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12頁 「神様の限界」

「ちっくしょー! こうなったら、フレイムとわたしが一気にあいつを燃やして、カタを!」


「待ちな。ここで、火炎のたぐいは使うんじゃない」


氷塊の中で剣とハンマーを振り回し、氷を砕きながら脱出を進める機械兵。それを金色の瞳で冷たく見据えながら止めるフレアに、ルビィアースは「どうしてですかあ!」と動物のように髪を逆立てる。


「気がつかないかい。ここは閉鎖空間でひどく酸素が薄い。なんとなく息苦しいだろう? こんな場所で大規模な炎を出せば、残り少ない酸素を燃焼し尽くして全員窒息してしまうだろう」


「ええっ!? そうなんですか……?」


「しかもここは地下だ。経年劣化でそこら中がもろくなっている。爆発や地震みたいな物騒(ぶっそう)なことをしでかすと天井が崩落して全員生き埋めさ。私の自然魔法は威力が大きすぎて、さっきみたいな敵を固める氷の術以外は使えない」


ついに最後の壁を砕き、機械兵がドームへと踊り出した。ミラクルラッキーガールのロトリィは、まるで敵の目に見えていないかのように一人だけ攻撃の的から外れている。リフレェンは殺意の剣と致命的威力のトゲハンマーを向けられても、全身を霧に変えて難なくすり抜けている。戦う意志を捨てたホワイトアリスはドームのはしっこで一人だけ、たとえ世界が滅亡しても自分だけは助かるような意気込みで自動回復をかけ続けている。チェスフォッグはのんびり屋の月詠に何かを話しかけているようだ。


「ぐうっ……! 気をつけろ、敵がそっちへ行くぞっ!」


避け損なったハンマー攻撃を食らい、聖光オーラによるバリアとワルキューレの鎧でダメージを軽減しつつも、ヴァルキリーは吹き飛ばされる。攻撃の重量に対してヴァルキリーの体重が軽すぎるのだ。

剣を持たない左手と両脚で地面と摩擦を起こし、ヴァルキリーは踏みとどまったものの、それまでどうにか押さえ込んでいた機械兵との間合いが大きく開いてしまった。

自由になった古代の殺人兵器がくるりと振り返り、背中のジェット噴射を使ってルビィアースへと超高速で接近する。

右手の大剣を優れた動体視力で避わし、押し潰そうと振り下ろされる左手の凶器ハンマーを蹴って軌道を変え、矢を放つしっぽを両手でつかむ。


「ドラゴンの馬鹿力、なめんなーーっ!」


「うおおおっ!」と猛獣じみた咆哮(ほうこう)を上げながら、しっぽを封じた機械兵をぶんぶんと振り回す。その異様な怪力にはさすがの機械兵もなすすべがない。


「こっちへ投げてくださいまし! 返り打ちにいたします!」


鬼百合の声が聞こえ、具体的に何をどうするつもりなのかは分からないものの、言われるがままに鬼百合の方へと投げ飛ばす。


「これが本当の、鬼に金棒ですわ!」


鬼百合が両手で持つ紅い唐傘「鬼蓄」が、彼女の胴体よりも太くて長い巨大な金棒へと瞬時に変化する。


「でやああああっっ!!」


普段の淑やかな態度とは正反対の、大音量の気合い声。痛そうなトゲが無数についた黒色の金棒を振りかぶり、大またを開いて腰を落とし、飛んできた機械兵を鬼百合がフルスイングで打ち返す。轟音とともに、ルビィアースのすぐ横をかすめて飛んだ機械兵はそのまま壁へ激突した。

鬼とはそもそも人智を超えた剛力をもつ、妖怪の中でも上位種の存在である。そのことを知らなかったルビィアースは、重そうな金棒を軽々と肩にかつぐ鬼百合に目を点にするしかない。

鬼百合の苛烈な一撃を受けた機械兵は、それまでヴァルキリーに何度も斬りつけられたダメージも加わって身体の至る所でばちばちと放電し、起き上がる動作も弱々しいものとなっている。かなり効いているようだった。

その時、部屋の一面を護符がびっしりと覆い、ルビィアースたちは紙のドームへと閉じ込められた。一つ一つが脈動する護符たちが織りなす小世界は、さながら無数の細胞で構成された生体内のようである。護符が次々と反転し、護符の裏側の景色が入れ替わり、もともと薄暗かった部屋がさらに暗くなっていく。


「狭いから戦いにくいのだとチェスフォッグに教わり、私も気づきました。これなら存分に戦えましょう」


そこは、夜空に青白い満月が浮かぶ鎮守の(もり)。神社と呼ばれる東方国の神殿と、外の俗世と内の神の世界を隔てる境界を為す朱い鳥居、それに石灯籠が建てられた空間に、九人と機械兵はたたずんでいたのだ。夜風が吹く涼しい森の中は、それまでの狭くて息苦しい地下ドームとはまったく別の広大さである。


「すごい……! 月詠様が、部屋の空間をまるごと書き換えたんだ!」


あまりに壮大な神の(わざ)に、ルビィアースが目を輝かせる。


「これなら、ロトリィちゃんも少しはかっこいいとこ、見せられる……」


機械兵が暴れ回るドームの中を走り回り、ジャンプとダッシュの刺激でいっそう悪化した吐き気をどうにかこらえながら、ロトリィが右手を頭上に高く上げる。

何も無い宙空からロトリィの手のひらに落ちてきたのは、一辺が指先がひじまでの長さほどもある大きな六面サイコロである。


「何が出るかな♪ 何が出るかな♪」


リズムをつけて歌うように口ずさみながら、右手に乗せたサイコロを投げる。ドクロマークのついた三つの怪しい目と、星マークやハートマークがついた三つの可愛らしい目を見せて地面を転がりながら、最後には星マークがついた目で止まる。


