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38頁 「才人は大聖者か極悪人のどちらかになる」

「ああっ、天ちゃん、天ちゃんっ……! わたしたち、王様に一方的に連れてこられたんだから、むしろ被害者だよねっ!? そうだよねっ!?」


「いえ、その論法は彼らには通用しないかと」


八方を取り囲んだ天使たちは、その全員が両手に白い光を凝縮し、魔法らしきものを撃つ体勢を整えている。ルビィアースとフレアにただちに神罰を下すつもりであるらしい。


「口ばかりが達者なカトンボどもだな。少し、君たちは引っ込んでいてくれないか。うっとうしい」


おもむろに右手を天にかかげたフレアに、それを警戒した三人の天使が魔法攻撃をしかける。身にまとった高密度の極小竜巻で天使の魔法をあっさりとはじき返し、フレアは自然への干渉と操作を進めていく。

快晴の天に黒雲が立ちこめ、黒雲の中でごろごろと巨大な低音が鳴り響く。フレアの自然魔法により、確実に雷雲が広がっていた。フレアを止めようのない天使たちは黒く染まった神の空をぼう然と見上げるしかない。


「高々度の空には地面も水も無い。利用できる自然はかなり限られるが、それでも空が近いのは助かるな」


黒雲から雷が雨のように降り注ぎ、フレアの周りの天使たちや浮島へと落雷する。雷に打たれた天使たちが死んだ鳥のように雲海へ墜落していき、浮島の森は落雷のせいで燃え上がる。青と白と緑でいろどられた美しい天上界は、逃げまどう天使たちが見る間に脱落していく阿鼻叫喚(あびきょうかん)の黒い地獄と化した。


「うぎゃーーっ!?」


当然、フレアにとって本来の敵であるルビィアースにも雷が落ち、真下の浮島へと落ちていく。


「しっ、痺れる……。効くわねーー……」


地上の観測所らしき建物のそばに落ち、ルビィアースは地面にひざを突いたまま、めまいのする頭を片手で抱える。竜人の異常な耐久力のおかげでまだまだ戦えるが、自慢の赤い髪は落雷のせいでところどころがちぢれてしまっている。


「近づけば竜巻、遠ざかれば雷か……。やっぱりとんでもなく強いなぁ、フレアさんは……。どうすればいいのかな」


フレアは雷雲の真下に陣取(じんど)ったまま、万全の迎撃態勢を整えている。フレアを捕縛しにやってきた武装済みの天使たちも順々に雷で撃墜し、誰も近づけない。もはや天使も神も何も恐れていない状態である。

ヴァルキリーから聞いたとおりだ。フレアの自然魔法は自然現象そのものであり、威力と影響範囲が大きすぎる。あまりに巨大な力の前には、ちょこまかとした技術や知略など意味をなさない。力には力で対抗しなくては。


「ル、ルビィさま……! だいじょうぶですか!? あの大魔女はもう誰にも止められません! 天災と同レベルですよ! ケガをしないうちに、早く負けを宣言しましょう!」


「……やるよ、フレイム。私たちの切り札を使うんだ」


それまでルビィアースから離れ、浮島の一つに避難していたフレイムだったが、ようやく立ち止まった主のそばに戻ったとたんにこの言葉である。フレイムは驚き、そして心をこめてさとすように肩に留まった。


「ダメですよ、ルビィさま! 一昨日まで、竜の力の使いすぎで小さいままだったじゃありませんか! 短い期間にまた同じ事を繰り返しちゃ、絶対身体に良くないですよ!」


「うるさいなー、そんなこと、言われなくても分かってる! でも、今はとにかく前だけを向いてつっ走るの! 力を残したまま降参だなんて、絶対後悔する。後のことなんか、後から考えればいい!」


あの大魔女フレアを相手に、どこまでルビィアースの力が通用するかを知りたい。全力をぶつけて、試したい。恐怖と期待が胸に満ち、髪が逆立つほどにぞくぞくする。


「フレイム。わたしの力、全部あんたにたくす。あんたの全力、わたしとフレアさんに見せてよ」


「……ええい、もう私は知りませんよ! また長い間小さくなっても怒らないで下さいよ!」


腹を固めたフレイムをなでるように、頭に手を添える。ルビィアースに潜在する竜の力がフレイム側へと移り、それにともないルビィアースの身体が縮み、反対にフレイムは成体のドラゴンへと変わっていく。

雷撃でちぢれ、長くカールした髪は短い直毛に。手足は縮み、胸もおしりも引っ込んだ幼児体型に。ぶかぶかの服をまとったまま、巨大な成体竜と化したフレイムの首へと小さなルビィアースは跳び乗った。


「これは驚いた。君にそんな愉快な隠し芸があったとはね。本当、君は楽しませてくれるよ」


「いけーーっ!」


天を突くような咆哮を上げた赤竜フレイムが、小さな主の号令のもとに翼を羽ばたかせ、空に飛ぶフレアへと一直線に迫る。

フレアは雷雲から雷を落とし、迫り来るドラゴンを打ち落とそうとするが、フレイムの動きはにぶらない。その首で指揮を執るルビィアースも、雷の直撃を受けなければどうということはない。最強種のドラゴンの、並の刃物では傷さえつけられない耐久力があってこそ可能な力技である。

