食堂のコップの水が、男の声の形に変わった日。
Third Ear Bandの『Elements』。
「最後のwater以外は聴かなくていーよ。但し! ボリュームMAXにして耳ん中かっぽじってイヤホンぶっこみ、フトンの中にて暗闇の中聴きぃーや!」。
その職場(某大学の本屋)で働く者は皆、趣味で楽器を奏でてていた。というか人事がハナからそういう人を採用するのであった。マリンバやタブラ、ガムランなんかの打楽器が主だった。ぽこぽこ、ぽこぽこと、意味を持たない音が、いつも楽しげに本屋のレジ下の地球と一緒にタムロっている。
お昼になるといつも、大学の床底をカカカカカと真っ直ぐひたむきに鳴らす音があった。その男は休憩時間になるといつも走っておっかけてくるのであった。そして方向音痴なヲレを食堂まで連れて行き、なぜか共に飯を食うのであった。
食堂で話す会話といっても「きのー大学生喰っちまったよ」「あんた、彼女いるんだろ。サイテー!」「ぼくは彼女のニセモノのホンモノだからいいのさ!」「いみふめーです!」みたいな感じです。一見するとただの支離滅裂な世迷い言なんだが、こういう輩に限って、みょうに純粋というか、こっちの防衛本能の隙間にヌッと入り込んでくる奇々怪界の住人なんですな。
ワシはその男がなんか気になるのであった。なんか、なんか、気になるのだった。
「どうしてそんなに親切なのさ!?」ある日なにげに聞いたら
「あんたが気になるから」とその男も答えた。
(床)
(床)
(床)
その瞬間、食堂のコップの水は、男の声の形に変わった。男から借りたCDときんぴらごぼうは平泳ぎを始めた。
エレメンツ。
水。
水。
きんぴらごぼう。
平泳ぎ
水。
とろ~ん、とろ~ん、とりろりろ~ん
お布団の暗闇は、まるで世界にヲイラと、走って追いかけてくるあの男しかいなくなったみたいな、じつに変な、宇宙です。




