表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/44

31頁 「歴史の軌跡は屍山血河」

「なんだこりゃーっ!? 見たこともない服に、変な形の家……! いったい、いつの時代なの!?」


「ルビィアースたちが生きる現代よりもずっと昔に栄えた、古代人の文明です」


平らに整備された道路には宙に浮かぶ乗り物が高速で走り、その端には奇妙なデザインの服をまとった人間たちがぞろぞろと歩いている。手には極小のデバイスを持ってそれぞれゲームや電話や情報検索を楽しんでおり、何をやっているのかルビィアースや鬼百合にはさっぱり分からない。流線型の不可思議な建築物と、かつてルビィアースが古代の遺跡で目撃した機械兵に似た物体が、そこかしこにあふれかえっている。

何事にも動じないかと思われた鬼百合も攻撃の手を休め、すぐそばに浮かべた天ちゃんから事情を説明してもらっている。

低くうなる不気味なサイレン音と、それに導かれるようにして頭上から迫り来る円筒状の大きな物体。最終殲滅兵器の核ミサイルが街の一角に落ちたかと思いきや、真っ白な目もくらむ超爆発が起こり、人も機械も街そのものも残さず吹き飛ばし、後には天を突く黒々としたキノコ雲が残るのみである。前文明の終焉(しゅうえん)を、ルビィアースたちは言葉もなく見守った。


「古代人の爛熟(らんじゅく)した文明は、ささいなきっかけで起こった世界的な戦争で、ごくわずかな期間に滅んでしまったそうです」


星の記憶の再生が終わり、元の白と虹色の景色へと移り変わる。少しずつ薄れていく、灰燼(かいじん)に帰した古代都市を、鬼百合はがしゃどくろの背に乗ったまま見つめ続けている。心底驚いているようで、口元を着物のそでで覆い隠したまま、がらにもなくほうけている。

子どもは変化に柔軟である。悪く言えば興味関心が持続せず、飽きっぽい。鬼百合の隙を見だしたルビィアースはがしゃどくろの腕へと跳び、身体を駆け上がって操り主へと迫る。


「鬼百合さん、かくごーーっ!」


「……!」


右腕を振りかぶりつつ鎖骨の上を跳ぶルビィアースに、鬼百合は閉じたままの鬼蓄を急いで後ろへ構える。深紅(しんく)の唐傘が瞬時に暗色のトゲ付き金棒へと変化し、鬼百合はそれで飛びかかってくるルビィアースの腹を正確無比に殴り飛ばす。

ドラゴン並の耐久力をもつルビィアースですらが悶絶(もんぜつ)する威力だ。恐るべきは優雅で細身な鬼百合の外見とはふつりあいの怪力と、武器である鬼蓄の強度だ。


「ル、ルビィさま……! だいじょうぶですか!?」


「……へへっ、東方の鬼も、なかなかどうしてやるじゃねーか……」


「ふざけてる場合じゃないんですってば!」


「ふざけてないよ! ちょっと、かっこつけてみたかっただけ!」


ゆらりと立ち上がり、「いってー」と小声でうめきながら腹をさするルビィアースに鬼百合はくすくすと笑う。


「素敵ですわよ、ルビィアースさん。とっても丈夫で、人間のようにすぐに壊れてしまわないから、気がねなく全力を出せますもの」


唐傘に戻った鬼畜の内側から、以前に見せてもらった雪女や天狗といった人型の妖怪がわらわらと飛び出してくる。妖怪の群れに囲まれた鬼百合は、力の高まりで黒い長髪をゆらゆらと揺らし、かつて見たことのないよこしまな笑みを浮かべ、まさしく鬼女と呼ぶにふさわしい恐ろしい雰囲気をまとっていた。



古代神殿の石柱をたやすく削る竜巻。それを攻防一体の壁としてまとう大魔女フレアに追われ、聖騎士ヴァルキリーは幻影の都市の中を逃げ回っていた。今やワルキューレの鎧を機動重視の軽装に変え、その移動力でどうにか攻撃をのがれている状況だった。


「強い……! さすがは音に聞く大魔女……!」


柱の陰に身をひそめ、中空に浮かぶ大型の竜巻に歯がみするヴァルキリー。石細工で精妙に設計された芸術的な都市は、隣の守護天使によれば過去に栄えた文明の一つだという。現代では失われた技術と美術の宝庫である都市も、竜巻をまとったフレアの移動によって半壊し、自然の大災害に見舞われたのと同じ光景であった。

魔力を操る技術が違うとか、フレアの戦略が優れているとか、そんな細かい問題ではない。あの大魔女の自然魔法はあまりにも威力と影響範囲が大きすぎて、近づくことすらできない。ちっぽけな人間の単身で、圧倒的な台風や津波に立ち向かうようなものである。


「神よ、どうか私に栄光の勝利を……」


つかの間目を閉じ、つとめて呼吸を整えてささくれ立つ気持ちを落ち着け、短く聖句を唱えることで戦意を向上させる。

目を開ければ、隣には守護天使が灰色の瞳でヴァルキリーを見守っている。神の加護を受ける身として、奇跡の顕現を象徴するこの天使はなんとしてでもそばに置いておきたい。そのためにも守護天使が宿る天使祝司は勝ち取りたい。

