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第119話「仲間として」

「エティアちゃんのお見舞い、ですか?」


 俺がそんな事を口走ったのは、明日には風の街への出発を控える昼下がり――といっても太陽は無いが。

 別室ではオルガが新調した服に着替えてほくほく顔だった頃だ。


 明日へ備えて合流する運びとなっていたグレイディアが訪ねて来て、聞かされた。

 いつもの受付嬢の服装ではなく、シャツにカーディガン、ズボンと、帯剣しているがかなりラフな格好だった。

 そんなグレイディアと俺だけの街灯が射し込む静かな部屋で、淡々と説明が始まった。


 先の魔族征伐戦で重症を負って眠り続けていたエティアの話だ。

 今朝方目を覚ましたが、未だ衰弱状態だという。

 その為、取り調べは控えられており、今は騎士と冒険者との警護を付けられ自宅で安静にしているらしい。


「しばらくこの街には戻れなくなるだろう。であれば会う機会はそう無いと思うぞ」

「それは……」

「どうなるか、知れんしな」

「そうですね……」


 それは、そういう事なのだろう。


 机を挟んで向き合って座った俺達は、一瞬だが憂鬱な雰囲気に包まれた。

 いくら能力値だとかが目に見える世界でも、血が無くなれば意識を失うし、頭が潰れれば死亡する。

 奴隷商の地下で檻に入れられた奴隷の中には、病気に掛かっている者の他に四肢に欠損のある者だっている。


 ましてや喉に刃が突き込まれたエティア。

 その風前の灯火が意識を取り戻すまでに至ったのは、それこそ奇跡に近い。

 もしかすれば、ようやくと血が馴染んで来たのかもしれない。


 何せ本来人族の持たない吸血スキルで強引に俺の血を輸血したのだから、その効力が十全に発揮されるかは賭けだった。

 スポイトマジックによる超効率の回復と、エティア自身の潜在的な光属性への適性も手助けしたのだろうと思う。

 その後にどこまで持ち返すかは、まるで予測がつかない。


「それに何より、ジャスティンについても聞いておいた方が良いのではないか?」


 確かにそうだ。

 グレイディアは問い掛ける様に言ってくれてはいるが、選択肢は無い。

 これは俺――ひいてはこのパーティ全体の為でもあり、それを断るというのは俺を信じて仲間となったグレイディアの信頼を踏みにじる行為に等しい。


 ジャスティンという存在は今や危険な不確定要素だ。

 これが先の魔族出現の元凶であったのなら、迷宮攻略なんて放って、俺達にその魔の手が伸びる前に叩き潰す必要がある。

 とはいえ本来なら衰弱した少女に根掘り葉掘り聞くべきではないのだろうが……。




 暗い話を断ち切る様に、グレイディアはおもむろに革袋を取り出して、机の上に中身を出した。


「さて、判断はお前に任せるとして、とりあえずこれが私の全財産だ」

「銅貨と銀貨がいくつかと、白い硬貨が二枚ですか。これは?」


 椅子から立ち上がった俺は、その小柄には若干高い椅子に足をぶらつかせるグレイディアの下に寄る。

 手に取ってみた白い硬貨は見た事が無い物だ。


「知らないか、白金貨だ。金貨の上だな」

「始めて見ました。どれくらいの価値なんですか?」

「金貨百枚分だな。使う機会もないが、持ち歩くには便利だろう」


 超高価な硬貨だった。

 そっと机に戻して、グレイディアの対面に座り直す。


「その一枚で金貨百枚分なら、便利どころかむしろ危険じゃないですか」

「なに、そうそう無くす事もないだろう」

「いやいや、盗まれたりしたらどうするつもりですか」

「これからはお前が守ってくれるのだろう?」


 にこりと屈託の無いロリスマイルを見せてくれた。

 俺は目を見開いて、別人がすり替わっているのではないかとステータスを開閉しまくった。


「ライよ、何か知らんがむず痒い」

「ああ、すみません」


 鋭敏スキルのせいで俺のターゲット表示も感知してしまうのだったか。

 それにしても、やはり吸血スキルが無くなったせいか、どこか変質している気がする。

 いや、むしろ今まで吸血の効果を自分自身で恐れ、無意識に他者と距離を取り、壁を作っていたのかもしれない。


 それが崩れてロリババアのババア成分が緩和されたというのか。

 これは退化というのか、進化というのか、何はともあれ無邪気に反則技を使って来るようになった。

 厄介なのは無意識だろうという事だ。


「何はともあれ、仲間は守りますよ」

「そうか。頼りにしているぞ。だがな」

「何でしょうか」

「確かに持ち歩くのは危険かもしれない」

「それはそうでしょう」

「なのでお前の謎空間とやらに入れておいてくれ」


 そう言って、白金貨二枚を含め全てをこちらに寄越した。


「白金貨を二枚とも、俺に預けるという事ですか」

「仲間だからな」


 結局、最初から俺に明け渡す腹積もりだったらしい。

 だとすれば、有り金全てをこの白金貨に両替する為にこの日まで別行動していたのかもしれない。


 これほど高価な硬貨がホイホイ使われるとは思えないし、何より両替時にたった一枚でも不正があれば事だ。

 正確な確認の為にも時間が掛かるのだろう。

 準備したという荷物も衣類や生活用品を詰めたリュックを背負って来ただけだし、一枚上手というか、何というか。


「わかりました。責任を持って預からせて頂きます」

「ああ、好きに使ってくれ」

「あのですね。白金貨一枚はありがたく活用させて頂きますが――」

「私はお前のパーティメンバーだぞ。その資金もまたパーティとして使われるべきではないか? それに奴隷だろうと仲間は対等に扱うべきだと言ったのはお前自身だと記憶しているが。私だけ特別扱いされては、仲間達に顔向け出来ない」




 言い包められて、結局パーティの資金として白金貨は二枚とも俺の手に渡った。


「せめてこれは持っていてください。何があるかわかりませんから」

「そうだな――」


 銅貨や銀貨は革袋に戻して、グレイディアに返した。

 元々半分を資金として受け取るという話だったのだから白金貨一枚も返したい所だが、それを含めて突っ返すと口論になるだろう。

 そして俺がグレイディアに口論で勝つビジョンが見えない。


「――だが、白金貨の運用はお前に任せる」

「良いんですか、本当に。グレイディアさんが思っている程、俺は立派じゃありませんよ」

「構わないさ。その時は見る目が無かったと諦める」


 その真っ赤な血色の瞳には、迷いは見られなかった。

 ここまで言ってくれるのだから、せめてグレイディアに文句を言われない様に使わせて貰うとしよう。

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