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第112話「嘘が誠の一夜情」

 ディフェンダーを拾い上げた先に目を向けると、魔石も遺っていた。


 中くらいの魔石。


 これが、パラディソの命の価値だというのか。

 ドラゴンの魔石よりも遥かに小さい、これが。


「ライよ、気負うな。お前の闘いは間違っていない。大勢を救う為に、時として個が犠牲となるのはやむを得ない。それが魔族であるならば尚の事にな」


 グレイディアの言葉に小さく頷いて、そう納得する事にした。


 俺達は誰一人レベルアップしていなかった。

 それはパーティメンバーとなっていたパラディソへトドメを刺したからだろう。

 だが、それがミスだったとは思えなかった。


 何にしてもパラディソとアイドル魔族を始末する必要があった。

 俺達がやらずとも、違いは誰の手に掛かるか、それだけだ。

 今回の魔族征伐戦は誰一人の死者も無く成し遂げられた。


 それが全てだ。




「ライよ、これがその魔法陣か」

「その様ですね」


 教会の奥、廊下を進んでひとつの部屋に、それはあった。

 部屋いっぱいに円形が描かれ、その円の中にいくつもの線が引かれ、何かの形を成している様だ。

 アイドル魔族の言っていた魔法陣とやらをグレイディアへと話した事でこうして捜索する運びとなったのだが、見つけたそれは何やら液体で描かれている様だった。


「これは、魔力水か?」

「何です?」

「魔力を回復する薬だ」


 魔力に近しい薬品だから、魔力へ反応するのかもしれない。

 それで魔力を集める場を作り上げたとか、そういう事だろうか。

 恐ろしい。


「これって魔法陣を量産出来るんじゃないですか?」

「いや、魔力水は安価な物ではない。これだけでも相当な額になっているだろう。だいたい何処から持ち込んだのか……」


 不明な要素は残ったが、それは冒険者ギルドや国や――そういった組織に任せる。

 俺が個人でどうにか出来る問題ではないし、魔族が出れば叩くだけだ。

 魔族征伐戦で活躍するだけで十分貢献出来ているのだから、頭を使うのは上の者の仕事だ。


 何よりこの世界では俺の知識は子供以下だ。

 下手に足を突っ込んで泥濘にはまっても馬鹿らしい。

 だから冒険者としての活動に勤めるだけだ。




 グレイディアが魔法陣の円を踏み、足を前後させてその文様を一部だけ擦り崩した。

 どうやら少しでも形を崩してしまえば効力は無くなるらしい。

 文様が崩れたのを確認して振り返ったグレイディアは、穏やかに俺を見上げた。


「さて、ご苦労だったな。今はギルドも混乱しているだろうから、報酬はまた後で受け取りに行くと良い」

「わかりました。所でエティアちゃん……あの少女はどうすれば良いのでしょうか」


 病院なんてあるとも思えないし、こういった場合エティアはどうなるのだろうか。


「あれはこの街に肉親が居たはずだ。重要な情報を持っている可能性もあるし、ギルドが責任を持って送り届けよう」

「そうですか。それではよろしくお願いします」




 これで今回の魔族征伐はお終いだ。

 かなり疲れた。

 主に精神的にだ。


 教会の入り口まで戻り、仲間達と合流する。


「宿へ戻るぞ」

「ライ?」

「ライ様……」

「ご主人様、大丈夫? 顔色悪いけど」

「大丈夫だ」


 それほど顔に出ていただろうか。

 溜め息が出そうになるのをぐっと堪えて歩き出すと、教会の前でギ・グウが待っていた。


「ヨォ、オメサン今回はスゲエ活躍だったナ」

「そうか? ギ・グウが来てくれたおかげだな」

「ヨセや、こっぱずかしイ。それじゃあオラは騎士団と合流するからヨ」

「おう、世話になったな!」


 こうしてギ・グウとも別れ、宿へと戻った。




 胸糞悪くて、高級宿でどれほどか、眠り続けた。

 二部屋分の金を払い、飯代を払い。

 女性陣には着替えを全て渡して、俺は一人で食事を済ませ、寝ていた。


 首を叩き落とした時の感触を思い出して、目覚めた。

 夢を見たのだと思う。

 パラディソにトドメを刺す夢を。


「休んでばかりも、居られないよな」


 何故これほどまで胸糞悪いのか。

 ゾンヴィーフだってパラディソと同じ魔族だ。

 命の価値は等しいはずだ。

 それも魔力の塊だ。

 根本的に人とは違うのに、だ。


「ふう……」


 とりあえず、あれだ。

 土の迷宮から連戦の様なものだったから、色々溜まっている。

 この溜まりに溜まったものを解放しなければ、戦闘中にシュウの尻に飛びついてしまうかもしれない。




 扉をノックされて、ベッドから起き上がる。

 時刻を見ると、二十二時。

 ヴァリスタなどは夢の中で肉の海に溺れている頃合いだ。


「どなたですか」

「ご主人様、ボクだよ」

「オルガか」


 扉を開けると、白緑の髪に深緑の瞳――シャツにスカート姿のオルガが居た。


