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なおこちゃんの手紙【モキュメンタリー】  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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34話 立花邸③

「暗いところにいつもなおこちゃんがいる気がする。気がするだけじゃなくて、手を伸ばしてつかまえようとする」

 凛が震えながら言う。


「どうしたらいい?」

 と。


「あのね、凛さん」

 石島がなにか言うより先に、涼子は口を開いた。


「仙田さんは、どうして『なおこちゃんの手紙』をもらったのかな」


 凛は凍り付いたように動きを止めた。


 じっと。

 涼子を見つめる。おびえたように。


「だよね? わかってるよね。理由は」

 どういうこと、と母親が小声で凛に尋ねる。だが、凛は青白い顔で黙ったままだ。


「やったことはめぐるんだよ。自分だけが安全なんてことない。わかった?」

 伊勢先生、と石島が制するが、涼子は肩をすくめた。


「私はもう教員じゃありませんから。はっきり言うけど、君たちがしていたことは卑怯者のすること。この状況は君たちが招いたんだよ?」


 涼子の言葉に、母親もなにか察することがあったのかもしれない。険しい目で娘を見つめる。


「もうしない? 反省したなら、いい方法を教えてあげる」


 涼子はふたたび身を乗り出し、凛を真正面から見据えた。

 彼女は上目遣いに涼子を見つめていたが、しばらくすると背筋をのばし、真剣な面持ちで、こっくりとうなずいた。「よし」。涼子はにっこり笑う。


「私はいろんな人の怖い話を聞いてきた。それで、ひとつ、気づいたことがある。なんだと思う?」

「……呪われた人は、死んじゃう?」

「違うよ」


 伊勢は笑った。


「生きてる人と、死んでる人だと、生きてる人の方が絶対的に強いってこと」

 涼子は続けた。


「相手が神様だと違うよ? 土地神さまとか、名のある神とかね。ほら、よく廃神社とかにいって呪われました、とかあるでしょ?」

「……ユーチューブで観たことある……」


「ああいうのはもう、自業自得。だけど、死んでる人になにかされる場合は、絶対生きてる人の方が強い」

「そうなの……?」


「うん。生きてる人間ってね、魂魄がそろっている状況なの。魂のコンは、魂ってこと。魄のパクは身体ってこと。死んだ人は、魂だけ。ふたつ持っている人と、一つしかない人。どっちが有利?」

「……ふたつ」


「そうでしょ? だから凛さんのほうが絶対的に強い。これは忘れちゃいけない。わかった?」

「……はい」


 涼子は柔和に笑った後、前かがみになる。


「ねえ、凛さん。ひとつ聞きたいんだけど」

「はい」


「なおこちゃんの手紙はやぶって捨てたって聞いたけど。そこに『もしなおこちゃんが来たら』っていうような文章はなかった?」


 石島と母親の視線を感じ、涼子は視線をそちらに向ける。


「不幸の手紙やチェーンメールと呼ばれるものは、『不幸になる』とか『死ぬ』とか恐ろし気なことを書きつつ、『でもこうすれば避けられる』というようなことを書いているものです。この場合は、『10日以内に5人に出す』とかですが……。それ以外にも対処方法があるんですよ」


 涼子は「原文」を見ていない。

 手元にある三沢真花から受け取った手紙は、あれはたぶん原文ではなく、一部だ。


「……あった」

 凛は答えたものの、ふたたびボロボロと涙を流す。涼子はできるだけ穏やかに彼女に話しかけた。


「それは、『かくれんぼするぞ』のあとに続くのかな?」

「……そのあたりはわからない。だけど、もしなおこちゃんに出会ったら」


 ひぃっくと凛がしゃくりあげる。


「『お父さんに相談すればいい』って書いてあって……。私、お父さんいないし」

 手で顔を覆って泣きながら凛は続ける。


「……お父さん?」

 なんだそれは、と涼子は眉根を寄せた。いきなり現れた『お父さん』。


「ほかの子たちも、お父さんが遠くに住んでたり、あんまり家にいなかったり……。だから、どうしよう、って」


 つい意識が『お父さん』について集中しそうになるが、凛の泣き声で我に返った。

 あとでゆっくりと考えればいい。まずは凛を落ち着かせねば。


「そうかそうか。ねえ、凛さん。こっちを見てくれる?」


 涼子がゆっくりと、静かに声をかける。

 しばらくして落ち着いた凛が顔から手を放して涼子を見た。


「もし今度、なおこちゃんが来たら『帰って!』って大きな声で言うといいよ。それでも姿が消えなかったら、九字を切るといい」

「九字?」


「人差し指を立てて。……そう。それで、横、縦、横、縦ってなぞるの。そのときに、臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前って言うよ。一回やってみようか」


 涼子がやってみせると、凛は真面目な顔で真似て見せた。その隣では、母親も必死な面持ちだ。


「もしそれでもしつこく現れるようなら、『伊勢涼子のところに行け』って言えばいいよ」

「え……。でも」

「私は大丈夫」


 にっこり笑って、伊勢は隣に座る石島に顔を向けた。


「私からは以上です。あとは心理的なケアをお願いします」

 石島は一瞬豆鉄砲をくらったような顔をしたが、すぐに学校心理士の顔を取り戻し、凛に正対した。

 石島がなにかを話しかける。

 そんな声を聞きながら、涼子はもう一度『なおこちゃんの手紙』の文面について頭の中で考えていた。


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