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11頁 「古代の超文明」

たしかに時刻は夜だったはずなのに、空には太陽が昇っている。それのみならず、息苦しいような、耳にきんきん響くような、何かに見られているような、不思議な圧力が身体にかかるのだ。明らかに尋常(じんじょう)な所ではない。


「ここは鎮守(ちんじゅ)の森という。はるか昔に栄えた古代文明の遺跡が人知れず眠る、原生林だ」


いつの間にか、こんな訳の分からない怪しげな場所まで召喚した張本人……エルドラド王とそのお付きの銀髪少女が皆の背後にたたずんでいた。

ルビィアースは片手を挙げて説明を求める。


「王国では夜だったのに、どうしてこの森は昼なんでしょう?」


「この鎮守の森は、王国が在る場所の反対側なのだ。天使祝司を使って世界の裏側までお前たちを飛ばしてやった。労せずに世界旅行を楽しむことのできるお前たちは果報者であるな」


「なるほど。これが時差というやつか」


フレアだけは、この同時刻の昼と夜の違いを知識として知っていたらしい。


「怪音。神隠し。来訪者が精神に異常をきたすなど、種々の怪現象が起こるいわくつきの森だ。太古の神に護られた聖域などと言い伝えられている。ルビィアース、お前の持つコップの液体をよく見てみろ」


言われてのぞき込んでみれば、ルビィアース自身は静止しているというのに、コップの内側の酒に波紋が起こり続けている。大気に何らかの力が満ち、その影響で液体が揺れているらしい。ルビィアースは「うわっ、変なの!」と驚いてコップに見入った。

四方を囲むうっそうとした樹林には、閉塞感と圧迫感がある。うだるような熱気と湿気は不快な気分を増大させ、ただここにいるだけで体力と精神力を削られるようである。得体の知れない獣の鳴き声がそこかしこから聞こえ、不可思議な重圧を抜きにしても、人の手が加わっていない自然の力はそれだけで異物の人間を押し潰しにかかってくる。


「では、観光案内はこれくらいにして本題に入ろう」


王が右手から下げた天使祝司が白く光ったかと思いきや、またもや景色が瞬時に変転する。まず最初にルビィアースが感じ取ったのは打って変わった暗さと、肌をなでるような冷たい空気の涼しさだった。


「ここは、さきほどまで居た森のちょうど真下……地下遺跡だ。まだ盗掘に荒らされていない、手つかずの貴重な場所だぞ」


「日光は苦手だから暗い場所は助かるけど、なんとも嫌な場所だね」


吸血鬼のリフレェンが闇の向こう側に目をこらしている。光源らしい光源もないというのに、中央に大きな球形オブジェを飾ったドーム状の部屋全体が、うっすらと暖色に光っている。


「なんだ、これは? 強い魔力がこめられているが、術式構成が私たちの知る現行のモノと違いすぎている」


フレアが足元で光るピンクの石をもぎ取り、それをいぶかるように観察している。


「失われた古代技術の結晶だ。仕組みは分からなくても、その防護効果の高さから一級の魔法道具を造る際に核として使用される、かなりの貴重品だぞ。持って帰って売れば一財産を築けるだろう」


地上の森で味わった、気分を害する重圧の気配。それが何倍も濃くなって、ドームの中に充満していた。その毒気に中てられ、ルビィアースは軽い吐き気と頭痛で頭を支える。悪酔いしているロトリィの様子はさらに深刻だった。


「この銀色の宝珠(ほうじゅ)と同じ物が、部屋の各所に八つ、用意して置いてある。お前たち九人で奪い合え。最後まで宝珠を手にできなかった者が最初の脱落者だ」


「なっ、なら早く取って、さっさとクリアしなきゃ……」


最悪のコンディションにも関わらず、ロトリィは部屋の向こう側で銀色に輝く宝珠へ、トテトテと駆け寄っていく。八つの銀色宝珠はすぐにそれと分かるように部屋の八方に置いてあり、宝探しのゲームではないらしい。

宝珠に近寄ったロトリィの鼻先を巨大な矢がかすめ、奇妙な文字列が書き込まれた紺色の壁へと突き刺さる。まったくの幸運で死をまぬがれたロトリィは「うわぁーっ!?」と悲鳴を上げ、その場に尻もちをつく。


「侵入者ハ、殺シマス! 侵入者ハ、殺シマス!」


ロトリィへと矢を放ったドーム中央のオブジェが変形し、合成音を発しながら動き始める。


「アレは古代の殺人兵器だな。遺跡荒らしをすみやかに抹殺する機械の番人だ。アレが沈黙した時点で宝珠をもつ八人を今回の合格者とする。以上」


勝手にそう言い残し、エルドラド王と銀髪の少女はワープして消えた。青ざめるルビィアースをよそに、いきなり死地へと放り込む選別の試練はすでに始まっていたのだ。

身の丈はおよそ普通人の五倍。その巨体だけでも戦意喪失しそうな威圧感をたたえている。ルビィアースたちが見たことのない灰色の金属の身体に、左右の手に大剣とトゲ付きの大ハンマーを持つ、全身が凶器ともいえる無慈悲の殺人兵器。どういう原理によるものか、亡霊のように宙に浮かんでいる。