「よーし! あの鉄クズ、夜空のお星様にしちゃえーっ!」


右手で機械兵を指差したまま、勝ちどきをあげるように握った左拳を頭上に掲げるロトリィ。楽しげな号令によるものか地面のサイコロから小さな黄色の星々がいっせいに放出され、夜空の(あま)の川を思わせるきらきらとした放射線を描き、機械兵へと星の群れがなだれ込む。着弾とともに小爆発を起こす星の飽和攻撃を受け、地面がクレーター状にえぐれる。この威力では火気と震動厳禁の地下ドームでロトリィが自粛していたのもうなずける。


「やれやれ、やっと出番か。ただ立っているだけで終わってしまうのはつまらないものな。最後は美しく、豪華絢爛に終わらせようか」


大魔女フレアが飛翔魔法で天に舞い、巨体の機械兵が豆つぶのように見える高度で静止する。左手を地上の機械兵に、右手を天上の空へと向ける。

ところどころが故障し、足をもがれた虫のようにクレーターの中でもがく機械兵が帯電し始める。それと同時進行で夜空が黒雲に覆われ、ごろごろという不穏な低音が雲の中に響き始める。


「かりそめとはいえ、なかなかよく出来た世界じゃないか。本物の自然の性質をそのままに備えている」


口元をまがまがしい笑みに歪め、天へと伸ばした右腕を下界の機械兵へと振り下ろす。五つもの落雷が音速を超えて機械兵へ殺到し、轟音と閃光がルビィアースたちの意識を痺れさせる。

膨大な電撃で全身の回路を破壊された機械兵は今度こそ沈黙し、それを見取った月詠が世界の改変を解除する。空を雷雲に覆われた神社から、地下ドームの中へと九人と機械兵の残骸は引き戻された。


「見事であったぞ。現時点で宝珠をもつ八人を合格とする。宝珠を手にできなかったお前は、今ここで失格だ」


いつの間にかドームの中に現れた王とお付きの銀髪少女に、全員の視線が集まる。王の厳しい視線の先にいるのは……ぽかんとした顔の月詠だった。


「そんなっ……!? 月詠様、なんでっ……!」


「あっけにとられて、取るのをつい忘れていました。どうにも駄目ですね。神は死なないから、人生の密度が薄い。限りある命しかもたないあなたたちのように必死になって何かに取り組むことができません」


たまらず駆け寄るルビィアースにも、「天使祝司のことは、もともと拾い物のようなお話ですから。諦めも簡単につくというものです」と肩をすくめて苦笑する。


「明日は天使祝司の試練は無い。各々、身体を休めておくがいい」


次の瞬間には、もうルビィアースとフレイムはリキュール亭の中に移動していた。しかも店の床にではなく、お客がついたテーブルの上に立っていた。移動直前の、ダンス中のひとコマを切り取ってきたかのようなシュールなポーズで固まるルビィアースに、奇術めいた瞬間移動もあいまって歓声と拍手が湧き上がる。


「ああーっ!? ルビィちゃん、いったいどこへ行っていたのよお……!」


すっかりできあがっている猫人の女の子たちに飛びつかれ、かろうじて肩に引っかかっていたボロエプロンもついにちぎれてしまう。

破ってしまったエプロンと無くしたコップの責任を取るために、機械兵にどつかれてにぶく痛む身体にむちを打ち、ルビィアースは客の呼び込みとウェートレスの仕事を再開したのである。



夜の内に昼間の古代遺跡に移動し、また夜に戻るというのは、一日分の時間を飛ばしていきなり翌日の夜に来てしまったような、何とも奇妙な感覚だった。しっくりしないものを感じながらベッドで眠り、昼間いっぱいをリキュール亭で働いて過ごし、夜になっても祭りの熱気が冷めやらない街を散策する。


「まさか、神様が最初に脱落するだなんて。王様の試練、厳しすぎないかしら」


「ご本人のやる気の無さがたたりましたね。鬼百合さんが前に言ってましたけど、天使祝司の争奪戦はお祭りの一部みたいなものですから。そう気負わず、月詠様みたいに気楽に行けばいいと思います」


海産物のタコの脚を甘辛いソースをからめて焼いた不思議な料理が屋台で売っていたので、興味につられて買ってみた。その吸盤がたくさんついたグロテスクな外見に食欲を失いかけたが、恐る恐る口に運んでみるとこれが思いがけず美味い。こりこりとした弾力ある食感とほんのりとしたタコ自体の甘さ、それが味付け用のソースと良く合っていて、ゲテモノは美味いという俗説は一理あるといえた。タコの脚一本をまるまる貫いた串を三本追加で買ってしまう。

今夜は趣向を変えて繁華街を離れた人気のない場所へ行ってみよう。ふとそう思い立ち、タコの串を片手に祭りの喧噪から遠ざかってみる。

そもそも人自体があまりいないため、屋台や出し物もほとんど見当たらない。「失敗だったかも?」と隣のフレイムに笑いかけていると、妙な雰囲気の場所へと行き当たった。

ぴりぴりとした、緊迫した空気が場を覆っている。まばらな通行人が、ある一つの路地へと吸い込まれるように消えていく。

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