乳白色の空に浮かぶシャボン玉の一つが震えだし、中身の膨大な量の液体がヴァルキリーたちの居る都市にぶちまけられる。

石の都市があっという間に押し流され、跡形(あとかた)もなく消える。代わりに新たに場に再現されたのは原初の海。


「この海もまた幻か! 水の中には居ても、息ができるな」


かつて母なる海で単純な原始生命が誕生し、進化と淘汰(とうた)を繰り返し、複雑な体構造の生物群が育まれていた。すでに絶滅したアンモナイトや三葉虫や繁栄する海中に、ヴァルキリーとフレアは漂っていた。


「……む、海の中では火も風も雷もダメか。氷も使えないな。海の中で戦ったことなどないから、知らなかった」


「勝機!」


開いた右手を見下ろすフレアに、ヴァルキリーはワルキューレの機動力を借りて海中を突進する。いかにあの大魔女といえど、自然の守りが無ければ防御は普通の魔法使いと変わらないはずだ。


「海……海か。なら、こんなやり方はどうだ?」


フレアの周囲に、猛烈な勢いの渦巻(うずま)きが生まれる。

海中でまたもや竜巻!? その意外な思いにヴァルキリーは驚きで目を見開いたが、竜巻ではない。水の流れが極太のウミヘビのようにうねりながらヴァルキリーに押し寄せ、その抵抗でフレアに近づけなくなってしまったからだ。


「バカな! 止まっているはずの海が、なぜ河のように流れる!?」


潮流(ちょうりゅう)さ。海は潮の満ち引きの力で流れるんだ」


海の環境に干渉し潮流を生み出したフレアは、向こう側の()いだ海中で悠然と腕を組んでいる。ヴァルキリーは横に急速移動して潮流の圧力から脱し、金色の大魔女に畏怖めいたものさえ抱いてしまう。

古来より、自然は人間に恵みを与えてくれる仲間あり、同時に人間の生活領域を侵略する敵でもあった。人類文明の発達度の一つは、いかに自然の脅威を克服し自然を征服できたかに表れる。

あの大魔女は自然そのものであり、進歩を続け地上の支配者となった人間にとっては征服すべき敵だ。


「やれやれ。また星の記憶が入れ替わるのか。落ち着かないね」


海の水が引き、入れ替わってはじけたシャボン玉が具現させたのは灼熱の戦場。赤い服をまとった軍隊と、黒い服をまとった軍隊がまっこうからぶつかり合い、両軍共に苛烈な威力の魔法を撃ち合っている。


「ははは。魔法大戦か。歴史学者を連れてきてやったら泣いて喜ぶだろうな。古文書にしか記録が残されていない、古代の一大戦争だ」


「赤い軍の勝利で幕を閉じると、そう歴史は語っている。私たちの眼下で奮闘(ふんとう)している黒い軍はこれから先、皆殺しにされるんだ」


(あり)の群れ同士が存亡を賭けて殺し合うのを見つめるように、フレアは「飛翔」の魔法で宙に浮いたまま、無邪気な子どもじみた笑顔で戦場を見下ろしている。

そんなフレアに反して、ヴァルキリーは隣に守護天使を浮かべたまま、悲痛な顔で足元の地獄を見下ろしていた。


「……変わらないな。いつの世も、人間の愚かさはまるで変わらない。いつでも、どこでも、奪い合いと憎しみ合いと殺し合いが際限なく続く。私が生きてきた戦場は、どれもみなそうだった」


軍を率いて、仲間とともに戦場を駆け抜けた日々。その熱く、激しく、血みどろの記憶が、ヴァルキリーの脳裏にまざまざとよみがえる。決意を新たに剣柄を握る手に力をこめ、もう一人の守護天使を後ろにはべらせたフレアをヴァルキリーはにらむ。


「守護天使よ、私を祝福してくれ。貴女を勝ち取り、万能の天使祝司を平和のために役立ててみせる」


「星の夢の案内以外の行動は許可されていないので、今の私には言葉でしか応援できませんが……」


目を閉じ、両手を胸の前で握り合わせて「がんばってください」とささやく守護天使に、ヴァルキリーの闘志が燃え上がる。


「ワルキューレ、ここで勝負をかけるぞ。ここまで私についてきてくれたお前の力、私は誰よりも信じている」


「私も、主人の勝利を信じています」


機動重視だった装備の大部分が解除され、代わりに剣の刀身へと装備が移り、構造が強化される。大剣を両手で構え、小手や臑当のみの最低限の守りとなったヴァルキリーは、全身に青い聖光をまとって低下した守備力を補完する。防御を捨て、攻めに特化した、ワルキューレの攻撃重視形態である。


「私は国を建て、王となる。生涯勝ち続ける私が、こんな所でつまずくはずがない。お前もそう思うだろう? 天使祝司」


「そ、そうですか……」


背後の守護天使ですらとまどうほどの、絶対的な自信。屈辱の敗北を完全否定し、黄金の勝利を露ほども疑わない、狂信の域に達した大魔女フレアの勝負哲学。

フレアは右手を天にかかげ、環境の中に存在する熱を根こそぎかき集める。魔法の火炎と爆発が入り乱れる過熱した戦場は特に都合が良い。気流を調節し、湯水のように酸素をつぎ込み、ぐんぐんと火力を上げていく。そしてフレアの頭上に浮かび上がったのは、第二の太陽とでも評すべき大火球である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