初恋
「じゃあ、私と一緒に死のうよ。」
君は、笑顔で僕に言った。
僕は水無瀬 玲央。私立渚高等学校の1年生だ。どこにでもいるような普通の生徒。でも、入学式の日に、初恋をしたんだ。
入学式のあとに自己紹介があった。
「水無瀬 玲央です。海が丘中学校出身です。趣味は読者です。よろしくお願いします。」
自己紹介なんて緊張するからやりたくないなぁと思いながら、何事もなく自分の番が終わったのに。
「明空 紫乃です。好きな人物は太宰治です。玲央くん、よろしくね!」
!?何故か明空さんが僕の名前を呼んだ。僕はぽかーんってしたし、周りも時が止まっていた。でも、明空さんは僕にかわいい笑顔を見せてくれたんだ。
その後、中学が一緒だった一樹に、めちゃくちゃ質問攻めされた。
「明空さんって知り合いなの!?」
「や、知らない…。はじめましてだよ。」
「え、そうなの、付き合っちゃえば?」
「むりむり、僕があんな美女と付き合えるわけないじゃん。」
「付き合えるなら付き合いたいってこと?」
「そうは言ってないだろ。」
「ふ〜ん。あ、顔赤くなってるよ。」
「え!?気のせいだからね!」
それから、明空さんとは何も進展がないまま、1ヶ月が過ぎた。
「……玲央?玲央!」
「……あ、ごめん。どうしたの?」
「ちゃんと、話聞いてよ。それでさ、栞月と喧嘩したわけ。仲直りってどうすればいんだろ。助けて。」
「うん、がんばって。」
「玲央ってほんと他人に興味ないよな。」
「そんなことないよ。きっと自然に仲直りするんじゃない?付き合ってるんだから。」
「また無責任なー。俺は真剣なんだからな!」
「はいはーい。」
「そういえば、最近明空さん休みだね。」
「うん、知ってる。」
「へ?それだけ?なんか、ないの。」
「え。悲しいなーとか?」
「なんで棒読みなの…。」
明空さんが休みなのは知ってるけど、話してないんだから関係ないよね。好きな人が休んでる。ただ、それだけだから。
僕は、この学校の屋上が好きだ。人が居なくていっつも静かだから。一輝にも言ってないけど、お気に入りの場所だ。今日も屋上には誰もいなかった。
数日後、明空さんが学校にやってきた。いつもより少しだけ、元気が無さそうに見えた。体調悪かったのかな。
「玲央ー。明空さん来たね。」
「……うん。どうしたの?」
「どうしたのって……。興味ないわけじゃないんでしょ?さっきも明空さんのこと見てたし。」
「えなんでばれてんの、こわ。」
「なんでばれないと思ったのさ、クラスのみんなにもばればれだよ。」
「マジで?ちょっと穴に隠れたいかも。」
「諦めてくださーい。話しかけてみれば?体調大丈夫ー?とか。」
「急に話しかけたら変人じゃん。そんなこと思われたくない。」
「えー。明空さんなら大丈夫だって。」
「はいはい。もういいでしょ。」
一輝は不満そうだったけど、めんどそうだから僕は無視して屋上に向かった。
屋上には、明空さんがいた。
「明空さん?何してるの?」
「あ、玲央くん。見ちゃった?」
「何しようとしてたの。」
「なんだろーね。今見た事誰にも話さないでね?」
「いや…。どうして裸足なの?靴揃えて置くなんて自殺みたいじゃん。」
「そうだよ。」
「……は?明空さん?」
「私の名前は紫乃だよ。名前で呼んでよ。」
「そうじゃなくてさ……。みよ、紫乃さん?」
「違う!紫乃だよ。紫乃さんって他人行儀じゃん。」
「紫乃?自殺なんて冗談だよね?」
「本気だよ。玲央くんのせいでできなかったんだけど。」
「そこ怒るとこ?そんなことしたらだめだよ。」
「なんでだめなの?私がいなくなったって誰も困らないよ。」
「困らないのかもしれないけど、悲しむよ。」
「本気で言ってる?玲央くんって言葉に感情こもってないよね。そんな人に言われても。」
「でも、紫乃もそう思うでしょ?紫乃が死んだら家族とか友達が悲しむって。」
「いくら悲しんでももう会えないんだよ?悲しむ方がどうかしてる。もういい?今のこと全部忘れてどっか行ってよ、邪魔。」
「邪魔って……。これから自殺する気なの?」
「玲央くんには関係ないよ。私を殺した犯人になりたくないならもう関わらないで。」
「関係なくないよ。見ちゃったもん。だから、考え直して。辛いことがあっても、死ぬなんてそんな決断しないでよ。」
「考え直しってって何?私がなんも考えないで自殺しようとしてたって思ってるの?考えたよ。考えても考えても結論が出ないからもう死んじゃおうって思ったの。そんなに変なことかな?私は死にたくて死ぬんだよ。後悔なんてしてない。だから、説得しようとしても無駄だよ?」
「説得なんかじゃないよ。紫乃が好きだから言ってるんだ。自己紹介の時に紫乃に一目惚れした。だから、死なないで。紫乃が死んだら僕は悲しいよ。」
「告白?ありがとー、気持ちだけ受け取っとく。そうだ!いいこと思いついた。玲央くんが私の事殺してよ。」
「……は?無理だよ。」
「えー。ほんとはね、飛び降りじゃなくて誰かに殺されて見たかったの。だから玲央くんにしてほしいな。」
この人、頭おかしい。口には出さなかったけど、そう思う。好きな人を殺せるわけない。どうしてそんな当たり前のことが分からないんだろう?
