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第二十二話  思い出

「美琴ちゃん、これは?」

「杜田、これなんかいいんじゃね?」

 水着売り場では意外にも、須見も一緒に選んでくれた。というのも、中島が持ってくる水着があまりにも派手だったり、面積が小さかったりで見てられなくなったのだ。

 須見の持ってくるものの一つに、美琴が目をとめた。水色と薄紫の小花柄で、フランス雑貨のような色合い。似合うかどうかはわからないけれど、もしも着るならこれがいいと思う。

「…それがいい?」

 中島の声にハッとなって、美琴は頬を染めた。遠慮がちに首を振る美琴に中島は満足そうに笑って、その水着を持ってレジへ足を向ける。美琴が慌てて制止しようとした。

「あ、あの…お金…」

「いーのいーの。僕からのプレゼント。こう見えてもお金持ちだからさ」

「で、でも…」

「買おうって言ったのは僕なんだから」

 そう言って中島は一歩も譲らない。終わったのかと思い近づいてきた尾関が、中島と美琴のやりとりを見て笑い飛ばした。

「美琴、遠慮しなくていい」

「でも…」

「要は綾さんの事業を手伝って大金を稼いでる。自分の石人が現れた時に十分なことをしてやりたいと貯めてた金だからお前のために使うのは間違ってない」

「そ…そこまで言わなくていいから」

 この時、中島が初めて照れているのを見て美琴は目を丸くした。白い肌がほんのり染まっている。中島はバツが悪かったのか、水着を持ってさっさと会計を済ませに行ってしまった。

「…可愛いとこもあんだな、あの人にも」

「背ばかりひょろ長くて何を考えてるかわからん奴だがな。俺だって石人が現れたら、と考えていたこともあった」

「そう…なんですか?」

「ああ。もう叶ってる」

「…え?」

「獣化して、一緒に寝ることだ」

 尾関はそう言って優しく笑うと、美琴を抱き上げて子供のように高い高いをしてからぎゅっと抱きしめた。尾関が満足そうに息を吐く。美琴がやっぱり少し恥ずかしそうにしているのを見て、尾関は喉の奥で笑いながら美琴を下した。

 須見は自分はどうなんだろうと考えた。自分が護人だと知ってからすぐに美琴の側にいたので、現れたら何かしてあげたいなどという発想もなかった。

 中島や尾関にとって、護人の存在はそれほどまでに待ちわびていたものなのだろう。



「せっかくだしさ、今日泳ぎに行かない?」

「は?どこにだよ」

 四人で入ったファーストフード店で、中島の本日二度目の突拍子もない提案に須見が思わず声をあげた。尾関は特に異論はないのか黙って聞いているようである。

「ちゃんと美琴ちゃんが着替えるとこがあって、みんな一度は入ってみたいプール」

「……わかった。夜中の学校だろ」

「当たり~!須見くんのカンもよくなったねぇ」

「アンタの言いそうなことが予想出来るようになっただけだよ」

「どう?美琴ちゃん」

「でも…忍び込んで怒られないですか?」

「公立の高校ならセンサー警備だろうけど、プールにそれらしいものもなかったし大丈夫。うちの高校、住宅地から少し離れてるし、通報するようなご近所さんもいないでしょ」

 須見はふと腕組みをし、美琴を見ると頷いた。

「…俺はいいと思う。面白そうだし、な?」

 須見が誘うと効果は抜群で、美琴も難色を示さなくなっている。須見は美琴を笑顔にしたかった。施設に帰ったらクタクタで寝てしまうぐらい楽しませてやりたい。

「…いいじゃないか、楽しそうだ」

 尾関も同じ意見らしく賛成してくれた。美琴が少しわくわくした顔をしながら頷く。中島は満足そうに笑って立ち上がった。

「じゃあまずタオルと私服買いに行こうか。このままじゃまずいもんね」



 深夜の学校は静まり返っていた。まず中島と須見が高い塀に登り、尾関が抱き上げた美琴を受け取った。最後に尾関がよじ登る。プールへの門への南京錠に中島がピンのような細い工具を入れていた。

「…そういうことをさせたら日本一だな、要は」

「基本的に器用だからね」

「綾さんに連絡は?」

「したよ?美琴ちゃんと四人で出かけるから夜中に帰りますって。綾さんは満月の夜にユキさんと夜中のデートに行くのは調査済みだからね。何時に戻ろうがバレないと思うけど」

 カチッという音がして南京錠が外れた。更衣室に美琴が入るのを見送ると、三人は獣化してプールに入った。

『ああ…やはり気持ちいいな』

『一度やってみたかったんだよね~。この身体じゃプールでも海でも即通報だろうし』

『なんか…この姿の方が泳ぎ方が難しいような…』

『須見くんはその身体に慣れてないからね~』

 更衣室から出てきた水着姿の美琴がおそるおそる水の中に入ってきた。昼間さんざん日射しを受けたプールの水温はぬるくて丁度いい。近くにいくと銀の蛇がチロチロと頬を舐めた。

『似合うよ。可愛い』

「あ、ありがとうございます」

『美琴、こっちにこい。背中に乗せて泳いでやろう』

「本当ですか?行こ、須見くん」

『お、おう』


 その夜、美琴は本当に楽しかった。尾関の背中につかまって水の中を潜ったり、犬かきで必死に泳ぐ須見を抱きしめたら中島が乱入してきたり。

 満月の光の下、四人はいつまでもはしゃいで遊んでいた。


 綾からの電話を受け取るまでは。


「もしもし?綾さん?」

『要!?側に美琴ちゃんはいる!?』

「あ、はぁ…いますけど。修吾も須見くんも」


『よかった…。いい!?こっちに帰ってきちゃダメよ!?誰かの実家に戻るのもダメ!四人で遠くに逃げなさい!』










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