生まれ変わるために
「玲央くん、一緒に帰ろ!」
「え……。みんな見てるよ……。」
紫乃はホームルームが終わったあと、話しかけてきた。他のみんながまだ帰ってない時に。明るい声で。紫乃はこの目線が見えてないのか?昼はあんな弱音を吐いていたとは思えないような明るさだった。
「だめ?私のこと説得するんじゃないの?」
なんで耳元で囁くんだろう。クラスメイトの視線が、人の恋路を応援してるような、なんとも心地よくない感じだった。絶対誤解されてる。紫乃は気づいてないし。あんな物事の核心を言ってみたって感じだったのに今は鈍感で、掴みどころのない人。でも、断る理由もないし、誤解とくのもめんどくさそうだから、とりあえず返事しとこう。
「うん、帰ろ。」
でもさすがに視線がいたいので、一輝だけとりあえず睨んどく。
「さぁ、玲央くん。私を説得したまえ。」
「……何その口調?」
「そんな冷たい感じであしらわないでよ。元気に見せようと頑張ってるんです!人の努力は褒めなさい!」
「うん、すごいすごい、よく頑張ったね。」
「小さい子供あやすみたいな言い方やめて?なんか惨めになる。」
「紫乃ってさ、学校だけテンション高いね。」
「そうかな。……高くしないと、みんなに知られちゃうから。私の悪いとことか。」
「知られたくないの?それも全部紫乃なのに。」
「怖くない?人に見せるの。嫌われたくない。」
「なんか、2割の人には嫌われるみたいな法則なかったっけ。本当の紫乃でも、演技してる紫乃でも、変わんないよ。」
「変わんない、知ってる。だから、本音を見せたくないんだよ。演技してたらさ、その偽物の私のことを嫌いになってくれるから。本当の私を知ってるのは私だけ。私にしか嫌われてない。偽物の私が世界中から嫌われたっていいの。本当の私の身代わりになってくれるから。」
「偽物なんかじゃないよ。それも紫乃じゃん。僕は、その明るい紫乃に一目惚れしたの。もちろん今の紫乃も好きだけど。っていうかどうして僕には隠さないの?それともまだ本音で話してない……?」
「ううん、ほんとの自分。私は全然明るくなくてただ弱い人だよ。心が弱いから予防線はってるだけの。でもね、玲央くんになら話せるの。自分でもなんでか分からないけど。こんな話してごめん。変だよね。」
「こんなじゃなんかない。それに、それ言うなら昨日の話の方が重いから。」
「それはそうかも。ねえ、玲央くんは強い人?」
「弱いよ。いっつも逃げてばっか。でも強い人なんかいないんだよ。誰かに否定されたら辛いし、死にたくなる。紫乃だけじゃなくてみんな弱い。強がってる。だから、弱いのは悪いことじゃない。」
「そんなこと言われても……。玲央くんは優しいよね。だから、嘘つかれてるじゃないかって心配しちゃう。玲央くんが私に言いたいことはわかるの。でもさ、簡単に信じれない。なんでか分からないけど……。でも、私に理解できないなって感じる。」
「信じれなくてもいい。でも、覚えててよ。また辛くなった時のために。」
「うん……。ありがと。」
紫乃は、僕のことを過大評価しすぎだと思う。僕は弱い。紫乃みたいに、自分はこの世界で1番弱いんじゃないかって思う時もある。すごく大事なことでも、他人にとってはちっぽけなことでみんなはこんなことでそんな落ち込まないだろうなって思ったり。ちょっと叱られただけでもう何もかも嫌になって逃げ出したくなったり。みんながそうかは分からないけど、少なくとも、僕は弱い。そんなふうに思ったりするのに、何も出来なかった。逃げることも、立ち向かうことも。何回もチャンスはあったはずなのに、何も行動に移せない。そんな人間が強いわけない。だから、紫乃は強いと思う。