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第10話「腐った塔の下で」

 遠く光が見える、暗がりの地面の上。

 光が届かぬ先は広大で、闇の先は見えないほどの――広大で。

 俺はただ独り、そこに座っていた。


「ああ、くそっ! 何だってんだ! 何処だよ、此処は! 地獄かよ!」


 俺は吠えていた。

 何というか、収まりがつかなかった。

 仲間達が操られ、色気づいたイケメンナルシストのせいでこの様だ。

 ナナティンも最初から怪しい気配は漂わせていたが、俺は怪しいと感じつつも結局行動に移せなかった。


「はぁ……」


 ひとしきり叫んで、ようやく落ち着いた。

 何でか知らないが、このまるで見えない暗い空の遥か彼方から落ちて、俺はまだ生きている。

 多分もう、死んだものとして扱われているだろう。

 だとして、どうしたものか。


 俺にあるのは、剣と、防具と、魔石と、龍の鱗……。

 心もとない。

 まず、食料が無い。

 人は水が無ければ一週間と持たないという。


 そして微かに見えるあの遠い光は、確か建物があった場所だ。

 恐らく街だった……と思う。


「行ってみるしかないが、またナナティンみたいな輩は勘弁だ」


 危機感が足りなかった。

 この歳まで、簡単に人を打ち捨てられる世界にいなかったから。

 しかし自衛手段が乏しい。


「せめて剣術スキルでもあれば……」


 必死こいて木剣を振っても、剣術には目覚めなかった。

 俺は、バグっているのだ。


「だいたいスキル? って何なんだよ! 俺が聞きたいよ!」


 メニューを開いて、ステータスを開いて、思考操作に慣れてしまっていたが、やけくそ気味にスキル? をクリックしてみた。



霧咲未来 人族 Lv.1

クラス 村人

HP 10/10

MP 0/0

SP 0

筋力 10

体力 10

魔力 10

精神 10

敏捷 10

幸運 10

スキル スキル?


――スキルを取得します!

・メニュー Master!

