フェス前③
さて、肝心のライブだが、結果から言うと大成功だった。
僕は正直、姉のバンド『チェリーズ』を物凄く意識していた。
そう、初めて共演した時に『喰らって』いるからだ。
だから、今回も同じことになってしまうのではと心配をしていた。
しかし、それは杞憂だった。
姉のバンドは相変わらず凄かった。
技術も勢いもあり、素晴らしいパフォーマンスであったことは間違いない。
しかし、それはそれだ。
僕たちは僕たちで積み重ねてきたものがある。
一つ一つの楽曲作成、練習、ライブが僕を支えてくれた。
だから、僕たちは『負け』てなんていない。
そう思うことが出来た。
こうして、2回目の姉との共演は、ある意味あっけなく終わった。
ただただ、良いライブだったと思えた。
そして…前回参加することのなかった、打ち上げに参加することとなったのだが…
「かんぱ~い!」
今回のライブの主催者であるマキちゃんの声が響き渡る。
「かんぱ~い!」
何故か僕の隣にいる姉の声も響き渡る。
僕は引き攣った笑顔で姉に語りかけた。
「姉ちゃん、チェリーズの皆さんと飲まなくても良いの…かな?」
「ん?いいのいいの!あいつらとはいつも一緒なんだから!それより愛する弟と打ち上げにまで出来るなんて…今日死んでも良い!!」
僕は打ち上げに来たくなかった。
こうなると分かっていたから、帰ろうと思っていた。
しかし、あっちゃんと菜奈さんが『主催者であるマキちゃんに失礼』というもっともらしい理由でそれを許してくれなかった。
だが、本当は二人ともこれが見たかったのだろう。
何故なら、二人は僕と姉の前の席をちゃっかり確保し、ニヤニヤしながらこちらを見ているからだ。
そして…ほのちゃんはその二人に挟まれて、居心地悪そうにちょこんと座っている。
すると、いきなりバカ姉がほのちゃんに問いかけた。
「ほのちゃんは弟と付き合ってる…んだよね?本当なんだよね…?」
ほのちゃんがビクッとしたのを僕は見逃さなかった。
「は…はい…お付き合い…させて頂いてます…あっ…ごめんなさいご挨拶が遅れてしまって…!」
「いやいや…!そういうのは良いのよ!気にしないで…!でもそっか~…本当なんだね~」
僕は耐えきれず、カットインした。
「姉ちゃん!ほのちゃん困ってるだろ?やめろって!」
「え…お姉ちゃん別に意地悪したつもりないのに…ひどい…!」
姉はワザとらしく顔を両手で覆い、泣くフリをした。ウザい。
「とにかく付き合ってるの!以上!もういいだろこの話は!」
「ちょ…ちょっと待ってよ~…お姉ちゃん色々気になるな~?」
「そうやっていつもいつも面白がって!やめてくれ!」
「だって…可愛い弟の…」
「もう大人だ!」
「大人でも可愛い弟には変わりないし…」
「そういうのが嫌なんだよ!」
「な~んで~!?」
抱きつこうとしてくる姉を僕は必死で抑えつける。
そしてハッとした。
メンバーの前で普通に姉弟喧嘩をしてしまった…
僕はおそるおそるメンバーの方を見る。
案の定あっちゃんと菜奈さんがニヤニヤとこちらを見てる。
菜奈さんが僕の心情を察したかのように言う。
「あ!お構いなく!続けて下さい!」
あっちゃんが続ける。
「そうですよ!私達は気にせず!」
僕は咳払いをして、姿勢を正した。
それからしばらくは姉を無視した。