 シュウのスカートを借りたのだろうか。

 オルガが入室してから扉を閉め、ベッドに腰かける。

 寝起きで若干元気になってしまっている部分があるので、椅子はよろしくない。


 カーテンは開けていないので、直接街灯が入らず暗がりだ。

 隙間から微かに漏れて入る光だけが光源で、しんと静かな一室。

 腰の暴れん棒勇者をさっさと落ち着かせたいので、すぐに話を切り出す。


「何か用か?」

「隣、座っても良い?」

「良いが、どうした?」


 何だか余所余所しい。

 それに若干頬が染まっていて、こんな色っぽかったかと首を傾げてしまった。

 右隣に座ったオルガは、ずいとこちらに寄って来る。


 何か良い匂いがする。

 香水……ではないだろう。

 こんな良い匂いをしていたのか。




「ご主人様……。今日はずっと籠ってたけど、大丈夫?」

「ああ、心配掛けたな」

「うん、ボク凄く心配したんだよ」


 オルガは上目遣いに俺を見て、そのシャツのボタンをわざとらしく胸元まで外して見せる。


「ご主人様はシュウが好きなんだよね?」

「そうだな、シュウさんは良いな」

「そっか」


 いくら無乳とはいえその行動自体には反応してしまう。


「ご主人様、ボクの事好き?」

「そうだな、結構好きかもな」

「え? ひゃ……」


 右手でさらりとその臀部から首元までなぞってやると、変な声を上げて身じろぎした。

 あんまり良い反応だったので、そのまま再び臀部まで手を下ろして腰に手を回すとガチガチに硬直した。

 やはり細い体だ。


「ちょ、ちょっ、ご……ごしゅ……っ」


 オルガが何やらを言おうとしていたので、その長いエルフ耳へと手を伸ばした。

 左耳を左手でもって撫でる様に触ると、飛び跳ねる様に反応して見せた。

 離れようとしたので右手で腰を掴んで引き戻す。

 しかし敏感過ぎやしないだろうか。


「や、やっ……」


 腰に回した右手は離さず、左耳を弄んだ左手を頬を伝わせて首筋に這わす。

 何事かを言いながら抵抗しようとするオルガを右手で引き寄せたまま、左手は鎖骨に触れる。

 鎖骨を肩口までなぞって、そこから腋を通って脇腹を撫でつけると、盛大に身を捩って逃げようとした。


 嫌よ嫌よも何とやらである。


 右手で腰を引き寄せて、左手でもって肩を押してやり、ベッドに倒す。

 自身の胸元を抱きかかえて不安げに俺を見るオルガ。

 その深緑の瞳は涙に煌めきを見せている。


 押し倒した事でスカートがめくれ、そこから覗く細く白い足に手を置く。

 それだけでビクンと震えた。

 敏感ってレベルではない気がする。


 しかし恥じらいが見れて良い光景だ。


 その上に覆い被さると、目をぎゅっと閉じて動かなくなった。

 はだけたシャツ、めくれたスカート。

 背徳感が凄い。




 そのまま何もせずに見ていると、オルガは微かに目を開けて、恐る恐る口を開いた。


「じょ、冗談だったの。ご主人様をからかっただけで……」

「そうか」

「ダ、ダメ。やっぱりボク部屋にもどる……う!?」


 唇をゆっくりと重ねると、オルガは再び硬直した。

 あれほど誘っておいて、人形みたいになってしまった。

 もう一度接吻して舌を向かわせると、吐息を漏らして逃げようとする。


「ん、んん!?」


 肩を掴むと、とうとう観念したらしい。

 そのまま水音が立つ妙に長い口付を交わして、オルガの硬さが無くなった所で放す。


「オルガは俺の事は好きか?」

「わ、わからないよ……」

「そうか」


 太股の辺りでマウントを取った状態のまま、シャツの上からオルガの無い胸に手を這わせる。


「ダ、ダメッ! んん……!?」


 硬い部分を探り出して嬲ると、最初は口を噤んで堪えていた。

 顔が真っ赤になったかと思うと吐息を漏らし、次第に声が大きくなって、どうにも辛抱たまらなくなる。

 この部屋の防音はどうなっているかわからないが、少々困り者である。


 しばらく弄んだら、胸から腰まで手を下げて行く。

 スカートの上から太股を擦ると、それだけで声を上げる。

 内腿へと手を這わすと再び身を捩って逃げようとしたので、右手は太股を弄ったまま、左手を胸へ這わせた。


「や、やだぁ……!」

「嫌か?」

「う、うう……」


 口を噤んで、下唇を歯噛みして、そうして涙目で睨まれた。

 オルガもこういう顔をするのか、良いものが見れた。

 何だか今、初めてオルガに勝った気がする。




 危ない危ない、これくらいにしておこう。




 オルガが反抗しなくなった所で胸を弄るのを止め、視線を落とすとスカートが盛大に捲り上がっていた。

 そこには白い下着が……あれ、おかしい。

 何故オルガが黒い下着を履いているんだ。


 それを認識した途端、手を伸ばしていた。

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