・詳細表示 1SP

・収納拡張 1SP

・地図拡張 1SP

……



「は?」


 スキル? から縦スクロールの小窓が出て来ていた。

 大量のスキルが並ぶ、もう何が何だか。

 はっきりわかった事は、俺が1SPを使いメニューを取得していたという事だ。

 そして更に詳細表示を拡張したり、アイテム収納を拡張したりと出来るようであった。


 要するに、これこそが召喚時に付与された俺のスキルだった……のだろうか。


 とはいえSPはレベルに比例して増加する。

 つまりレベルが上がらなければスキルも習得出来ない、そしてレベルが上がらないというのが俺の痛いところだ。

 しかしレベルが上がらない理由があるはずだ。

 腐ってないで、考えてみよう。


 あぐらをかいて唸っていると、がさりと背後から音が鳴る。


「ヨォ、こんな所でナニやってんだァ、黒い兄ちゃん」


 不気味な声に話しかけられて、俺はすぐさま謎空間からブラッドソードを取り出した。

 バタフライエッジアグリアスでないのは、先のイケメンが使用した際の様子で不安が残っていたからだ。

 声の主――鎧を身に纏った緑色の小人――を視界におさめて、ステータスを覗き見る。



ガ・ギ・グウ 精霊 Lv.36

クラス ゴブリンナイト

HP 3600/3600

MP 72/72

SP 36

筋力 720

体力 540

魔力 36

精神 108

敏捷 72

幸運 144

スキル 剣術 盾術



「地獄のモンスターは喋るのか」

「失礼だナァ、オメェ」


 その低いような高いようなよくわからない音程と変なイントネーションに気が抜けそうになるが、俺は気を緩めず、ステータスを確認する。

 ゴブリンナイト、精霊、名前がある。

 塔のモンスターにはなかったSPもある。

 色々おかしい。


 レベル差は大きいが、昨日戦った塔のモブよりは弱めだ。

 しかしこのガ・ギ・グウの体力と俺の筋力は比較するまでも無く、俺の攻撃は通らない。

 まず塔で戦えたのはバタフライエッジアグリアスの貫通のおかげだと思っているから、イケメンの攻撃がノーダメージだったとか言っている場合ではないだろう。


 ブラッドソードを左手に持ち替えて、右手で腰の剣鞘から抜き出す素振りをしつつバタフライエッジアグリアスを謎空間から取り出す。

 これで神速により一撃を叩き込む事は出来るだろう。


「敵意はネェゾ、ホレ」


 ガ・ギ・グウはその背丈には大きすぎる剣と盾を背中から取り外し、捨てた。

 それは塔のゴブリンが持つ抜き身の刃こぼれソードとは違う、しっかりとした鉄鞘に入った剣と、頑強そうな盾だった。

 服装だってそうだ、ボロボロの布などではなく、銀色の鉄鎧。

 顔も……いや、やっぱり顔はゴブリン特有の馬鹿でかい鼻を有した起伏に富みまくった緑の小人だが、汚らしさはない。

 でも、気は抜かない。


「何者だ」

「オラはガ・ギ・グウってもんダ。ギ・グウでイイ。冒険者をやっとル」

「冒険者とは、何だ」

「あはァー、やっぱりオメサン“上”から来たモンダナ?」


 ギ・グウは隙丸出しで笑いながら、暗い空を見上げた。


「そうダナァ、冒険者ってのは平たく言やァ傭兵ダナ。それにしてもオメサン、二刀流なんて使えネェだロ。手が震えとル。察するに筋力が足りてネェナ」

「は?」

「筋力パラメータだヨ。まぁ知らなくても無理はネェ」

「パラメータだと……?」

「ハハーン、さてはこの腐った塔の上でしか生活してなかったモンダナ。見たトコ小奇麗な服装だしナ」


 おかしい。

 城に居た人間は、レベルこそあれ能力値を知る者は居なかった。

 訝しげに見る俺に気付いたギ・グウはしばらく悩んでから話し出す。


「アー、んジャま、簡単に説明すっとダナ。ホレ、あの塔、あれをずーっと登ったトコの六十階層辺りがオメサンの居た“地上”っつー話ダ。オラはそこまで行ったこたネェガヨ。んで、それを基準にすると此処は“地下”ダナ」


 俺はギ・グウの指差す塔へと振り返らずに、その話を聞いた。

 一階層だと思っていたあの平均レベル60の場所は、実は六十階層だったというのか。

 そういえば下へ続く階段もあったし、レベル的には間違っていないのだろうが。


「此処は……そうダナ。上の連中からすりゃあ、貧民だったリ、犯罪者だったリ、お偉いサンに逆らったバカダッタリが堕とされる場所らしいナ。最も普通は死んじまうんだけどヨ。おっと、オラはそういった手合いジャネェゾ。此処で生まれて、此処で育った。今はそういう奴ばかりダナ。ドダ、剣を納める気になったカ?」


 間違ってない、俺もおとされた。

 何でか激突寸前に浮き上がって助かったが。


「何で、ゴブリンが喋ってる?」

「ソコカ!?」

「いや、だっておかしいだろう。意味がわからない」

「ンー。オメサンが見て来たゴブリンってのは、塔の中の連中ダロ?」

「……そうだ」

「ありゃあ生き物じゃネエ。それっぽいナニかだ」

「はあ?」

「まあ、神様がお遊びで生み出した産物とでも思っときゃイイ」


 俺は一応剣を下ろして、しかしギ・グウから目は離さない。


「とりあえずこれくらいでイイだろ。オラさっさと街さ帰りテェ」

「あ、ああ」

「んでば!」

「いや、待て!」

「アアン?」

「俺も街に入れるか?」

「オウ、一緒にイクか」


 かくして俺は、地下街で生きるはめになったのであった。

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