第11話「正しいスキル? の使い方」
街へ向かうギ・グウの数歩後を警戒しながら歩きつつ、俺は生きるための行動を開始した。
スキル取得欄をざっと見る。
色々なスキルがあるが、めぼしいスキルをピックアップした。
・詳細表示 1SP
・収納拡張 1SP
・地図拡張 1SP
・戦闘指揮 1SP
ここら辺は機能性の拡張という意味で優先順位はかなり高い。
俺は弱い、赤ちゃんレベルの能力値だ。
そのため目下生存の為の便利機能を揃える必要がある。
特に詳細表示はスキルの効果なども見れるのではないだろうか。
戦闘指揮はよくわからないが、指揮というくらいだし、いつになるかわからないが再び大軍勢のレイドパーティで塔を登る事があれば必要になるかもしれない。
が、本題はここからだ。
・各武術 5SP
・各属性魔法 5SP
・スキル譲渡 10SP
・クラスチェンジ 20SP
・良成長 50SP
これだ。
剣術やら回復用の光魔法やらも欲しいが、クラスチェンジと良成長がある、村人の俺大歓喜。
良成長は凄まじく重いが、能力値1.5倍補正は伊達じゃない。
そういえばシュウは村人だてらに、生まれながらにこんなぶっ飛んだスキルを持っていたのだから末恐ろしい。
問題は、俺の場合いかなるスキルの取得にもそれ相応のSPが必要になるだろうという事で、とてもじゃないが片っ端から取得なんて無理だ。
SPはホイホイ手に入るものではないので、取捨選択が非常に重要になってくる。
というか今の俺は1SPさえ出せないのだが。
そしてゲーム好きの端くれなら理解出来るであろう、せっかくレベル1なのだから、ここから良成長で底上げしたいと思っている。
趣味としてだけではなく、この世界のレベルの限界が不明な点も問題だ。
例えば限界が来た後で「最初から良成長取っておけば今頃は――」なんて嘆いても取り返しがつかないのだから。
しかしSPを貯めるという事はレベルを上げるという事に他ならない。
このゲーマーの性は、激しく矛盾を孕んでいるのだ。
それで――
「ギ・グウ、ちょっといいか」
「ナンダ?」
俺はメニューからギ・グウにパーティ申請をする。
「ンオ!?」
「ちょっとパーティ組もうぜ」
「オ、オウ。どうなってんだコレ」
ギ・グウがわたわたと手を動かす。
どうやらパーティ申請が届いたらしい。
視界に文字が表示されているのだろう。
城で神官ちゃんにパーティを組んでもらった時は何の表示も知らせも来ずに組まれたから、この現象は多分普通じゃない。
無事パーティメンバーとなった事を確認し、俺は自分のステータスを開く。
スキル取得からスキル譲渡を選ぶ。
霧咲未来 人族 Lv.1
クラス 村人
HP 10/10
MP 0/0
SP 0
筋力 10
体力 10
魔力 10
精神 10
敏捷 10
幸運 10
スキル スキル?
――スキルを取得します!
・スキル譲渡 10SP
――対象?
自分
仲間
きた。
対象選択が出た。
これでパーティメンバーにスキルを取得させる事が出来る。
「へへ」
「ドシタ」
「ギ・グウさん、少しお話があるのですが」
「ナ、ナンダ突然キモチワルイ」
「貴方様のSPを使っても良ろしいでしょうか?」
「えすぴー? 何だソレハ」
「オーケーオーケー」
どう説明したものか。
「ギ・グウは何か欲しいスキルとかってあるか?」
「スキル……カァ……」
溜め息をつくギ・グウ。
「ほほう、何やらスキルについて悩みがあるようだな。話してみてくれ」
「ハァ……話してどうにかなる問題じゃネェガ。マァ聞いてクレ」
立ち止まって、振り返る。
「オラはたまたま適性があってゴブリンナイトなんてやっているんだがナ、どうにも魔法ってのが使えネェんだ。マァこれはゴブリンのほとんどが抱えている問題なんだがナ」
そこで一旦区切って、ギ・グウは暗い空を見上げる。
「ナイトってのは仲間の盾だ。オラはゴブリンナイトを誇りに思っているが、しかし光魔法……マァ回復が使えネェモンだから馬鹿にされるンダワナ。何より他の連中と比べちまうと動きの幅が狭いンダ」
俺は迷わずスキルを選択した。
ガ・ギ・グウ 精霊 Lv.36
クラス ゴブリンナイト
HP 3600/3600
MP 72/72
SP 0
筋力 720
体力 540
魔力 36
精神 108
敏捷 72
幸運 144
スキル 剣術 盾術 光魔法
光魔法を取得させた。
それだけでなくSPを全消費して詳細表示、スキル譲渡、クラスチェンジも取得させたが、メニューと同じくどれもスキル欄に表示されないタイプのようだ。
恐らく残りの拡張系も同様だろう。
スキルというより機能だしな。
「魔力が低いからたいして意味がネェのは知っているんだけどナ、こればっかりは男のロマンっつうか――」
「おう、スキル取得させといたぞ」
「ンア?」
「いいから使ってみろって」
ギ・グウは悩みもせずにむむんと力を籠めて回復魔法を使い、自分で使っておいて理解出来ないのか、呆然と立ち竦む。
どうやらスキルを取得すると、修練をすっ飛ばして使えるようになるようだ。
なるほどチートだ。
「ナ、ナンダァコリャア!?」
「んで、スキル譲渡で詳細表示とクラスチェンジって奴を俺にくれ」
「オ、オウ……」
もはや流されるままに言う事を聞いてくれたギ・グウは、俺に詳細表示とクラスチェンジを譲渡した。
おお、理解出来た、なるほどこれはクラスチェンジだ。
これは確かに意味がわからない、正直気持ち悪い。
経験なんぞ無いのに、やり方だけが正確にわかるのだ。
なるほどチートだ。
「オ、オイ。オメサン、コリャア、イッタイゼンタイ」
「男のロマンだろ?」
「オ、オウ……」
ギ・グウはしばらくうんうんと悩んでいたが、途端に真剣な表情になる。
ゴブリンの表情なんて正確には読めないのだが、そんな雰囲気なのだ。
「何したか知らネェガ、オメサン、コリャア他人に教えネェほうがイイゾ」
「ふむ」
「考えても見ろ、オラが必死になって会得出来なかった魔法が一瞬で手に入っちまったンダ。アリガテェケド、コイツァ危険ダ」
「たしかに」
「オメサンが上でどういう暮らしをしていたのかは知らネェガ、此処では目を付けられたら唯じゃ済まネェ。それだけは肝に銘じておけよナ」
それからギ・グウはMPが切れるまで回復魔法を連射していた。
「これが魔力枯渇ってヤツカァ……オエェ……」
「エンジョイし過ぎだろ、大人気ないな」
「ウルセェ! これが喜ばずにいられるかってンオボロロロロ」
青ざめた顔で死にそうなほど満足げな表情を残して、ギ・グウは内容物をぶちまけた。




