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32頁 「鬼婦人は活火山にて消える」

「いざ、勝負っ!」


大剣ワルキューレを腰だめに構え、空中を突貫するヴァルキリーに、フレアが大火球を振り落とす。

聖光で青く燃えるヴァルキリーと、太陽のように赤く燃えさかる火球が激突する。たがいに一騎当千(いっきとうせん)の戦士同士が全力でぶつかり合う瞬間のきらめきは、何百という命が散っていく魔法大戦の戦場を白く塗りつぶすほどだった。



古今東西の彫像や絵画、壺や装飾具、建築物の城や教会が浮遊する、星の心象風景。そこを逃げまどうルビィアースとフレイムに、白い振り袖をまとった獣耳の美女が追いすがる。

亡霊のように宙を飛ぶ、女に化けた妖狐(ようこ)。頭から一対のキツネの耳を生やし、おしりからふさふさした金色のしっぽを生やした妖狐が、背後にいくつも浮かべたこぶし大の狐火(きつねび)を次々とルビィアースへと降り注ぐ。


「あつっ、あちちちっ!? もうやめてよーーっ!」


頭を抱え、涙目になりながら逃げるルビィアースの行く先に、山伏姿(やまぶしすがた)天狗(てんぐ)が立ちはだかる。鼻が異様に長いいかめしい顔つきの男が大団扇(おおうちわ)を一振りすると突風が生まれ、ルビィアースの小さな身体は空高く舞い上げられる。


「ぎゃーーっ!?」


回転する天地の景色。なすすべなく顔面から地面に落ち、どうにか上体を起こして目を回していると、そこへすかさず雪女が飛来する。

青い着物を妖艶に着崩した美女の両手から放たれる、極寒の吹雪。ルビィアースは地面にへたり込んだ姿勢のまま氷漬けにされ、氷塊の内側に閉じ込められたまま、自身に迫る巨大ながいこつを見ていることしかできない。

がしゃどくろの右手払いに叩き飛ばされ、割れた氷塊から飛び出し、紫色に変わった地面を数回バウンドしながらごろごろと転がる。


「うぐっ、うぐぐぐ……! せめて、身体がもとのままだったらっ……!」


打ち身だらけの手足を懸命に動かし、疲労と痛みで重くなった身体を起こしてルビィアースは立ち上がる。息が切れ、全身から汗が噴き出る。いくら竜人の身体が過度に頑丈であっても限度がある。鬼百合が従える手ごわい妖怪たちに多勢に無勢であり、小さなルビィアース一人では手も足も出ない。


「そろそろ降参(こうさん)なさったらいかが? これ以上気張っても、いたずらに傷を増やしてしまうだけですわ」


小山のようながしゃどくろの首に腰掛け、口元を着物の袖で隠して笑う鬼百合は美しく、そして残酷だった。見上げているだけで、背筋が冷たくなるような妖しい魔性を感じさせる。


「竜人の元気娘ルビィアースちゃんをなめるなぁーーっ! わたし、これくらいじゃまだ負けないわよーっ!」


空に向けて獣のような叫び声を上げるルビィアースに、鬼百合は「楽しいですわ」と微笑んで鬼蓄の傘を傾ける。中から飛び出してきたのは、頭に大きな猫の耳を生やした少女である。すそたけがももの上までしかない黒い着物をまとい、草履(ぞうり)をはいている。そして腰の上に、二本の黒いしっぽが揺らめいていた。


「ええっ!? なにそれ、猫人の親戚!?」


「この子は猫又(ねこまた)。長寿の猫が妖怪化し、人に化けたもの。さあ、お行き」


元が猫というだけに、そうとう素早い。がしゃどくろの肩から地面へ飛び降り、またたく間にルビィアースへと詰めより、攻撃が届く直前で、なぜか突然上へと跳んだ。


「?」


ぽかんと見上げるルビィアースをよそに、猫又の少女は身軽な動作で宙に浮かぶ壺や城を足場にしてめまぐるしく居場所を変えていく。いつ飛びかかってくるか分からないので、猫又から目を離すことができない。


「なんだ……?」


「ただの陽動役ですわ」


がしゃどくろの右手が振られ、上を向いたままで棒立(ぼうだ)ちのルビィアースを一気にわしづかみにする。そしてそのまま宙へと持ち上げ、さらに右手を左手でおおい、巨大な両手でぎりぎりと締め上げてくる。


「あがっ、うぎぎぎ……!」


「こうなったら、もう勝ち目はありませんわよ。骨が折れないうちに、早く負けを宣言なさいな」


「あああっ、ルビィさまっ……!」


地面では、戦況を無表情で見守る天ちゃんの隣で、フレイムが震えていた。絶体絶命のルビィアースを前にしても、小竜のフレイム単体では何の力にもなれないのだ。


「ぐぐぐっ……、ちっ、ちきしょーーっ!」


うっすらと涙を浮かべ、力の限り手足を突っ張ってみても、白骨の手の中から抜け出せない。身体にぴったりと張り付いた金属の(おり)が少しずつせばまってくるようだ。息苦しさと圧迫感で意識が遠くなる。

