訓練所というのは壊すものなのだよ
カンッ、カンッ、カンッ、カンッ。
何かと何か。金属同士を叩きあっている音が聞こえる。
蒼がこっち(月)に来て数ヵ月。ついに、ついに、蒼は待ちに待ったここに来た。ここ……鍛冶屋のところに。
何年待っただろうか。というか待ちすぎて刀の存在感がなくなっていた気がする。
そのうっぷんを晴らすために…ではなく昔の勘を取り戻すために霜水をボコろう。カンッ、カンッ、という音を聞きながら蒼は思う。
このとき、ある医者の家にいる一妖怪がビクッとしたようだがどうでもいいことなので無視する。
しかし、穢れが一年ではなく数ヵ月でとれたのは予想外だった。ただ、限りなく一年にちかい数ヵ月だが。
カンッ、カンッ、カンッ、カンッ。
あの刀は既に修復不可と言われたので、刀を溶かしてもらい、新たな物をつくってもらっている。
(……つーか、あの刀は簡単に溶けるのだろうか。奥に入ってすぐとは言わないが数十分後には音が聞こえたぞ)
あきらかに普通ではない刀だが、蒼の能力では素材の名前までは見れないので、知るよしもない。
カンッ、カンッ、カンッ、カンッ。
何時間たったか。少なくとも一時間ではない。なら二時間か? 知るか。
……音が止まった。
「完成したか」
蒼は呟く。
その声にはいろんな感情が混ざっているように感じられた。何か、長年待ち望んでいたものを買って、家に帰らずその場で開封してしまたいような、そんな感じのもの。少なくとも負の感情ではないことはたしかだ。
そんな蒼の呟きを聞いたか聞いていないか。少なくとも聞こえるほどでかくもなかったと思うが、それを聞いていたとするならば、鍛冶師は答えた。
「完成しました」
鍛冶師は鞘に収まっている刀を蒼に差し出す。
蒼が「抜いても?」と聞いてきたので、鍛冶師は頷き、肯定する。
シャラン……。
鞘から出た刀身は、以前のような砕けたものではなく、全体的に青く、碧く、蒼かった。
「ははは。青ばっかだな」
「私は単一色で統一するのは好きですよ」
「そうかい」
鍔も、青と白をクロスしたようなものになっている。
「私はそれを……銘を『青』としますが」
「本当にあなたは単一色がお好きのようだ」
髪も青。目も青。服も全体的に青。刀も青で、銘も青。ついでに名前も蒼。『あお』ばっかだ。
「ふふふ。それは地球で、地上で多く使ってあげてください」
なんで? そう聞こうと思った青だが、鍛冶師の言った言葉をきちんと認識して、理解して、何も言わずに苦笑いを浮かべる。
ーーーー本当によくわからない人だ。
……というか、本当に人だろうか。
しかし、蒼にとってたいして気になることではないし、知る必要性も感じられないことなので、知ろうとはしない。
「それにしても、どうやれば刀があんな風になるんでしょうね」
「……『ありとあらゆるものを砕く程度の能力』だとよ」
あれは本当に酷かった。殴られただけで刀が使い物にならなくなったのだから。
完全に砕ききれなかったといっていたが、それは刀がよかったのか鍛冶師のうでがよかったのか。
……両方なのだろう。
改めて職人さんすげぇと思った蒼だった。
「それはそれは。凄まじい能力をお持ちのようだ」
「まあ、あれは殴って当てるってのが能力の発動キーみたいなものだし、砕くだけだから衝撃波とかないし、当たらなければどうってことないんだろうけど……。その本人の身体能力は凄かったな。あれだったら持ち腐れにはならないんだろうな」
流石は鬼といったところなのだろうか。
「……ともかく、刀、ありがとうございました」
珍しく敬語を使う蒼。
それを聞いて、いえいえと言って奥に引っ込んでいく鍛冶師。今日はもうお開きということなのだろう。
(さぁて、帰ったら体動かすか)
穢れを祓うためとはいえ、何ヵ月も(ろくな)身動きがとれなかったのはきついものがあった。
……以前の蒼ならこんなこと思いもしなかったのだろうが。年月は人のみならず妖怪も変えていくということなのだろう。相変わらず寝てばっかりではあるが。
蒼はここ、鍛冶屋をでた。
和風の鍛冶屋をでると、近未来的な、コンクリートばっかりが使われているような家々が嫌でも目にはいる。
穢れが無くなった今、以前のようにこそこそではなく、堂々と道の端の方を歩く。何故なら真ん中は車が通っているからだ。しかも排気ガスがあまり出ていない。
たがしかし。そんなことはどうでもいい蒼だった。今切実なのは、何故か通行人が自分を避けていくという訳の分からないものだった。
初めてのことではない。以前も、同じようなことが多くあった。
理由が全く分からない蒼だった。
蒼は気づいていないようだが、蒼はおかしい。
考え方とかではなく、見た目が。周りとあっていないと言うべきか。
蒼はまだまだ小さい。そんな子が、刀をぶら下げて道を歩いているのだ。気味が悪い。しかも、蒼が着ている服は、月人の皆様から見ると、かなぁ~り遅れている服装だ。変な目を向けられている。
そんな視線にさらされるなか、蒼は帰路につく。
「ほう、蒼。帰ってきたか」
永琳の家に和風と洋風と昔を混ぜたような男がいたが、蒼は無視して目的の部屋に行く。
「おい、ちょっと、ま、おい、おぉぉぉぉいっ!」
「うるせえよツクヨミ。なんかようか」
