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第121話「届かない言葉」

 静かになった所で、すぐさまにエティアは先程の文を指差して質問して来る。

 俺は何者なのか、と。


「誰にも言わないって約束出来るかい」


 小さく頷いたのを見て、教える事を決意する。

 俺が普通ではない事は既にばれているので、むしろ下手に隠した方が詮索されたり危険だろうという判断だ。


「俺は地上から来た。エティアちゃんにしたように、変な力を持っている。それで今は塔を登る為に奮闘中の、ただの冒険者だ」


 エティアが目を輝かせる。

 この無垢な感じは嫌だな、何を考えているか大体予想がつく。

 再び筆を走らせたエティアの文には「一緒に連れて行って」とだけ書かれていた。


「それは、出来ない」

「……」

「俺はきっと君の思う様な男ではないから」


 格好付けて断ってはいるが、正直に言えば、連れて行きたい。


 タンクの俺、シュウ、グレイディア。

 アタッカーのヴァリスタ。

 ヒーラーのオルガ。


 一見充実しつつある俺達のパーティで唯一足りないのはヒーラーだ。

 オルガがヒーラーとして機能しているのはその類稀な理解力によるもので、能力としては決してヒーラー向きではない。

 アタッカーは俺もシュウもグレイディアも、オルガですら兼任出来るし、現状弱いのが回復性能なのだ。


 そしてエティアは完全にヒーラー特化型の能力を有している。


 しかし俺の弱い所か、もしエティアを連れて行き、その旅路で衰弱死でもさせてしまったら――そう思うと、とても連れて行くとは言えなかった。

 それでもエティアは食い下がらなかった。

 今度は短く「どうして」と。


「今の君には体力が無い。俺達は迷宮攻略をしたり魔族を倒したりしているが、これに君を連れて行ったとして、もしもの事態になってからでは遅いんだよ」


 エティアはがくりと肩を落とした。

 落ち込ませてしまったが、もう追及は無さそうだ。

 早く休ませてやりたいところだが、ここからはこちらの話に答えてもらおう。




「ジャスティンを知っているかな」


 こくりと頷く。


「君は奴に何かされたか?」


 首を振る。

 ジャスティンではない、という事か。

 エティアが筆を走らせ始めたので、回答を待つ事にする。


 しばらくして書きあがった文をグレイディアに要約してもらう。


「帰宅途中にジャスティンに会い、神官へのクラスチェンジが可能だと聞かされついて行ったらしい。宿の一室でクラスチェンジを行っただけだと」

「その、クラスチェンジが可能かどうかはわかるものなんですか?」

「さてな。私は神官ではないし」


 自然と視線がエティアに向かう。

 エティアはすぐに文字を書き始める。


「何となくわかるそうだ」

「何となく、ねえ……」


 神官の特殊能力だろうか。

 いや、パーティ編成やクラスチェンジに関しては、もしかすれば神聖魔法だって俺以外は神に祈るというスタイルで発揮しているのだろうから、例えば信仰心が強い程その効力が強くなるだとかそういった副次効果があってもおかしくはない。

 オルガの精霊魔法にしても何故か効力が他のエルフより高いのだから、ここは異世界人の俺が真面目に考えて理解出来る部分ではないだろう。


「という事は、その後は特に何事も無く暮らしていた?」


 エティアは目を瞑って思い出している様で、しばらく静かに待っていると、返答が来た。


「よく覚えていない。だそうだ」


 その時点で魔族に乗っ取られていたという事だろうか。

 憑依されている間は魔族の意識が表出しているから、その間の記憶が無くても不思議ではない。


 こうなると真相は迷宮入りか。

 そういえば、僧侶達の言が正しければジャスティンがエティアを神殿に連れて行ったという話だったが、ここの所も謎となってしまった。

 例えば魔族に操られてふらついていたエティアを親切心に神殿へ送り届けただけかもしれないし、どうにも釈然としない結末だ。


「ジャスティンは警戒しておくだけで良いでしょうか」

「だな。それに何か企んでいるのならその内に行動を起こすだろう。幸いこちらにはオルガの精霊魔法があるのだし、もしまた魔族が生み出されて後手に回ったとしても最速で叩けるのだろう?」

「そうですね。憑依型は危険ですが、俺は“視える”ので最悪仲間だけは守れますし」


 アイドル魔族にしても神殿を拠点として内部から破壊するつもりだったのだろうから、潜んでいたとしても何かしらの痕跡を残すはずだ。

 アイドル魔族の様に魔族召喚なんてして大きく動けばばれるし、逆に小さく動けば何も出来ないし、他種族を蹂躙する事が魔族の本能なのだろうから、何処かで尻尾を出す事になる。

 初めての事態なので混乱が大きいのだろうが、結局大局的な変化は無かったのではないだろうか。




 うつらうつらと眠気眼になりつつあるエティアに気付いて、話を締める事にした。


「突然押し掛けて迷惑掛けたね、エティアちゃん」


 首を振ったエティアは紙に書いた文章の「連れて行って」という部分を指差した。

 その手を握って、紙を取り上げる。


「まだ無理はするべきじゃない。よく休んで、とにかく今は回復する事を優先してほしい」


 今にも眠りに落ちそうで遅れて反応するエティアをそっと寝かせてやると、すぐに寝入ってしまった。

 こんな黒ずくめの男が居る前でぐっすりと眠ってしまう辺り、やはり体力は限界に近い様だ。

 とはいえしっかり睡眠が取れているという事は、後遺症は残ったが回復しつつあるという事だろう。


 睡眠というのは体力回復に必要だが、同時にエネルギーを消費する行動でもある。

 だからこそこうして安らかに眠れている内は大丈夫だろう。

 よく食べて、よく寝て――そうして後は時間が解決してくれるはずだ。

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