君との出会い。そして再会。
「次は〜。西本橋駅で〜す。」
…やってしまった。乗り過ごしてしまったのだ。
通塾歴4年の俺は今まで乗り過ごしなどしたことがなかった。乗り過ごしの原因など、睡眠の足りてない奴がする寝過ごし以外にあるとは思ってもいなかった。
(ちっ、なんでこんな大事な時に限ってっ!)
俺は勉強に集中しすぎていた自分を後悔しつつも、西本橋駅で降りて、逆方向に向かう電車に乗った。
さすがに戻っている最中では勉強せず、三国ヶ丘駅に着くまで待っていた。だが、いくら待っても三国ヶ丘駅につかない。
(……なんかつくの遅くないか?)
そう思って時計を見ると、8時20分。テストは9時から。本来は三国ヶ丘駅に8時10分についていないとヤバイのだが。
(これは、遅刻するぞ…?!)
そう焦った俺は、三国ヶ丘駅に着くやいなや、乗り換え時間をできるだけ短縮するために、猪突猛進した。途中で人とぶつかりそうになりながらも、俺は急ぐ。三国ヶ丘駅はこの辺りの地域では結構大きな駅だったので、乗り換えには多大な時間を要するのだ。
そしてやっとのことで改札を潜り抜け、学園前行きの電車がついているのが見えると、全力でダッシュ。間に合いそうになるも、そこは女性専用車両だったので、つい足踏みをしてしまった。
(小学生だから大丈夫ではあるけれども、でもやっぱなぁ…。ってそんなの考えてる余裕なんかっ!)
そう判断し、扉へ駆け込むが、女神はそんな俺に微笑まなかった。扉が閉まる。
貞中学校を受けるであろう受験生らしき人が俺を見て、俺を嘲笑う。
その笑みとともに、試験への遅刻という現実が俺に押し寄せる。
最悪だ。遅刻だ。遅刻など、人生で一度もしたことがなかった。学校には30分前に登校していたし、塾では自習室で勉強してから授業を受けるようにしていた。俺はいわゆる優等生というやつだった。
(どうしよう、人生終わりだ…)
と途方に暮れていたそんな俺は、当たり前だが列の一番前に立った。勉強なんてする暇もなく、焦って線路を見つめていた。もはや何もできずにただ立っていたそんなとき。
「この紙、落としましたよ亅
透き通るような女性の声。まるでなにがどうなってもよくなったかのように錯覚しそうになる。声を聞き後ろを振り向くと、美少女というのをそのまま現実にもってきたかのような美貌の持ち主がそこにいた。
「あんた、名前は?」
あまりの美しさにとっさにそう聞いてしまった。これから長い付き合いになるはずもないのに。
「森井ヒナといいます。これ、あなたのですよね?」
そう聞かれて森井ヒナの手元を見ると、そこには俺の受験票があった。どうやら、走ってる間に落としたらしい。よくいると、少し肩を上下に揺らしているので、走って届けてくれたらしい。これがないと、入試を受けることさえできなかった。危ない。
「ありがとう、森井さん」
「ヒナでいいですよ。あなた、貞中学校の受験生なんですか?私は西牡丹学園を受けるんですけど、時間大丈夫ですか?」
そうであった。このきれいな女性に見とれていて、遅刻寸前であることを忘れていた。
「そうだったよ。忘れてた。次の電車は…」
次の電車の時間は、8時55分くらいに学園前に着く電車だ。ダッシュすれば間に合う。
俺達はやがて到着した電車に乗り、学園前を目指した。電車に乗ってる間、ヒナは隣の席に座っていたので、ついドキドキしてしまったのは秘密だ。
「それじゃぁ、また今度会ったときはよろしくな、ヒナさん」
「はい。受験頑張ってくださいね。」
そう言って、ヒナは西牡丹学園に向かおうとしていたが、ふと何かを思い出したように、こちらを振り返った。
「あ、お名前を伺うのを忘れてました。お名前、なんていうんですか?」
そういえばヒナの名前を聞いただけで、自分の名前を言うのを忘れていた。
「俺の名前は長谷川リョウ。ヒナさんも、受験頑張ってね。」
そうして、俺達は別れた。その後すぐに俺は貞中学校にダッシュして、テストに滑り込んだ。
何とか間に合ったものの、緊張とあせり、疲れが押し寄せて、ヒナさんのことなど頭から消えていた。
10日後、合格発表の日。受験生にとっては、メンタルがこの上なく揺さぶられる日である。
当の俺は、合格発表を貞中学校でエスゼロのやつらと一緒に待っていた。俺は合格を確信していたので、正直俺の番号を探すだけの作業。無事俺の番号が見つかり、その後もエスゼロのメンバー全員の合格が次々と決定し、その場は歓喜に包まれた。
「リョウ、お前最低点から何点上?」
昔からの付き合いであるエスゼロのメンバーの一人、清水ハルが俺のところに来る。
「えっと...130点だな。」
「えっ!130ってお前首席じゃん!えぐっ」
興奮したように、ハルが言った。
「え、まじで?」
よく見てみると、確かに合格最高点は合格最低点から130点上だった。
「お前首席なら、生徒会狙えるぞ?それヤバイじゃん。」
ハルが言うように、貞中学校ではさまざまな委員の採用において入試の成績も加味される。もちろん定期考査の成績も反映されるが、第一印象は入試での成績といっても過言ではない、というのを風のうわさで聞いたことがある。
(生徒会か…入ってみるのもありだな…。)
俺はそう思いつつも、まずはみんなで合格を祝った。
みんなで写真撮影をしたあとは、解散となった。他のみんなは家族と一緒に打ち上げでもするらしいが、俺は一人で来たのでやることがなく、まっすぐ帰ることにした。
道中、泣いている少年やそれを慰める親たち、他の中学が落ちてたらどうしようと心配になる少年がいた。エスゼロのメンバーは無事全員合格したが、なにもみんなが受かるような試験でないことは俺もわかってはいたが、実際にこういった現実を前にすると、こちらがなんだか申し訳なくなってくる。そんな感情を抱きつつも、俺は駅の改札を抜けた。
学園前のホームについてすぐ、英単語帳を広げた。中学受験を終えたからといって、何も人生の目標を達成したわけじゃない。むしろ目標達成のスタートラインに立ったに過ぎない。
他の合格した少年たちは、合格に浮かれて勉強など頭にないだろうが、俺は違う。そんなわけで俺は貞中学校でもエリートの地位をキープすべく、周りはほとんどしてないであろう英語の勉強を始めたのだ。
そうして入試を受けた後Amasonでポチった英単語帳を開けようとしたときのことだった。
「あ、長谷川リョウ君ですか?」
透き通るような女性の声。ついさっきまで忘れていた記憶が頭の中によみがえる。
「ヒナさん?」
「またお会い出来てうれしいです。」
そう、誰もが見とれてしまうような美貌の持ち主との関係は、ここから始まったのだ。
読んでいただきありがとうございます!計画性もなく前作を投稿したため、更新が一週間後になってしまいました。これからはもっと早く作っていきたいです(あくまで願望)。




