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第一話  石と少女

職場の同僚の何気ない一言がきっかけで書きはじめることとなりました。

楽しい作品になればいいなと思います。


それはずっとずっと昔から

そっと伝えられてきたこと


石人(いしびと)として生まれたら

決して自分の石を悟られてはならない

身を守る術を見つけなさい

護人(もりびと)を探しなさい





 石人はこの国に数十人しかいない貴重な種族であり、普通の人間とは違う。

身体の一部が石のように堅くなったり、体液が流れ落ちると石に変化したりもする。

多くは思春期のうちに体調の変化が現れ、成人するまでに自分である程度制御できるものらしい。

 石の種類は人それぞれで、ごく一般的な天然石な場合が多いがごく稀に輝石、つまり宝石の石人が生まれる。

 これに規則性はなく、例えばサファイアの石人が死んだからといってすぐに次のサファイアの石人が生まれるわけではない。同じ種類の石人が同時に存在した例もある。

伝承として伝えられているのは、遺伝性であるかもしれないこと。

しかしそれは必ず遺伝するものではなく、何代も後に出る場合も少なくないので予測はまず出来ないだろう。

 それはかつての石人たちの本能が成し遂げた生き残るための苦肉の進化であったのかもしれない。

体液や体の一部が宝石になる人間が存在すると知られたら、どんな目に合うかは想像するのは簡単だろうと思う。

 海外の国にも石人はいるが、民族の違いのせいか人数も石の種類も様々らしい。

 日本に古くから知られているの石、瑪瑙や翡翠の石人は昔からいたらしいが、ダイヤモンドやルビーやその他外来種の天然石の石人も近年生まれるようになった。

 それは国際結婚の自由化が影響しているのか、未だ解明されてはいない。


 杜田美琴(もりたみこと)は祖母の家の本棚で古い冊子を読みながら、ため息をついた。

 これは亡くなった祖父の父、つまり美琴の曽祖父が書き記したものを、祖父がわかりやすく翻訳したものである。

 美琴の曽祖父はドイツ人だ。

 この国の石人について調べていたというのを母から聞いて、電車で二駅のここまで来た。



「美琴ちゃん、柏餅食べる?」

「…うん、ありがとう」

「面白い本、あった?」

「…ううん」

「今日は元気ないのねえ」

「おばあちゃん、ひいおじいちゃんてどんな人だった?」

「どんなって…日本語が上手な人だったわ。一生懸命覚えたって言ってた。綺麗な金髪で。でもおばあちゃんがお嫁にきて少ししたら病気で亡くなってしまったの」

「そう…なんだ」

「あの年はお葬式が立て続けだったからよく覚えてるわ。ひいおじいちゃんが亡くなってすぐに、ひいおばあちゃんのお兄さんも亡くなって…」

「おじいちゃんからみたら…伯父さん?」

「そうね。もう随分昔のことよ」

 美琴は柏餅を食べながら、もう一度本棚を遠目で眺める。先ほどの冊子を借りて帰ろうと心中呟きながら、美琴は通ってる高校の話を祖母に聞かせるのだった。



 美琴が体調の変化に気づいたのは先月のことだった。

 美術の時間にカッターを使う作業があった時、不器用な美琴は自分の指を傷つけてしまった。

 いや、傷つけたと思っていた。

 しかし美琴の指は傷ひとつなく、逆にカッターの刃が折れてしまったのだ。

 見間違いだと、もちろん思った。

 しかしよくよく見るとその切ったほうの指が違う色になっていた。

 うっ血など変色ではない。あきらかに違う、輝きを放つ指を美琴は急いで隠した。


『大丈夫か?』


 クラスの男子に声をかけられて驚いたが、指をもう一度見たら元の指の色に戻っていた。


 それから何度も不思議なことは続いた。

 爪の先が変化したり、果物に触れただけで傷をつけてしまったり。

 しかし一番驚いたのは、昨日涙が石に変わったことだ。

 その石はすぐさま隠して大切にしまい込んである。


 誰にも相談できなかった。

 両親に話したって、きっとひどい目にあうことはない。優しい両親だから。

 だがきっと気を遣わせてしまう。心配をかけてしまう。

 どうにかして自分一人の力で石化する現象を制御できるようにならなくては。

 美琴はそう何度も自分に言い聞かせて、奮い立たせるのだ。



 ネットや本で調べてみても、石人の可哀想な末路が都市伝説レベルで書き記されているだけで、大して参考にはならない。

 しかし『他人に対して警戒をしろ』と教えてくれたような気がする。

 今まで見た中で一番詳しく書かれているのは、曽祖父の記録。

 これは美琴の勝手な推測だが、曽祖父も石人だったのではないだろうか。

 個人で研究をしているように装って、石人が最低限知っておかなければならないことを書き遺してくれたのだ。

 もしも自分の体質が遺伝してしまった時のために。




「美琴、帰ったの?」

「うん」

「なんだ、ただいまぐらい言いなさい。おばあちゃん、元気だった?」

「うん。来週お友達とお芝居行くんだって」

「そう」


 母の瞳は美琴より色素が薄い。

 母も石人だったりするのだろうか。

 そんな素振りは見たことはないが、もしかしたら隠しているだけかもしれない。

 もしもそうだったらどんなに楽だろう。

 どうやって制御したのか相談したかった。


「どうしたの?」

「…ううん」


 でも言えない。











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