自分の信念を持って、行動に移して。死ぬこと、逃げることだって、僕には出来なかった決断だ。あんなこと言ったけど、僕は紫乃が羨ましい。決断をすることができる彼女が。僕は死にたいと思っても、何もしない。ただ、生きてくだけ。周りに馴染むように、目立たないようにって自分の感情を殺しながら生きてきた。でも、紫乃は自分で変えようとした。羨ましくてたまらない。他の人には変人って思われるかもしれないけど、それでも、その行動力を欲しいって思う。だから、紫乃の自殺を止めたのも、正義感なんかだけじゃない。自分の中の、嫉妬とか、そういう気持ちだってあった。僕は、弱くて酷くて、最低だ。紫乃に知られたら、失望される。そもそも、僕に紫乃を救うなんてそんな資格ないはず。こんな最低な人間がどうやったら人を救えるのか。このまま過ごしていけば勝手に紫乃が思い直してくれるかな。起こるはずのない結果を願ってしまう。
「……玲央くん。顔大丈夫?」
「え?」
「顔色悪い。ごめんね、私が変なこと言っちゃったせいで。」
「違う、紫乃のせいじゃない、ほんとに。」
「ごめん、やっぱ無理かも。巻き込んじゃってごめん。ごめんなさい。もう私には関わらなくていい。やっぱり私みたいな人がいちゃいけないんだよ。迷惑かけてごめんね。」
「違うって!やめて、謝らないで。違うよ、違うから。紫乃のせいじゃない。僕が悪いから、気にしないで。」
「でも、私玲央くんのこと傷つけたと思う。もう死ぬからどうでもいいやって、玲央くんに全部話しちゃった。その時はね、玲央くんがどう思うとか、全然考えてなかった。でも、今はそんなこと言うべきじゃなかったって思うよ。関係ない人巻き込んじゃって、私最低だよね。ほんとに、生きる価値ない。」
「ねえ、だからやめてって。紫乃のことが羨ましいから。」
「……?何言ってるの?その冗談笑えないよ。」
「冗談じゃない、本気。」
「ねえ、やだ、聞きたくないよ。」
「僕は弱くて、最低だよ。死にたいって思ったこと何度もある。どうやったら死ねるかなって。でもさ、怖くて出来なかった。死んだら、どうなるか分からない。でも、生きてたら同じ地獄を味わうだけ。生きてると辛いことばっかだけどそれでも死ぬことの方が怖い。そんなふうに諦めてたのに、昨日紫乃のこと見つけてしまった。死にたくても死ねなかった僕にとっては、すごく眩しい光景だった。でも、僕は姑息だから、紫乃を止めたんだよ。それっぽいこと言って。」
「それは違うよ。玲央くんがどんなこと考えて言ってたかなんて関係ない。私はその言葉に助けられたんだよ。だから、私は玲央くんが私のこと救ってくれるって信じてる。玲央くんが自分を信じれなくたっていい。でも、信じてる人がいるってことを忘れないでよ。」
「ごめん、紫乃のこと助けられない。あんなこと言ったのに、ごめん。紫乃といると、自分の嫌なとこに目がいっちゃう。目を背けたら駄目なのはわかってるけど、それでも嫌だ。辛い。耐えられない。こんなの情けないってわかってるけど、それでも無理そう。身勝手でごめん。」
もう無理。耐えられない。紫乃といると、自分が嫌になる。自分には紫乃みたいになれないって自覚させられて辛い。紫乃みたいに、自分に正直に生きたい。けど、無理だった。自分にはもうできない。今までできなかったから。でも今なら、変わることができなくても、あれならできる気がした。
「紫乃、ありがとう。」
「……?ありがとうって何?どうしたの、玲央くん。おかしい、おかしいよ。冷静になって。」
僕は、ポケットに入っていた睡眠薬を一気飲みした。「!?玲央くん!何してるの?吐き出してよ。ねえ、死なないでよ。玲央くん……」
そこで、僕の意識は途切れた。




