発覚
「すみません!」
「おう!いらっしゃい.....。あんた珍しい格好してんな」
「さっきも言われたよ、それ」
「うーん.....その服、随分変わった素材で出来てんな。」
鍛冶師が興味深そうに俺の制服を眺めている。
そう言えば、石油で出来た布ってこの世界に無いんだろうか?
「その珍しい格好とどこか違った雰囲気.....あんたもしかして異世界人.....てことは、勇者様か?」
「うっ、」
やばい、案外あっさりバレてしまった。
幸いあっちは確信してるって訳でもなさそうだがしかし.....。
やっぱり見る人が見ればこの世界の人間じゃないって分かるんだろうか?
此処はどうするべきだろう?
もう素直に言ってしまおうか、別に鍛冶師に言ったところであまりり大事にはならない気がする。
名前のわりには礼儀正しいみたいにすれば何とか.....
「なーんてな!!」
..........は?
「ハッハッハ!いやー、すまんすまん。あんたが勇者様だなんてあるはずないよな!もう勇者様は3ヶ月前に召喚されてるしな!」
「な.....」
こいつは一体何を言ってるんだ?
勇者が既に召喚されているだと?俺はどうした?
俺の絶句に気がつかないのか、鍛冶師は話を続ける。
「いやー、俺も最初は勇者なんて所詮とかって考えていたけどよ、3ヶ月前この国に召喚された時ここに来たからどんな奴かと思ったら、これまたえらいべっぴんさんでな。しかも礼儀正しくて優しいしよ、俺の手を取って微笑んでくれたんだぜ。こんな強面のおっさんの手だぞ?まさしく「慈愛の勇者」だと思ったぜ。」
「いや、あー.....」
どういう事だ、俺が来るよりも前に既に勇者が来ていたのか?
そんなこと一言も言われなかったぞ。
いや、それよりも問題なのはこの言い方からするとまさか.....。
「おいあんた、一つ聞きたいことがあるんだが」
「ん?何だ聞きたいことって?」
.....少し遠回しに聞くか。
「その勇者は二人組だったか?」
「んん?何言ってんだ?勇者が二人もいるわけねえだろう。勇者様と言えば「慈愛の勇者」ただ一人に決まってるじゃねえか。それ以外で勇者だとか言ってる奴は只ただのバカだよ。」
ふっざけんなぁぁぁあああああああああああぁぁぁああ!!!!!!!!!!!!!!!
ハメられた!!!!
あの野郎ども、俺を騙しやがったな!!
何に利用するつもりかは知らないが、大方ろくな事ではないだろう。
勇者を語る偽物なんて悪以外の何者でもない。
そんなことをする輩は殺されてしまうのかもしれない。
いや、殺される可能性が高いと考えた方が良いだろう。
どうする?この街を今すぐ出ていくか?
この世界について何も知らないのにか?
まて.....冷静に考えろ。
そもそも国王の狙いは何だ?
なぜ俺はこの世界に勇者として召喚された?なぜ謁見の時、暗殺の勇者と分かっても俺は殺されなかった?
利用するつもりなら、なぜ俺を城から出した?俺が真実に気づくのも時間の問題だろうに。
そうなったら困るのはあいつらの方じゃないのか?
いや.....あえて俺に真実を教えてこの街から追い出そうとしているのか?
国王は勇者の力を恐れているのかもしれない。
数万の敵を葬る程の力だ、そう思っても不自然ではないだろう。
そう言えばあいつら、俺を召喚したのは魔力溜まりを破壊するためだとか言ってたな。
魔力溜まりを放置すると世界が崩壊するとかなんとか。
それと関係しているのか?
.....可能性は高い気がする。
「おーい」
とにかく今日明日中に殺されたりすることはないだろう。
殺すつもりならもうとっくに俺は死んでるだろうしな。
それよりもとにかく今日は宿を取って今後の計画を立てよう。
正直旅の仕方なんて全く分からないが、まあもともと世界を救う冒険をするつもりだったんだから何とかなるだろう。
どちらかと言えば慣れない旅への不安よりも、王国からの追っ手とかの方が不安だ。
さて、それじゃあ宿屋の確保でもしに.....
「おいってば!」
「うわっ!」
「どうしたんだ?おめえさん。急に黙ったと思ったら赤くなったり青くなったり.....今みたいに驚いたり。何かあったのか?」
そう言えば鍛冶師との会話の途中だったな
偶然とはいえこいつのお陰で国王の企みに気付けたんだ、例の一つでも言っておくか.....。
あっ!こいつがべた褒めしてた『慈愛の勇者』とか言う奴は確か、手を取りながら微笑んだだけで大絶賛だったんだよな!
俺のポジションを奪ってる奴なんて腹立たしいだけだが、人気を得ていると言うことに関しては称賛できるし、俺も真似させてもらおうか。
えーっと.....こんな感じで.....。
さわさわっ。
「ひっ!」
「ありがとう。あんたのお陰で(国王の陰謀から)目が覚めたよ。」
「め、目覚めたって.....お前、まさか.....」
「ああ、詳しいことは話せないが.....その通りだ」
「そ、そんな!.....」
おおっ!!会って間もないのに俺の考えを読み取ったのか.....。
あまりそういうものは信じてはいないのだが、それでも、この人との出会いには運命的なものを感じてしまうな。
この鍛冶師とは心で通じ合っている、そう思えて来た。
俺は硬く引き締まった鍛冶師の手を握る。
「あんた.....良い、男だな」
「や、やめてくれ.....俺は.....そういうつもりじゃなかったんだ。ただ、心配なだけで.....」
心なしか鍛冶師の手が震え、その瞳にはうっすらと滲むものが見えるような気がした。
俺との友情に涙してくれているのか.....、本当に良い人だな。
「.....そう言えば、この店には刀は置いてあるか?あと、あったらで良いんだが冒険用の服も買い取りたいんだが.....」
「か、刀はそこに置いてある!服も売ってやる!.....だから.....だからっ.....!!」
鍛冶師が奥へと急いで走って行き薄手の服を持ってきた。
テーブルに叩きつけるように刀と服を置き、呼吸を調え言った。
「に、二百メルだ!頼むからもう.....」
「あ、済まないがもう少し値段の良い刀をくれないか?あんたの剣に文句を付けるつもりはないが、今後長旅をする予定があってな。もし途中で折れたりでもしたら、また此処に買いに戻らなくてはならなくなるかもしれん。俺としてはそれでも良いんだが.....」
俺がそう言うと鍛冶師はまた奥へと走っていった。
そしてその手に一振りの黒い刀を持ってくると、焦った表情で言った。
「冥喰龍の角から作った名刀「天」だ。頼むからもうこの店には来ないでくれ.....!」