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短編小説

土龍の詩

作者: ネムのろ あき



何もない平行な地べたに落ちた種。数日の雨の後、芽が出てきた。

一生懸命に自分の上に乗っかっている土を押しやりながら、芽吹いた。



それはまるで、私の目の前の人間のよう。



何度誰かに踏みつけられようと、何度己の身の上に、不幸が降りかかろうと

決してくじけず、押しやりながら芽吹こうとする。



それは数年で死に絶えてしまう身の上だからか

彼らは諦めるということをしない。いや…それは一部の人間だろう。

そして、目の前の少年はその一部の中の人間だ。



『人間、何故私を倒そうとする?』


「俺の大切なものを守るためだ!」


『お前の言う大切なモノとは…何だ?』


「友や、街の人々…この世界だ!」



何とも小さき存在の彼らは、何故にそんな壮大で

その小さな背中では抱えられないモノを抱えようとするのか

齢3000年たっても、未だに分からない。



「お前は破壊しか生み出せない!!」



破壊…か。たしかに何十年か前はそんなこともした。

だが…今となってはただ時が過ぎるのを見守るだけだ。

季節が巡り、時も過ぎ去り、人々や街はグルグル変わっていく。

それは変わらない私からはとても目を見張るものがあった。



老い先命が少なければ、大それた行動に移せるのだろうか?

地を這うしかなかった人間が、畑を作り、野を耕し

家畜を育てているさまは、面白く、よく観察をしに親の目を盗み、見に行ったものだ。



勿論、龍が人里を訪れてはならないことは分かっていた。友人がそれで人間たちから酷い攻撃を受け

身を守るために、火を噴いて逃げた。



彼らとの争いの歴史はずいぶんと永いもので、親が死んでも子にまでその恐怖と憎悪は

受け継がれていくから、やっかいだ。しかしまぁ、よくそんな大それたことが出来る。



自分の事のように憎み恨み、修行や鍛錬を重ねて私たちの前に現れる。

昔、面白がって対決をして苦い思い出になり、それっきり対決は出来る限り避けてきた。



『私は…お前に何かをしたか?』



すると、人間はそう聞いてきたのが意外らしく、少しギョッとした顔になりそして、何かを考え始めた。

大方私の質問に答えるためだろう



「い、いや…して、いない。」


『ならばお前の友に何かをしたか?街を壊したか?天変地異を引き起こしたか?』


「…い、いや…それもしていない。多分」


『ならば何故…私を倒そうと敵対する?』



すると、また考え込む人間。


悪い龍だったらすでに灰にされてる。それか、何らかのアクションをしている。

話し合いなどもってのほかだ。



なら、倒す理由はなんだ?



