表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/232

第123話「旅支度」

 オルガの突撃夜這い訪問を受ける事も無く目覚めた。

 オルガの変態的な行動は犯罪奴隷であるヴァリスタを心配してのものだったが、その不安も取り除いたし、何よりあの夜は散々な目に遭わせたので懲りたのだろう。

 これで安泰だ。




 カーテンを開けて、朝日代わりの街灯を浴びる。

 本日も空は暗黒なり。

 今日は風の街へ向かう旅路の初日、出発日だ。


 旅と言っても、この空の塞がれた世界においてはカンテラの明かりを頼りにただ歩くだけだ。

 さんさんとした太陽の下で弁当を広げてシュウとの淡い恋路に発展する訳でもない。

 忌々しい天蓋だ。


 そんな色惚けた考えは捨て置いて、出発前にやるべき事がある、

 まずは謎空間に入れておいたリンゴの様な果物の確認だ。

 カンテラが火を維持出来ていたのだから大丈夫だろう。


 そう思って取り出して見ると、柔らかな感触が俺の右手を襲った。


「駄目だな」


 腐っているというより、熟し過ぎている感じだろうか。

 廃棄してよく手を洗って、考える。


 カンテラが大丈夫だったので、てっきり謎空間は時間が止まっているものと思っていた。

 リンゴが駄目という事は、生物は謎空間内でも時間が進んでいるという事だろうか。

 こうなると、やはり保存食が基本になりそうだ。




 ふと、機能拡張系のスキルで唯一取得していなかった収納拡張のスキルを思い出した。


 機能系はどれも説明が雑で、効果がわかりにくい。

 これも収納を拡張するとしか書かれていないから、収納出来る量が増大するスキルだと勝手に考えていた。

 素の状態で十分な能力というのもスルー要因だったが、もしかすれば生物も保存出来る様になるかもしれないし、この機会に取ってみるか。


 とはいえどう取得するか。


 俺のSPはメニューの取得で1消費してしまっている。

 機能系は1SPで取得出来るが、かさむと後に達人スキルを使える様になってからの使用回数に響く。

 出来る事なら攻撃に特化した能力値を持つ俺とヴァリスタのSPは温存したいところだ。


 基本的に盾持ちだろうが高火力で上から叩くのが安定しており、防御能力を抜いてHPを削り切れば戦闘不能に追い込めるので、火力の増強は重要だ。


 グレイディアは5SPだけ残っていたはずなので、それを利用して取得させてもらおう。




 女性陣は別に部屋を取っているので、そちらに訪ねる。

 ノックをすると、少しして返答があった。


「どちら様で」

「ライです」

「どうした、こんな早くに」


 出迎えてくれたのはグレイディアだった。

 だぼっとした寝間着を着ており、小首を傾げて見上げるその姿は完全に子供だ。

 そういえばこの世界では製造技術の問題か、既製品には大中小の大まかなサイズしか無いから、昨日着ていた可愛げのある服は特注品だったりするのだろうか。


「何かほっこりしますね」

「はあ?」

「少し用があって来たのですが」

「皆寝ているぞ」

「大丈夫です、グレイディアさんへの用件なので」

「ふむ」


 中央の机を挟んで椅子に腰掛けた。


「それで」

「取得したいスキルがありまして」

「良いぞ」

「ありがとうございます」


 この話の早さたるや。

 もはやこれで二度、三度――何度も頼っているのだから、それはそうか。

 グレイディア経由で収納拡張を取得し、効果は不明だが何かが強化された……のだと思う。




 部屋の奥には左右にふたつずつのベッドがあり、用事を終えてふと目を向ける。


 右手前にはシュウがぐっすりと寝入っており、その奥は無人でグレイディアが寝ていたのだろう。

 左手前にはヴァリスタがこれまた熟睡しているが、王城で貰いそのまま普段着とした可愛い白のワンピースがはだけてしまっている。


 椅子から移動してその横に立つと、むにゃむにゃと何やら夢心地の様だ。

 相変わらずだなと思わず笑みが零れてしまう。

 敏感であろう尻尾に触れない様にその服を整えていると、グレイディアが微かに笑う。


「何ですか?」

「ふふ、見直したというか、何というか」

「珍しく歯切れ悪いですね」

「別にいつも食って掛かっている訳じゃないさ」

「いつもそうだと良いのですが」

「良いのか?」

「いや、やっぱり普段通りでいいです」


 グレイディアの持ち味は疑り深さだろう。

 俺には無いこの地下の常識を持っているから、それを殺すのは得策じゃない。

 俺が好き勝手に動く分には一歩後ろを付いて来てくれた方が楽だが、時として引っ張ってくれる仲間も必要だろう。





 ヴァリスタの服も整え、起こすのも忍びないのでベッドから離れようと思った時、オルガの長耳がぴくりと動いているのが見えた。

 起きているのか。


「オルガ?」


 ヴァリスタを起こさない様小さな声で問いかけると、片目をほんの少し開けてちらと様子を窺った様だ。

 丸見えなのだが、大丈夫か。

 これは手を出すまで寝たふりを決め込むつもりらしい。


 仕方ないので軽く肩を揺する。


「朝だぞ」

「あっ……ご主人様、こんな朝早くからダメ」


 本当に懲りないな。

 気兼ねない相手なので許せるが、これが某お姫様――フローラだったりすれば、さぞ対応に苦心した事だろう。

 フローラもその警護だったエニュオもこういった性格ではなかったのは幸いだ。




 それからひとつ目の鐘が鳴り地下での朝が訪れた所でヴァリスタとシュウを起こし、朝食を摂る。

 食休みを挟んで今回の旅で必要な水を桶に大量に汲み、食材も購入。

 食材と言っても干し肉や乾燥させた野菜等、主に保存食だが。


 本当は生物の方が美味しい食事になるのだろうが、腐らせてしまうと元も子もないので仕方ない。

 今回も実験用にリンゴの様な果物を放り込んで置き、経過を見てみようと思う。

 後は食材調達と共にグレイディア用の食器も揃えて、全てを謎空間に収納して準備完了だ。


 この世界に来て初めての長距離移動となる。

 いざ、風の迷宮街へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