15話 11/5 電話によるインタビュー
「あ、どうも初めまして。膳所芳樹と申します」
「こちらこそ、初めまして。御子柴がいつもお世話になっております。伊勢涼子と申します。今日は無理なお願いを聞いていただき、ありがとうございました」
「いえいえ。陽太からノーコメントもありって聞いたんで。それに伊勢さんと話してみたかったんですよね」
「はい?」
「俺が御子柴と仲いいって知ってる教員連中から『あいつ、伊勢先生につかまった』みたいなことをいってたので……。どんな人かと思って」
「……はあ」
「あいつ、『奥さんに会わせろ』って言ったら、『惚れるから駄目だ』の一点張りなんですよ」
「……はあ」
「中学校じゃあ『伊勢先生につかまった』って言ってますが……。俺から言わせれば、『陽太先生につかまった伊勢先生』ですけどね」
「そのとおりです!!!!!!」
「やっぱり! いやあ、今日、こうやってお話しできて、俺のほうこそありがとうございます」
「……それは、どうも。なんと言えばいいのか……」
「で、『なおこちゃんの手紙』でしたっけ?」
「ええ、そうなんです。11月4日に記者発表された小学校の一件に、この『なおこちゃんの手紙』が絡んでいるかどうかを、まずお答えいただきたいんですが」
「うーん。正直に答えると、まったくわからないんですよ」
「同じ校区の小学校にお勤めですよね?」
「かん口令がひかれてて。徹底してますね」
「児童の集団パニックが起こったとか」
「みたいですね。まあ、この辺の保護者ならみんな知っていることなのでお答えすると、夕方まで校舎に残っていて、なにかをして集団パニックになったようです」
「大人の関与は?」
「これは言い切れますが、全く関与していません。当時、校内に教員以外の成人も存在していませんでした」
「集団パニックと聞いて、私なんかは一番にこっくりさんを思い出しますが。膳所先生はどうですか?」
「こっくりさん? ああ、大学時代に児童心理学の授業で少しやったような……。恐怖によるヒステリーみたいなやつですよね」
「ええ。今回も同じようなことが起こったんでしょうか」
「どうでしょう……。こっくりさんなら、こっくりさんって言いそうだけどなぁ」
「では、なにが起こったんでしょう」
「少なくとも前例にないことだったんでしょうね」
「膳所先生の小学校では、『なおこちゃんの手紙』というものが出回ったりはしていませんか?」
「ない……ですね。俺はいまの小学校に赴任して4年目ですが、見たことはありません。どちらかというと、いまはデジタルでのトラブルばっかりですね。LINEグループはずしとか、別グループを作って悪口大会、とか」
「実際に手紙をやりとりする、なんてのは……ないですか」
「あることはありますが……。高学年が告白するときぐらいじゃないですかねぇ、好きな児童に」
「なんと。そこは電子ツールではないんですね」
「ないようですね。そこは我々と同じく、やっぱり口頭で伝えるか、手紙か、のようですよ」
「なるほど」
「あんまりお力になれず申し訳ないのですが……」
「とんでもない! 立場もおありなのにこうやってお話をさせていただいて感謝しています」
「いえいえ」
「これからも御子柴をよろしくお願いいたします。このところようやく安定してきたようですが、こういう時期が一番心配なので」
「陽太、仕事は?」
「ええ、欠勤や病欠もなく。毎日出勤しています。思い切って環境を変えたのがよかったんだと思います」
「よかった。うつの時期は大変だったと聞いたから。環境だけではなく、伊勢先生のおかげなんでしょう」
「そんなことはないのですが……その」
「はい?」
「どうにも私に依存しがちで……。もう少し、前のように交友関係を広げてほしいです。なので、折を見て、御子柴を遊びにでも誘ってやってください」
「もちろんです」
「ありがとうございます。それでは……」
「あの」
「はい?」
「その……あんまり、気を持たせるから最初は言わないでおこうと思ったんですが……」
「はい」
「俺にとっても大事な友人の陽太がここまで回復できたのは伊勢先生のおかげだと思うので、『なおこちゃんの手紙』を俺のほうでも少し探ってみます」
「ありがとうございます!」
「ですが、なにかで発表される場合は匿名で」
「もちろんです」
「なんかねぇ」
「はい?」
「聞いたことあるんですよね、『なおこちゃんの手紙』」
「え? やっぱり、小学生が……」
「いやいや、そうじゃなくて」
「え?」
「誰からだったかなぁ……。ちょっとその辺も、なんか思いだしたら連絡します。陽太のLINEに送ってもいいですか?」
「もちろんです。ありがとうございます」
「それじゃあ、陽太にもよろしく」
「こちらこそ。ありがとうございました」