「ちょ、ちょっと……! やばいでしょ、コレ……!?」


視界いっぱいに立ちふさがる山のような機械兵に冷や汗を浮かべ、ルビィアースはひきつった笑いを浮かべるしかない。

先手必勝。持ち前の足の速さを生かしたダッシュを仕掛け、機械兵と距離をとりつつ、宝珠へと先駆けるルビィアース。

完全に攻撃の間合いの外だと確信していたのに、古代の機械兵は背中で指向性の爆発を起こし、その推進力による爆発的な速度でルビィアースに迫る。


「げえっ……!?」


目をむく間はあれど、避ける時間などない。一瞬で間合いを詰められ、ほとんど身体の同じ大きさのハンマーに殴り飛ばされ、そのまま部屋の反対側の壁へと叩きつけられる。


「いってーーーっ……。頑丈なわたしじゃなきゃ死んでるぞ、この威力……」


ぼろぼろになったリキュール亭のエプロンを片側ストラップ一本でまとい、こぶが出来た頭をさすりながら、ルビィアースは壁のがれきの中から起き上がる。


「ああっ……!? これは、宝珠!」


吹き飛ばされた場所が運良く宝珠の置いてある所だったため、ルビィアースは足元に転がっていたこぶし大の宝珠を手に入れることができた。

ルビィアースが狙われている間に、他の皆はちゃっかりと部屋の方々へ移動し、それぞれ宝珠を手に入れていた。ルビィアースが見る限り、宝珠を置いたどの台もすでに空になっている。誰かは分からないものの、宝珠は一人を除いてすべての者に行き渡ったのである。


「侵入者ハ、始末シマス!」


とんでもない速度と重量のタックルをまともに食らい、よりもよって九人中一番か弱そうなホワイトアリスが壁へと叩きつけられる。ブラックアリスの人形を大事に胸に抱えたまま、ほこりにまみれた姿でぴくりとも動かない。


「ホ、ホワイトっ……!? そんなっ、死んじゃったの……!?」


両手で頭を抱え、ホワイトアリスの名を叫んでいたルビィアースだったが、壁際で横たわっていたホワイトアリスがきらびやかな白い光に包まれ、その直後にむっくりと起き上がる。傷ついた身体はもちろんのこと、服の破れや汚れも完全に元通りだった。


「……自動回復か。なかなか便利な能力だな」


意思をもつ武装ワルキューレを右手に構え、ヴァルキリーが機械兵へ向かって踏み出す。


「ああ、びっくりした! ここは攻撃型のブラックに代わるよりも、ホワイトのわたしで守りに入っていたほうが安全ね」


いち早く部屋のすみへと避難したホワイトアリスには見向きもせず、ヴァルキリーは顔の前へ鞘ごめのワルキューレを掲げる。


「王様ーー!! もう宝珠は全部行き渡ったんですーー! 早くここから出してーー!!」


天井に向かってルビィアースが力いっぱい叫んでも見ても、声がむなしく反響するだけだ。ドームに閉じ込められた現状は何も変わらない。


「アレを倒さない限り、終わらないらしいな。王の言葉も、よく考えてみればそんな意味だ」


アレが沈黙した時点で宝珠を持つ八人を合格者とする。それはつまり、試練の終了条件は機械兵の破壊が前提となっているということだ。


「ワルキューレ。防御主体の全身武装だ」


「はい。我が主よ」


剣を納めていた鞘がヴァルキリーを包むように展開し、全身をくまなく防護する銀色の甲冑(かっちゅう)へと変形を遂げる。さらに鎧の上から神聖な青い光をオーラのようにまとい、それが強力なバリアの役目を果たしているらしい。

猛スピードで突進してきた機械兵の剣をワルキューレの剣で受け、振り下ろされるもう片方のトゲハンマーを避け、ヴァルキリー単身で巨体の殺人兵器と打ち合っている。剣にも金色の聖光をまとわせ、威力と強度を飛躍的に高めているらしい。


「どけ!」


攻防を繰り返すうちにめまぐるしく居場所を変え、機械兵が背後に誰も居ない部屋の隅に移動した時、フレアの声でヴァルキリーが跳びのいた。

無数の白い結晶がフレアの両手から放射された直後、ドームの一角を埋め尽くす大容量の氷塊に機械兵が閉じ込められる。極北の氷河をそのまま再現したかのような広範囲で大威力の氷結魔法である。


「や、やっつけた、の……?」


不安と期待が入り交じったつぶやき声を上げ、凍り漬けにされた機械兵を見つめるルビィアースだったが、氷の壁の中の機械兵が再び動き始めたことで、「あわわわ」と奇声を発する開きっぱなしの口を両手で抑える。


「……だめだな。生き物相手なら良いんだが、あのデカブツは生身じゃない」


氷塊に閉じ込めてしまえば、生物は窒息し、同時に低温で凍死する。しかし、機械兵には対生物用の自然魔法が通じないのである。

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