48話 11月26日 到着した手紙より②
拝啓 立冬の候、多々良先生におかれましては、お健やかにお過ごしのこととお喜び申し上げます。
突然の手紙、失礼いたします。
私は佐藤由良と申します。先生の作品はデビュー作の『男装少将シリーズ』から全部拝読しております。現在は『溺愛シリーズ』が先生の代表作のようにいわれていますが、私は『王妃アリアドネ』が大好きです。大学時代の友人たちもやはり『王妃アリアドネ』を上げるほどです。
たくさんのラノベを執筆される傍ら、先生がライフワークとして怪談実話をカクヨムにて掲載されておられるのは知っていました。
しかし私はホラーがとても苦手で……。先生の文章が読めないなんて、と悔しく思っていたところ、Ⅹで『多々良リョウの「なおこちゃんの手紙」なんか不気味』と流れてきました。
なおこちゃんの手紙。
私は思わず息が止まるかと思いました。
なぜなら、私も「なおこちゃんの手紙」を出したことがあるからです。
そうすることで、なおこちゃんに命を救われたと言っても過言ではありません。
◎◎小学校3年生のころ、私はいじめられていました。
このころからアニメやラノベが大好きで、休み時間にはひとりで本を読んでいるような子でした。
ついたあだ名は「キモオタク」でした。
ラノベや漫画は破かれ、ノートは落書きされ、トイレに閉じ込められて上から水をかけられ……。そのせいでしょうか、雨が続くと当時のことを思い出して気持ちがふさぎ、いまでも心療内科に通っています。
私はその日、死のうと思って駐車場にいました。
体操服を隠され、着替えられなかったのです。(しかもひどく汚され、書くのも憚られる文字が油性ペンで書かれていました)
最初はだれか先生が探しに来てくれるかとドキドキしたのですが、誰も来ませんでした。
そのせいかひどく落ち込み、私は駐車場と隣接している校舎の3階に行くことにしました。
あそこから駐車場にむかって飛び降りようとおもったのです。
そのとき、なおこちゃんが現れました。
「あそぼう」
と彼女は言い、私に「パン食べる?」と尋ねました。
パンはいらないし、遊べない。なぜならいまから死ぬから、となおこちゃんに伝えると、なおこちゃんはとても驚きました。
「もったいない」と。
生きられるのなら、生きればいいのに。どうして自ら死ぬのか、と。
私はなおこちゃんに、自分がどのような目に遭っているのかを切々と語りました。
なおこちゃんはずっとそれを聞いてから、半ズボンのポケットから一枚の手紙を取り出し、私に差し出してくれました。
「これをいじめっこに出せばいいよ。なおこちゃん、その子たちのところに行ってあげる」
なおこちゃんは胸を張ります。その姿は、アメコミのヒーローのようでした。
でも、そのあとちょっとだけ不安そうに目をきょどきょどさせました。
「その子たちのおうちには、お父さんいるかな」
「いるかもだけど……。みんな帰宅するのは夜じゃないかな」
当時の父親というのは、どこでも家事にたずさわらず、20時ぐらいに帰宅していたように思います。幼いながらも私はそう考えていました。
「そう。じゃあ、なおこちゃんがその子たちの家に遊びに行ってあげる」
なおこちゃんは歯の抜けた口を開けて笑いました。
そして、私が手紙を読んでいる間にきえてしまいました。
私は「なおこちゃんの手紙」をいじめっこたちに出しました。手紙には5人と書かれていたので、出す相手をしぼりました。もともと、烏合の衆だということはわかっていましたから、発言力の強い数人を黙らせることができればいじめからは逃れられます。
効果はてきめんでした。
彼らはおびえたものの「おびえている」ということを隠すために、手紙は誰にも出さず、そして手紙の存在を黙っていたようです。
10日後。なおこちゃんが訪問したのでしょうか。実際には私はわかりません。
父の仕事の関係で突然九州に引っ越すことになったからです。
その後、「なおこちゃんの手紙」を知る人は誰もいませんでした。
そう。Ⅹを見るまでは。
多々良先生がもし、なおこちゃんとまだ通じているのなら、私に代わってお礼を伝えていただけないでしょうか。
私はいま、小さいですがパン屋を開いています。なおこちゃんにもぜひ食べてほしいです。
住所を記しておきます。先生もお近くにお立ち寄りのさいはお越しください。
(〒***-**** □□市k・・・d町 25-3 ベーカリー ドロップス)
それでは、寒さが日ごとに増しております。どうぞお風邪など召されませんように。
先生の今後のご活躍をお祈りしつつ。
敬具




