろうが、何かしら設置出来ない理由があるのだろう。


 布を取り出して地面に広げると、そこに腰掛ける。

 小休止、水の入った桶を取り出して、コップに注いで飲む。

 保存食の肉――ジャーキーの様な物を取り出して全員でただ無言に噛む。


 まずい。


 いや、腐っても肉だから特別味が悪いという訳ではないのだが、何かこうひもじい気分になる。

 もっとすんなり馴染めるかと思っていたのだが、精神的にまずい。

 ヴァリスタ等はこれでも満足そうだが、他の者はやる気が出ないだろう。


 今のところは短期的にこういった食事をするだけで済むが、塔を登るとなると六十階層をこのジャーキーやらスープやらで持たせる事になる。

 パンもあるが、日持ちする物となるとまた硬い。

 ここに来て迷宮攻略には食料も重要な要素だと痛感した。

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