負けるのか。そんな悔しくて悲しい思いと、そもそも何で天使祝司が欲しくてここまで意地をはってるんだっけ? という疑問の間をもうろうとさまよう。


「な……?」


この場の誰よりも先に驚き声を上げたのは、敵のルビィアースを凝視し、勝利の瞬間を待ち構えている鬼百合だった。

そして、がしゃどくろの手の中で苦しげにうめいているルビィアースのすぐ横に天ちゃんが瞬間移動する。


「ルビィアース。身体が元に戻っていますよ。これなら今の状況もくつがえるのではありませんか?」


「……えっ、……ああっ!? 本当だっ!」


時間経過による、消費した竜の力の回復。それが今の今になってやっと実現したのだ。いつもなら幼児姿から元に戻るまでに数時間はかかるところだが、今回は例外的に回復に長い時間をかけただけに、成長は一瞬の出来事だった。

手足のリーチがずっと伸び、力がみなぎる。ぼやけていた頭がはっきりとし、思考力が格段に上がったことを実感する。


「よーしっ! 万全の体調で! 反撃開始だーっ!」


歯を食いしばって全力で腕を広げ、すき間を作ると、丸太のような太さの指に両手を当てる。「んぎぎぎぎ……!」と力を込めたうなり声を上げてルビィアースは筋肉を最大限に稼働し、押し広げる。

数瞬後には白骨の指にひびが入り、がしゃどくろの両手が爆散(ばくさん)する。自由になったルビィアースは地面へと舞い降り、驚き顔の鬼百合を得意げに見上げる。

幼児退行していた時にがしゃどくろの強烈な打撃や妖怪たちの総攻撃を受け続けていたルビィアースの服は、すでにぼろぼろだった。しかも幼女体型から少女体型に戻った今となっては完全なサイズ違いであり、上着の所々に破れ目が入った半裸状態で、半ズボンもぱんぱんだった。しかし、そんなことは今の闘志高ぶるルビィアースの眼中にはない。

頭上の赤いシャボン玉がはじけ、芸術品や建築物が浮かぶ文化的な空間から、溶岩(ようがん)が吹き荒れる原初の火山地帯へと場が一変する。


「よくもさんざんぶんブン殴ってくれたものね! でも、今のわたしなら、お前なんてただのでっかい骨格標本だわ!」


がしゃどくろの大腿骨を両腕でつかみ、怒りの咆哮を上げながら力まかせに持ち上げる。そしてそのまま自分を回転軸として、がしゃどくろの巨体をぶん回す。鬼百合のそばに浮いていた妖狐や天狗や雪女を巻き込んで、かなたへとはじき飛ばす。元の姿でしかなし得ない、竜人だけの人智を超えた力技である。

手近な岩壁に向けて手を離し、宙を飛んだがしゃどくろが頭蓋骨から激突する。骨が砕け、関節が外れ、骨の山と化し、動くこともできなくなる。

いちはやく地面へと逃れていた鬼百合を見つけて駆け寄り、鬼百合も金棒状の鬼蓄をふりかぶってルビィアースを迎撃する。

鬼の剛力と鬼蓄の固さが合わさった、渾身の一撃。ルビィアースはそれを両手で受け、強大な威力に数メートルもはじきとばされる。両手両脚を荒野に押しつけて威力を殺し、もう一度飛びかかった時、鬼百合は鬼蓄を勢いよく振って地に突き立て、「ふぅ」と小さくため息をつく。


「参りましたわ」


「ええっ!? なっ、なんで!?」


「一回打ち合っただけで、直感しましたわ。いずれはわたくしの方が押し負けるのだと。ならばせめて、去り際はいさぎよく。そう思っただけですの」


首をかしげて残念そうに苦笑し、鬼百合は鬼蓄を傘状に変えて、周囲に散らばった妖怪たちを内側に招集する。


「ルビィアースさん、いじめてしまって、ごめんなさいね」


「いえ、そんなっ……! 戦いなんだから、傷つけ合うのは当たり前ですし!」


戦闘中に鬼百合がのぞかせていた邪気が、今ではもう綺麗に消えている。開いた唐傘を差し、にっこりと品良く笑う鬼百合に、勝者のルビィアースの方が申し訳なくなってしまう思いだ。

降参を宣言し、争奪戦における脱落者と見なされた鬼百合は即座に強制送還された。目の前からふっと消え、溶岩がわき上がる星の原初の荒野にルビィアースとフレイムと天ちゃんだけが残される。


「ルビィさまーーっ、私は、てっきりもうダメかと思いましたよーーっ!」


「ばか。危なかったのはたしかだけどさ、このわたしがそう簡単に負けるはずがないでしょ」


胸に飛び込もうとするフレイムを片手で押しとどめ、「そういえば、フレアさんとヴァルキリーさんは……」とつぶやき、黒煙に包まれた空を見上げていると、隣に天ちゃんが浮遊してきた。


「フレアとヴァルキリーは決闘の末に、フレアが勝利しました。よって最後の試練はルビィアースとフレアの一騎打(いっきう)ちとなります」


「……そう。ヴァルキリーさん、負けちゃったんだ……」

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