雷による攻撃は効果が薄いと即座に判断したフレアは、防壁となる竜巻を展開する。しかし、その風圧をもってしてもなおフレイムは止まらなかった。竜巻の威力も強大だが、ルビィアースを乗せたフレイムが巨体すぎるのである。いくら建物を崩壊させ建材を巻き上げる竜巻でも、山のような巨岩は持ち上げられないのと同じだ。


「うぐぐぐっ……! いっ、いいぞぉーっ、フレイムー! このまま! 全速力で! 突っ込んでやれーーっ!」


首にしがみついたまま竜巻の暴風に耐えつつ、ルビィアースは赤い瞳に歓喜と戦意をにじませる。

竜巻ですら止められない巨大なドラゴンに、フレアはとっさに攻撃を捨てて回避行動をとったが、すれ違いざまにフレイムの巨木のようなしっぽに打たれ、空の向こう側へと吹き飛んでいく。

記念すべき、大魔女フレアへの第一撃。極小の竜巻で身を守っていても、ドラゴンの岩をも砕く一撃はかなり効いたはず。


「やったあ! きゃはーっ!」


精神年齢が五歳未満に落ち込んだまま、ルビィアースが満面の笑みで両手を上げていると、空のかなたから瞬時に届いた風の砲撃に、たまらずフレイムごと浮島へと叩きつけられた。影響範囲を直線状にしぼり、それと引き替えに威力と速度を飛躍的に高めた風の弾丸である。

小さな森をたたえた浮島が重量級のドラゴンの衝突によって割れ、雲海へと崩落していく。


「効いたよ。他人に傷をつけられるのなんて、何年ぶりかな」


しっぽにより吹き飛ばされたせいでフレアは髪を乱し、華美なドレスもところどころが破けている。暗黒の空に浮かぶフレアは、その金色の目にまぎれもない喜色をにじませていた。最強種のドラゴンという、全力を出すにふさわしい強敵を得たゆえの喜びである。

いまだに空は黒く染まったまま雷の雨は止まず、いくつもの浮島が落雷のせいで炎上し、しかも今一つの島が雲海に呑まれて消えた。これほどまでに神の沽券(こけん)を踏みにじられておきながら、力が及ばない天使たちは、大魔女とドラゴンのぶつかり合いを物かげに隠れてなすすべなく見つめるしかない。


「いけるいける! あのロトリィが言ってた! 勝つと信じるから本当に勝つんだって! さがらず、どんどん行くぞーっ、フレイムーっ!」


接近されるとやっかいな巨竜フレイムと距離をとりつつ、落雷や風の砲撃で迎え撃つフレア。フレイムとルビィアースもドラゴンの耐久力を最大に生かし、攻撃を受けつつも負けじと空を舞うフレアへと食らいついていく。

流れ弾の風や竜巻、それにフレイムの落下により、浮島が次々と壊れて雲海へ沈んでいく。先の雷地獄など序盤に過ぎない、神の国自体が滅びかねない戦争規模の崩壊劇が展開されていた。

これまで生きてきて、こんなに強い人間と戦ったことがない。風の勢いは呼吸すらも封じ、黒い空から降る雷撃は意識も身体も痺れさせる。

だが、それでもルビィアースは楽しい。未知の領域へと自分を引っ張り上げてくれるフレアとの戦いそのものが、かつてない大冒険だったからだ。


「強い! 竜人でも鬼でもないただの人間が、こんな強いなんて!」


たえまなく雷鳴がとどろき、いくつもの竜巻が雲海と浮島を荒らし回る天上界で、フレイムに乗ったルビィアースとフレアは、たがいに空に飛んだまま距離をとってにらみ合っていた。

たてつづけに大規模な自然魔法を使い、フレイムの体当たりを数回食らったフレアは魔力も体力も消耗し、疲れてきている。いかに稀代の大魔女といえど、不死身ではないのだ。

首の上で指揮をとるルビィアースよりも、高速で飛行し続け、巨体ゆえに風や雷を優先的に受け続けるフレイムの方が疲労が激しい。これ以上勝負を長引かせればフレイムの方が自滅してしまう。


「まけられない! ここまでねばったんだもの! みんなに応援されたんだもの! 絶対絶対、勝つわよ、フレイム!」


激戦の高揚感に酔いしれ、楽しくてしかたないルビィアースは、その赤い瞳に幼子ならではの無邪気さと残酷さをにじませ、薄笑いを浮かべたまま金色のフレアを見つめる。酷使(こくし)され続けて限界寸前のフレイムの方はたまったものではないが、今は主の言う通り、前を向いて進む以外に道はない。

肩で息をするフレアが、胸の前で両手を向け合わせた。手のひら同士の間で生まれた火だねは瞬間的に膨れあがり、大魔女は右手を天へと向けて、浮島ほどもある大火球を形成していく。高々度の薄い酸素という問題を、気流の循環速度を高めることで補い、火球の直径と火力を上げていく。

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