はじまり①
僕はこれまで、敷かれたレールの上を全力で走ってきた。
そのレールは親により、社会により敷かれたものだった。
いい大学を出て、いい会社に入る。
僕は見事にそれを成し遂げてみせた。
しかし、ある日突然、僕はレールの上を走ることに疲れてしまった。
そして、ふと思ったのだ。
「会社、辞めようかな…」
27歳、社会人5年目になったばかりの4月だった。
それは、何の前触れもない、唐突な決意であった。
それからはあっという間だった。
会社に辞める意思を伝え、次のボーナスが出る6月末で退職することとなった。
退職代行なんてものが流行る昨今だから不安だった。
が、すんなり辞められて、何だか拍子抜けだった。
色々な人から理由を聞かれたが、親の介護と嘘をついた。
これまでも沢山の嘘をついてきたから、何も感じなかった。
そして7月1日、僕は昼過ぎに起きた。
退職あるあるとして良く聞いてはいたが、清々しい気分だった。
「会社に行かなくていいんだ…!」
そして、後から漠然とした不安が僕を襲う。
そう、何も決まっていない。
自分の意志で手にした自由だが、怖いものは怖い。
とりあえずベッドから出て、何か食べることにした。
冷凍チャーハンを解凍しながら、僕は考えた。
「これからどうしよう…」
まず不安なのは、お金だ。
社会人を丸4年やってきただけあって、貯金はある程度あった。
しばらくは好き勝手出来るが、いつまでもそうしている訳にはいかない。
初日からそう考えてしまう自分が嫌になった。
「チーン!」
電子レンジの音に思考を遮られた僕は、チャーハンを食べながら決意した。
「お金のことを考えるのは、貯金の底が見えてきてからにしよう!」
僕は自由を謳歌することにした。
自由…
「僕は何がしたいんだ?」
いざ自由を手にしたところで、何もしたいことが思い浮かばない。
情けないというか、何というか…
僕は自分に失望した。
気付いたらチャーハンは無くなっていた。
空になった皿をボーっと見つめていると、
「ピンポーン!」
チャイムが鳴った。
誰だろう。
そう思いながらフラフラと玄関へ向かい、不用心ながらも何の確認もせずにドアを開けた。
そこには見覚えのある女性、そう、大学時代の後輩が立っていた。
名前は確か…
「ほのちゃん?」
僕は急な訪問に驚きつつ、口にした。
「先輩…聞きましたよ。仕事辞めたんですよね…?」
ほのちゃんは大学時代から全然変わっていなかった。
黒髪ボブに大きな目、華奢で小柄な身体、Tシャツにジーパン、靴はコンバース。
所謂『サブカル女子』といった風貌だ。
何より、声が小さい所も、人の目を見ないところも変わっていなくて、何だか安心した。
「いや…仕事は辞めたけど…。急にどうしたの?」
僕がそう言い終わると被せるように彼女は言った。
「先輩…私とバンドやりませんか?」