「久しぶりだ、蒼」
「ああ、うん、久しぶり」
月の都のボスにして、月の神。月読が男の正体だった。
こっちに来て半年以上。ツクヨミはここにずっと訪れなかった。永琳がただたんに伝えていなかったのか、それとも仕事が忙しかったのか。もしくは両方か。
「仕事が忙しくてな、なかなかこっちにこれなかった」
そうか。歩きながら蒼はそう呟く。ツクヨミに聞き取れる音量で。
ふすまを開く。
「おい、霜水」
「ん?」
霜水は振り返る。傍らには、お茶があった。
「付き合え」
「え? マジ? 春が来」
ガシッ! ズルズル……。
いつぞやの誰かさんみたく、蒼は霜水の襟首をつかみ、どこかへひっぱっていく。ツクヨミもついていく。
「……そういや、おまえらは自己紹介みたいなのはしたのか?」
蒼の質問にツクヨミは答える。
「ああ。最初は男が永琳の家にいてびっくりした」
「おまえも男だからな」
とにかく自己紹介はすましたということなのだろう。
霜水が「熱い! 熱い! 蒼はん尻が熱い! 焼けるぅぅぅぅっ!!」とか言って蒼の腕をパシパシはたいてくるが、蒼は無視した。なにか焦げ臭いにおいがするが気にしない。
だが、次の瞬間の、ツクヨミの言葉を無視することはできなかった。
「そこの霜水は恋人らしいな。おめでとう蒼。ほかにも理解者がいてよかったじゃないか」
後半部分は耳というか、頭に入ってなかった。
「そこのそうすいはこい」の部分のとき、すでに投球モーションに入っていた。
左足を軸に後ろに体の向きを入れ替え、その勢いを乗せた霜水という名の球をツクヨミに向かって投げた。
ゴッ!! という衝突音。ツクヨミは球をよけれず、まともに当たる。
そして、蒼は霜水に詰め寄る。
「ロリコンくーん。なにをいってるのかなー? 冗談でも言っていいことと悪いことがあるんだぞ。あ”あ”?」
霜水をおもいっきり殴り、今度はツクヨミに詰め寄る。
「さて、先ほどおまえが何を言ったかは知らんが、忘れろ。そんな言葉は誰も発していないし、書いてもいない。おーけー?」
「おーけー……」
ツクヨミも霜水と同じように殴る。
「あー、ちくしょう」
蒼は初めて女(の子)になったのを後悔した。
なんとなくだが、これからもこんな感じでいじられるような予感がすると、蒼は悟った。
そんなこんなと、事があって、蒼達は目的の場所についた。
自動ドアがウィィン…と開く。
先には床に、木の板が張り巡らされていた。
「ここは……?」
霜水が質問する。
「うむ、訓練所でも道場でも。そんなところだ」
「へー。初めて知った」
「蒼は知っててここにきたのではないのか」
「いや、なんか二足歩行している兎がぐでー、となんか素振りっぽい何かをしているのを見てな。とりあえずそんな所なのかなー、と。ここは不味いのか?」
「いや、そんなことはない。…見つからなければだが」
「うん、よし、やっか」
といい、蒼は構えた。
*ー*ー*
次の日、綿月依姫はいつもより早くここに来ていた。
最近……といっても一年近くだが、浦島太郎なる者が、ここにきて、それなりに面白かった。だが、兎の訓練もしなくてはいけない。まあ、日常のひとコマというところだ。
ただし、今日は少し違う。
いつもより、早く起きたことが?
違う。
いつもより早く来たことが?
違う。
ではなにか。
依姫が自動ドアが開かれた先にいつもと違う光景が広がっていた。
「……え?」
あの綺麗に敷かれていた木の板が、無惨にもボロボロ。殴ったような跡。それに切り口。少し湿っている部分もある。
「……え?」
敵?
そう思った依姫はすぐさま上に知らせようとして
「すまぬな」
また固まった。
振り返った先には月の都の頂点。ツクヨミがいたからだ。
だが、依姫が驚いたのはそこではない。
ここは月の都。月の都にいる者なのだから、ツクヨミがいるのも分かる。こんな所にいるのもまだ、わかる。偶然か必然かはおいといて。
ただ、次が分からない。
なぜ、月の都の頂点で、数多くいる神の中でも強さは桁違いの月読見様がこんなにもボロボロなのか。
いや、別に腕が片方ないとか、片眼がつぶれているとかそういうものではない。
ただ、至るところに包帯などの処置がされていた。
「すまんな依姫。こんなボロボロにして」
「い、いえ。別に構いません」
何が構わないのか。兎の訓練どうしましょう。
そんなことが依姫の頭の中で思い浮かぶ。
「これについては謝ろう」
そういって頭を下げようとするツクヨミ。
「い、いえ。訓練所なのでボロボロになるのもしょうがないことです。頭を下げる必要は御座いません」
それをあせあせしながら止めさせる依姫。
再度すまぬといってツクヨミは謝る。
「し、しかし、ツクヨミ様ほどの者に傷をつける者など……」
「うむ。友人だ」
「はぁ……」
言いたいことをいってツクヨミは帰っていった。
ボロボロにしたことによる謝罪をしにきたのだろう。
依姫は、ツクヨミの友人が気になり、後で師である永琳に聞こうと思った。
振り替える。
「どうしましょう……」
なんど見ても依姫の眼の先にはボロボロの訓練所だったものがあった。こんなボロボロでは訓練なんてものは出来そうにない。
他にもあったはずと思い、探しにいく依姫であった。




