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第113話「行動原理」

 長い夢を見ていた気がする。

 オルガを襲った夢だった、やたらめったらリアルな感覚だった。

 夢の中で「好きかわからない」と言われた時は、それはもう「俺の暴れん棒勇者しか考えられなくしてやるぜ」等と訳のわからない事を考えていた気がする。


 性欲というのは恐ろしい。


 寝返りを打つと、白緑の髪と長いエルフ耳の――オルガらしき者が眠っていた。

 同じベッドに、布に包まっていた。

 寝返りを打ち直し、俺は考える。


 果たしてあれは、夢ではなかったのではないだろうかと。


 俺の服はトランクスだけだ。

 シャツとズボンを履いていた気がするが、誤差の範囲だと思いたい。

 そうだ、寝ている間に脱いでしまったのかもしれない。

 起きあがってみると、床に衣服が散乱している事に気付く。

 俺の大好きな黒下着がある。


 おもむろに沈静化している息子へと手を伸ばしトランクス越しに触れてみると、少し湿っていた。

 視線を落とすとベッドシーツもまた濡れた形跡があり、乱れている。

 しわの出来た白いシーツには、赤い染みも見えた。




「やっちまった」




 思わず呟いて、無意識にオルガらしき者へと視線を向ける。




「おはよう、あなた」




 起きていたのか、布一枚だった胸元をわざとらしく腕で覆って嫌な言葉を投げて来た。

 間違いない、こいつはオルガだ。

 俺は頭を抱えた。




「ごめんなさい。もうあなたなんて言わないから」

「はいはい」

「ね、ねえ、ご主人様。怒ってる?」

「は、何で?」

「だって、ほら、本当はボクの事、好きじゃないんでしょ?」

「いや、別に」


 オルガは食い気味に質問を浴びせて来た。

 ただシュウの肉体が極上に俺好みなだけであって、別段オルガを嫌っている訳ではない。

 そしてオルガいわくエルフと人族は子供が出来にくいらしいので、正直安堵している部分がある。

 これが欲望に任せてシュウに手を出していたらどうなっていた事か。


「そっか、じゃあこれでご主人様も少しは改心した?」

「改心? 何をだ?」

「元の世界に戻るの、止める気になったかなあ……なんて」

「お前さあ……。そんな事の為に純潔散らして、悲しくならないか」


 オルガ以外の女であれば、こんな事は言えないだろう。

 いびり倒されるか、ぶん殴られるか、慰謝料請求されるか、普通ならそうなる。

 そんな変な信頼感のあるオルガだが、少し悩んで、頷いた。


「うん」


 それだけだった。

 微かに笑みを湛えて、それだけ答えたのだ。

 そうして呆気に取られた俺を見て、オルガは付け加える。


「ご主人様は元の世界に戻るだけで済むけどさ。残されたボク達はどうなるの?」

「そいつは……」

「ううん。ボクとシュウは良いよ。でもヴァリスタは? ヴァリスタは犯罪奴隷だって聞いたよ。ご主人様が元の世界に戻ったら、奴隷として売られちゃうんだよ?」

「お前……その為にここまでしたのか?」

「だって、仲間だから」

「そうか」


 本当に、どうしようもなく良い女だと思う。

 だが――


「だが、俺を信頼してくれなかったのは、少し悲しいな」

「ち、違うよ! だって、そんな、どう言えば良いのさ」

「さっきみたいに言えば良かっただろう」

「それは、ほら、既成事実があるから言えた訳で……」

「お前なあ……」


 ――どこまでも打算的な女でもある。

 それでもまあ、ヴァリスタを考えてくれていた事はありがたい。

 オルガは人当たりが良いから、無口なヴァリスタとも仲良くやってくれている。


「それに全てが終わった後の事は一応考えてある」

「そう……だったの?」

「その時になったらヴァリーはシュウさんの奴隷として契約してもらう。塔の攻略までに一年も掛けるつもりはないから、オルガもそうなるな」

「一年以内……」


 オルガは白い肌に暗く影を落とした。

 体を張って得た答えがこれだ、それはショックもあるだろう。


「それにどうせ戦力拡充には金が必要だ。戦力が拡大してくれば収支の幅も大きくなるだろうが、一度整ってしまえば収入は安定するだろう。そうなったら金を貯めて、せめてヴァリーが……皆が生活を送れるだけの物は遺すよ」

「ヴァリスタは愛されてるね……」

「娘みたいなものだからな」

「うん……うん!?」

「ん?」

「ご主人様ってヴァリスタが一番好きだったんじゃないの?」

「好き? それはまぁ可愛いからな」

「じゃあやっぱりシュウよりヴァリスタの方が……」

「おい待て、俺を何だと思っているんだ。あんな小さな子をそんな目で見るかよ」


 オルガは口を半開きのまま呆然とした。


 そういえばいつかレイゼイにもロリコンロリコン罵倒された記憶がある。

 俺はそんな変態に見えるのだろうか。

 何だか物悲しくなりながらも、久々にすっきりとした朝を迎えたのであった。

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