「……?玲央くん?聞いてる?」
「あごめん。僕は紫乃のこと殺せないよ。死んで欲しくないから。」
「じゃあ、私と一緒に死のうよ。」
君は、笑顔で僕に言った。紫乃は、死ぬことを楽しみにしてるようで意味がわかんなかった。
「いいよって言ったらどうする?」
紫乃のペースにつられて、僕はおかしいことを言った。普段なら絶対言わないのに。
「うーん……。入水心中がいい。でも、今春だから暖かいかな……。一緒に北海道でも行く?2人で溺れよう。」
「紫乃は死ぬのが怖くないの?」
「もしかして、死ぬのが怖いの?怖いなら1人でやるけど。私はね、もう生きたくないの。生きてると悲しいことばっか。楽しいことを探して生きろ?そんなこと出来るわけない。私には無理だった。きっとね、そんなこと言う人は今まで心の底から悲しかったことなんてないんだよ。真の絶望を知らないからそんなこと言ってられる。きれいごとだけでこの世がまわる訳ないのにね。だからね、もう生きないって決めたの。辛いことがあるんなら、楽しいことがあったとしても生きたくない。生きるってすごい大変なことだよね。理不尽なことばっかで嫌になっちゃう。嫌なことがあるんなら楽しいことなんていらない。私は辛い思いをしてまで楽しみたいとは思えない。だってそうじゃない?辛いのってさ、めちゃくちゃしんどくで心が削れちゃう。1秒1秒自分の嫌なとことか無力さとか思い知らされてさ、どうして心が壊れないでいられるんだろう。私にはそれを我慢してまで楽しみにしてるものはないから。だから耐えられない。分からなくなったの。無理してまで生きる意味が。どうして人は生まれて来るんだろうね。こんな苦しい思いをされるなんて神様は酷いよね。ポジティブなことしか考えれない脳にすれば良かったのに。玲央くんは死んだらどこに行くと思う?天国と地獄ってほんとにあるのかな?あるとしたら、玲央くんを巻き込んだ私は地獄で、玲央くんは天国だよ。でも、もしかしたら幽霊になるかも。幽霊になったら一緒に色んなとこ行こうよ。約束だよ?でも、死んだら意識が無くなるのかも。私はそれが1番いいな。辛いことがないから。地獄だったら痛そうだもんね。幽霊なっても、人間に怖がられちゃうし。私ね、死ぬのが怖いのはどうなるのか分からないからだと思うの。死後の世界は誰も分からない。だから怖くて、死にたく無くなる。分からないのが怖いんだよ。でもね、人はいつか死ぬでしょ。だから人生全部すっ飛ばして死ぬなんて意外と大したことじゃないなって思うの。動画スキップするのと一緒だよ。ホラー映画があって、怖いシーンが苦手だから、そこを飛ばして結末だけ見る。同じことだと思わない?どうして、自殺は悪なんだろうね。だめなことって教えられる。周りの人が悲しむから?今まで辛いことに気づいてくれなかったんだからざまあみろって感じ。死ぬのって悪いことじゃないよ、きっと。いっぱいある中の選択肢の1つだから。なんかさ、いじめとかで辛い時って逃げていいんだよってよく言うじゃん?それと何が変わらないんだろう。死ぬのはただ逃げてるだけ。本人がそう決断したんなら良いじゃん。応援してあげなよって思う。その人の辛さを他人が分かるわけないんだからさ、どうして死ぬことを否定するの?他人にその人の何が分かるわけ?もちろんね、他の人の生きる権利を奪うのはおかしい。その人が生きることを望んでるんだから。自殺する人ってね、毎年2万人くらいいるんだよ。理由は人それぞれだろうけど、死にたいって思っている人がこれだけいるの。それを解決しようとか言うなら自殺を止めるんじゃなくてそんなこと考える前に助けてあげようってすべきだよ。きっと何回も助けを求めてるから。自己紹介で、好きな人は太宰治って言ったんだけど覚えてる?太宰治ってね、何回も自殺しようとしてしたんだよ。それでね、何回も女性を巻き込んだの。私と同じだね。私も玲央くんのこと巻き込んじゃった。玲央くんは私にきれいごとを言うの?それとも私の事救ってくれる?」
「僕は紫乃にきれいごとなんていいたくない。言ったら、絶対傷つけちゃうから。でも、死んで欲しくない。これは紫乃のためじゃなくて僕のわがままだから。だからさ、説得させて。きれいごとじゃない言葉で伝えるから。紫乃のこと救うって約束する。1ヶ月待って無理だったら、心中しよう。僕は紫乃に巻き込まれたんじゃなくて、自分で決めたから。」
「わかった。玲央くんと死ぬの楽しみにしてる。」
「死なないからね。紫乃のこと死なせないから。」
「ありがと、玲央くん。」
紫乃のことが全然分からない。好きだと思うけど、何考えてるのか、僕には理解できなかった。でも、紫乃はきっと辛いことがあったから死のうとした。僕なんかが止めていいことじゃないなって思う。でも、死なせたくないから説得する。絶対に。なんか心の中がぐちゃぐちゃだけど、いつか紫乃が心の底から笑ってくれる日が来たらいいな。目の前には、雲ひとつない晴天が広がっていた。紫乃の気持ちがこんなふうになったら――。




