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第100話「予察」

 冒険者ギルドから出て今後の予定を考えていると、肩を叩かれる。


 振り返ると先程まで真面目ぶって静かにしていたオルガが、打って変わって上機嫌に話しかけて来た。

 その美形がはにかむ姿は実に様になり、中性的な美しさはしかし特有の長耳により現実離れしている。

 問題なのは、外見からはとても変態とは思えない事だ。


「ご主人様って勇者だったんだね」

「あまり驚かないんだな」

「いやだってその見た目だし」

「うるせえ」


 暴言も笑い飛ばして茶化して来るのが困り者だ。

 どこまでわかっててやっているのかは不明だが、その理解力を別の事に使ってほしい。

 オルガに関してはもはや男友達感覚である。


「ごめんごめん、でもあの魔族を倒したって本当?」

「ああ、一番活躍したのはヴァリーだけどな」

「へえ、凄いね」

「そんな事無い」


 否定する声に釣られて俺とオルガが視線を落とすと、ほんのささやかに膨らんだ胸を張るヴァリスタ。

 尻尾はゆっくりとうねって、隠しきれないそれは実に自慢げである。

 何処かの腹黒ハーフエルフとは違って可愛らしいお茶目だ。

 微笑ましい。


 そんな俺達の傍で一人思案気にしていたシュウだが、何かを思い出したのかあっと口に出した。


「そうだ、思い出しました! ライ様、魔族ってあの魔族ですか?」

「どの魔族か知りませんが、敵ですね」

「そうなんですか。私でも勝てますか?」

「かなり強いので一人では厳しいですが、だからこそシュウさんの力を頼りにしていますよ」

「任せてください!」


 シュウはのんきなもので、どうにも地上では魔族よりも獣人の方が余程化け物扱いされているらしい。

 魔族ゾンヴィーフを見た限りでは異様に肌が白いだけで人に近い外見だったし、確かに獣人の方が身体的特徴はあるが。

 やはり地上では色々と歪んだ知識が蔓延していた様だ。


 地上を思い出して嫌な気分を覚えてしまったが、ともあれ今出来るのは力を蓄える事だ。

 イケメンの様にミクトラン王家を救うだとか、そんな格好良い事をするつもりは毛頭ない。

 俺は俺のために戦う。

 だからこそ――


「ひとまず買い出しだ」


 ――着々と地盤を固めるのみだ。

 今後は野宿も想定して、色々と購入すべき物がある。

 資金はそれなりにあるから、日用品を買うのに問題は無いだろう。


 新たな旅路に向けて、準備を始めた。




 謎空間への収納のおかげでほぼ手ぶらで良いというのは強みだ。


 これを利用してまずは野宿用の物品を購入だ。

 道具屋、というより雑貨屋か。

 塔の街の南側にある店に来た。


 整理された店内には糸や布を始めとして調理器具など様々な日用品が並ぶ。

 銀に光沢あるフォークにナイフ、皿等々。

 一通り揃ってはいるが肝心の実用性はどうなのだろうか。


 こういった物は貴族やそれに準ずる者が主に使うのだろうし、恐らく此処も高級店のひとつなのだろう。

 詳しくはないが手入れが大変そうだし、見栄えよりも長く実用に耐える物が欲しい。

 この分だと食器類に関してはむしろ一般の物を買った方が良さそうだ。


 テントは簡素な組み立て式の物が一般的らしい。

 一番丈夫な物を聞き出し、銀貨二十枚と値の張る物を買った。

 組み上げるとおよそ円錐の形状になる様だ。

 組み上げた際の大きさはさほどのものではない様だが、支柱自体が大振りでかさばるのが難点か。

 普通だと荷物持ちが居たりするのだろう。




 店から出て人目のつかない路地で収納すると、次の店へ向かう。

 次に見るのは一般的な食器類だ。

 早い話が安い店だ。


 銅貨十枚から銀貨一枚までの木製のお椀やスプーンが売られていたのだが、その中で一番高い銀貨一枚の物を購入する。

 木から彫り出した様な大振りのそれらは丈夫そうで、反して滑らかな表面は塗装加工もなされているのだろう。

 思えばこういった食器は茶色で、言うなれば普通の木から作られている様だ。

 地下で普段見かける黒い木や雑木林だけでなく、何処かに普通の樹木があるという事だろうか。


 鉄の鍋やフォークやナイフなども購入し、食器類は一通り揃った。


 後は塩を瓶一杯に購入した。

 塩と食材を適当に煮込めば最低限の栄養は補給出来るという極めて雑な考えだ。

 砂糖に準ずる物があればもっと良かったのだが、糖分は果物で摂取すれば良いだろう。


 実は料理を作るというより、温かい物を食べる為という意味合いが強い。

 冷や飯で腹を痛めたり、風邪をひかないように予防といった意味合いもある。

 何よりヴァリスタなどはまだ小さいから、保存食ばかり食べさせていては胃に無用な負担を掛ける恐れがある。


 もしかすれば謎空間に放り込んでおけば温度だけでなく鮮度も保存されるかもしれないが、もしもの場合も想定して器具の用意はしておいて損は無いだろう。


 その検証も兼ねて、露天でリンゴの様な果物をひとつ購入して放り込んでおいた。




 今日はこんな所か。

 店を探しての街中の移動でも随分時間が掛かってしまい、物色して回っていたから既に十四時になっていた。

 出発までにはまだ猶予があるし、何よりグレイディアのみならずギルドマスターのヴァンにまで勇者認定されて激動の一日だったと言える。


 とはいえこの容姿だしオルガを連れているしで、大概勇者か貴族だと思われているのだろうが。

 これを認めて噂が真実になってしまうと加速度的に広まって行く懸念があるので、勇者でないと主張し続けるしかない。

 情報の拡散はグレイディアが一応抑えてくれていた様だし、これからは冒険者ライの名が多少なりとも広まるはずだから、見知らぬ悪代官に勇者として狙われる事は無い……と願っている。


 それにフローラの色仕掛けを耐え抜き寝ずに冒険話を語り聞かせていたのもあるし、疲労が大きい一日だった。

 かなり早いが、徹夜と諸々の疲労のせいか、眠気が襲って来ている。

 今日は早めに休むとしよう。

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