「…いつか、するかもしれないから…だ。多分」


『そうか…』



ああ、そろそろあの木から、何もない土から様々な色とりどりの命が芽吹くころだ。

そう考えながら、私は落としていた首を上げ身体を伸ばした。

早く、あそこへ行きたかった。様々な色とりどりの種類の花たちが咲く丘へ…



『ならば、そのいつかが来るまでは、見逃してはもらえないか?』


「なっ、何言ってんだ!!大体、悪さをするために

洞窟の巣からでてきたんじゃなかったのか?!」


『いや?』


「え?じ、じゃあいったい何のために…」


『愛でるためさ。幾つもの小さき命を』



そう呟くように答えた。

そして翼を広げ上下に動かす。すると私の巨体は地面から少しづつ離れていった。



『人間、忘れるな。良き人間と邪な人間がいるように、

龍も同じ。悲しみ愛しむ人間がいるように、龍もまた然り…』



「お、お前は何だって言うんだ?!他の龍とぜんっぜん違うお前は?!」


『私か?私は…時の輪から外れたモノだ…』



空を見れば、晴れ渡っていて…丁度太陽が真上に来るころだ。

そろそろ昼になる…か。



「…なんなんだよお前?龍のくせに人間襲わないし

街も建物も壊さないし…天変地異も起こさない…一体全体何のために居るのか分からない!」


『そうだな。私は既にその答えを知るすべを失った。

今はもう何千年かこうして小さきものを愛でる日々。そして過ぎ行く時と季節を眺め見守るだけだ…』


「答えを知る術を失った?どういうことだ?」


『…昔、人間の友が居た』



そう、ずっと昔。

龍と人間の間にできた溝を失くそうとした一人の人間と、一匹の龍が居た。

けれども、結局二人はそれをよく思わない連中の手によって引き裂かれてしまったのだ。



『青年よ、お前の一族は昔、私と友だった人間が

ある男の陰謀により敵対する羽目になった一族。お前はその末裔さ…』


「なっ?!じ、じゃあ、俺が今まで教えられてきたことは

みんな嘘だったのか?!龍は倒さなければならない最強最悪の種族だってことも…」


『いや?あながち間違ってはいない。たまたま私が、その悪い行いをしない龍だっただけの事』


「ま、待ってくれ!!俺はまだお前と話がしたい…!」


『帰れ小僧。そして二度と私の前に姿を現すな』



この青年を見ていると昔を思い出してしまう。あの暖かい何をも包むような包容力を持つ男

そう、地に落ちた種のような強さがあった。どんな寒さにも負けない、どんな難関にも

決して屈しなかった男…



こいつはあの男に似ている。要素や声までもがそっくりだ。



…もう二度とあのような悲劇は繰り返さない。

だから私は過ぎ行く時と季節を眺め見守る。

同じ時は一秒たりとも無い。全て変化し変わっていく。

だから私は全てを愛でるため、龍のあるべき姿を、すべき行動を止めたのだ。



小さな幸せを見つけたあの時から

小さなものを愛でるのが私の楽しみとなった。



青年の声はもうすでに私には届いていなかった。

大空高く飛び立った私の唯一の心配はあの美しい丘がまだ存在しているかどうか

そして、人間に見つかるかどうか。



あわよくば、あと少し。

あともう少しだけ。このしたたかな私の楽しみが続きますよう祈るばかり。



春はもうすでに来ているらしく身体に当たる風はすでに暖かいモノだった。

春風と共に運ばれる遠き地の懐かしい香り。少しあの人間に時間を費やした。

少しでも早く行き着くために私はスピードを上げた。



昔の記憶と今の記憶がリンクする。懐かしい春風と、行き着いた丘の

様々な花たちの香り。そして、今にも聞こえてきそうなあの男の声。言葉。



『アレックス…お前と別れてもう500年が経つ』



お前は天国と言うところへ行けたのだろうか?そこで今もあの輝く笑顔で笑ってるのだろうか?

春唄は歌っているか?お前が得意だった、あの唄。龍の私ですら翻弄され、あいつの唄の魅力に落ちた。



『お前の唄、また聞きたい…だが、それは永久に叶わない』



あの日が遠すぎて…お前の存在も消え失せて今じゃ私はただただ、お前といつかあの世と言うところで出会える日を待つ存在となった。



笑えるだろう?



あの勇敢で、好奇心旺盛で、一時はなんでも壊し沢山の命と宝を奪ってきた私が

今じゃこんな腑抜けた龍だ。



『もうあの場所へは帰らない方がいいだろうな』



あの青年はアレックスに似すぎている。このまま帰ればきっとまた私の前に現れる




ならば。





私のすべきことは…





『旅に出よう』




この春を運んだ風のように流れていくのも悪くない。




春吹く風よ

己が望むまま 我を導け

己の望むまま

我は流れよう


ああ、暖かき春よ

全てを包み 始まりを知らせる

小さき命芽吹き

命を咲かす 季節


この身にまとう 黒き感情も

この心に巣食う 深い悲しみも

全てを溶かし 光を見せる


春の訪れ

それは始まり。



土龍の旅は 今始まった。



終わり


久々に投稿しました。本当に久方ぶりです。何か月…ここに入ってなかったか

作者自身も分かりません。それに、PCがぶっ壊れていて投稿がさらに難しくなってますが

従妹のパソ借りたり、iPhoneで投稿しようと思考中です。

こういう時に限って湧き出てくる書く意欲。こまったものです( ;∀;)


一か月に一回二回くらいは更新したいなと思ってますので。

あ、私のお話を他にも読みたい方は

このサイトの私のマイページに、私のホームページとか

アメーバブログとかあるので、ぜひ、読みに来てくださいね☆

では、ここまでお読みくださって、ありがとうございました。

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