答え①
「今日、先輩の家に泊まっても良いですか?」
「えっ…」
僕はつい言葉に詰まってしまった。
ほのちゃんは家に来たことは何回かある。
しかし、今回はそれらとは違う意味合いがあることくらい、流石に分かる。
つい理由を聞こうとしてしまったが、それはあまりにも野暮だ。
卑怯とも言えるかもしれない。
ではOKするのか…と言われると…
「ごめんなさい…なんでもないです…」
ほのちゃんは喫煙室を飛び出した。
僕は…なにも出来なかった…
その後、マキちゃんが終電で帰るとのことで、僕たちにしては珍しく夜の内に解散となった。
僕はほのちゃんと喋れないまま、帰宅することとなってしまった。
自分にがっかりはしているが、未だになんて返せば良いか分からなかった。
その気持ちを正直に伝えるべきだったか…
何にしても、ほのちゃんを傷つけてしまったかもしれない…
今度謝ろう…
そんなことをグルグルと考えていると、チャイムが鳴った。
ドアを開けると、ほのちゃんが立っていた。
「ほのちゃん…」
「来ちゃいました…わたし…先輩を困らせるって…分かってて…それでも…」
僕は、ここでほのちゃんを帰すことはしたくないと思った。
そう思ったのだ。
「どうぞ」
「…お邪魔します…」
ほのちゃんは部屋の隅にちょこんと座った。
そして部屋はしばらくの間、静寂に包まれた。
「「あの」」
こんなベタなことがあるか。
喋り出しが被ってしまった。
「ご、ごめん」
「い…いえ…こちらこそ…」
「どうした?」
「あ…あの…」
ほのちゃんは立ち上がり、僕の目の前に座った。
「こんなこと言うの…ずるいと思いますけど…でも…」
ほのちゃんが僕の目を見る。
そして続ける。
「私…先輩のことがずっと好きでした…大学生の頃から…ずっと…でも…それが恋愛の好きか分からなくて…ずっと分からなくて…」
ほのちゃんの唇が震えている。
「それである日、先輩が仕事を辞めたって聞いて…いてもたってもいられなくなって…私の出来ることって考えたら…バンドを一緒に…先輩…音楽が好きだったから…だから最高のメンバーを集めて…」
僕は目線を外さずに聞いた。
いや、外すことが出来なかった。
「でも、あっちゃんさんも菜奈さんも先輩のことが好きになっちゃって…それで私気づいて…先輩のこと取られたくないって…自分で作ったバンドを壊しちゃうかもしれないのに…でも…それよりも…先輩が…」
ダメだ。
「先輩のことが大好きです。愛しています。」
僕は、ほのちゃんを抱きしめた。
考えるより先に、身体が動いていた。
僕の『答え』が出た瞬間だった。




