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パーティを追放された俺、なぜか女だけの最強ハーレムパーティを作っていた  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)


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第5話 王城地下のもうひとつの扉

第5話 王城地下のもうひとつの扉

王城の中庭でパンを食べ終えたあと、鐘の音が一度だけ鳴って、空気が少しだけ引き締まった。

新しい依頼が来た合図だとセリアが言って、俺たちは顔を見合わせる。

もう逃げる理由はないし、焦る必要もない。

ゆっくり、確実に、行けばいい。

俺は立ち上がって深呼吸をひとつして、手のひらの紋に指を座らせる。

冷たい留め具が心をまっすぐにしてくれるのが分かった。


「ユウマ、行く?」とマリアが覗き込む。

相変わらず目がきらきらしていて、緊張をひと口で飲み下せそうな笑顔だ。


「行くよ。

パンの後は仕事だ」

「よーし、じゃあ今日は私、いつもよりちょっと静かに歌うね。

地下は響くから」

セリアが横から淡々と付け加える。

「紋章庫の別区画。

さっきの“記憶の部屋”とは別の系統。

刻印の系が違う。

あなたの手なら、応えるはず」

リリィは少しだけ距離を詰めて並んだ。

「ユウマ、今度は……無理しないでね」

「無理しない。

焦らない。

落とさない」

ケイルは杖を肩に担ぎ直し、口角を少し上げて「急ぐなってのは分かった。

俺は派手な出番を我慢する。

必要なときだけ前に出る」と言った。

彼にしては、ずいぶん慎重な言葉だ。

昨日の村と今朝の王城で、彼の中の何かも変わったのだろう。


王城の地下への階段は、何度降りても空気の質が変わる。

音が沈んで、匂いが冷たくなる。

壁に刻まれた古い線が、薄い光で浮かぶたびに、ここがただの石造りじゃないことを思い出させられる。

俺は握った数珠を指で撫でて、息を合わせる。

ゆっくり、確実に。

あの言葉は、気持ちを落ち着かせる呪文みたいに効く。


新しい扉の前に着く。

さっきの記憶の扉よりも狭くて、背が高い。

光は弱く、影が濃い。

刻まれている紋の線は細かく、やたらと交差していた。

近づくと、肌の表面に、淡いざわざわが乗る。

ここは、誰かの息の合間に生まれた、ひそやかな言葉の場所みたいだ。


「この匂い……なんか、秘密の匂いがする」とマリアが小声で言う。


「“囁きの部屋”かもしれない」とセリア。

彼女の灰色の瞳は、光を集めるでもなく、暗がりを怖がるでもなく、ただ静かに線を見ている。

「隠された記録、忘れられたい言葉、紋の裏側の意味。

記憶が表なら、囁きは裏。

表を整えた今、裏に触れれば、王城全体が落ち着くはず」

リリィは唇を噛んで、俺の袖をそっと引いた。

「ユウマ。

裏の言葉は、時々刃になる。

もし痛かったら、言って」

「言うよ。

大丈夫」

ケイルは杖を軽く床に着いて、「俺は扉の外で視てる。

急いで炎を撃つのはやめとく。

必要なら合図してくれ」と真剣に言った。

彼の声に余計な力がなくて、少しだけ安心した。


扉に手を置く。

冷たい。

冷たいけど、拒まれてはいない。

細い線が指先の皮膚に触れるたび、胸の奥の静けさがすこし波打つ。

耳の奥がくすぐったくなる。

誰かが誰かにだけ聞かせた言葉が、薄く耳に触れてくる。

秘密の告白、こぼれた本音、飲み込まれた泣き声、笑って誤魔化した嘘。

そういうものが、扉の向こうで息をしている。


俺は手のひらに意識を落として、指を少しだけ動かした。

怖い時ほど、ゆっくり、確実に。

焦って強い力をかけると、この線は怒ってしまう。

怒ると刃になる。

刃で怪我をしたくないし、刃に傷を作りたくもない。

だから、そっと触れる。

まず、挨拶みたいに。


扉の重みが、小さく揺れて、ほんの少しだけ内側へ引かれた。

マリアが息を呑む音が背中で弾んだ。

セリアは頷いて、「そのまま」と低く言う。

リリィは俺の肩に視線を置いて、ケイルは杖先の光を限界まで弱くした。


中は、さっきの大きな水晶の部屋とは違って、長い廊下だった。

細い廊下の両側に、薄い板が立てかけてある。

板は紙よりも硬く、石よりも柔らかい。

紋の線がびっしりと描かれていて、近づくと耳の奥にさざ波が立つ。

ここは、声を閉じ込めた場所なんだとすぐに分かった。


「わぁ……ここ、なんだか“内緒話”がいっぱい詰まってる感じ」とマリア。


セリアは板に近づいて、指先だけで縁に触れた。

「王城の誰かが記録に残さなかった言葉。

公的に書かれなかった決意、恐れ、愛着。

王が民に言えなかった弱さも、騎士が自分に言い聞かせた臆病も、ここに公平に並んでいる。

これは、整えてあげないといけない」

「整えるって、どうするの?」とリリィ。

彼女はこういうとき、必ず具体を求める。

その真面目さが好きだ。


「難しくない」と俺は答えた。

「聞いて、置いて、しまう。

声を全部拾うんじゃなくて、必要なものだけを耳の前に置いて、あとはそっと静かな棚に戻す」

ケイルが鼻で笑って、「結局すげぇ、ってことだな」と小さく言ったが、声にトゲはなかった。

ただ、不器用に褒めているのだと分かった。


板のひとつに近づく。

耳の奥がちょっと熱くなる。

そこから、俺の名前じゃない誰かの名前が、すこしだけこぼれた。

王城の若い兵士が、初めての戦で足が震えた朝の話。

上官に“勇気を出せ”と言われて、笑って頷いたけど、夜になっても震えが止まらなくて、井戸の脇で泣いたこと。

泣いた音を誰にも聞かれたくなくて、手で口を塞いだこと。

朝になったら、自分の足を撫でて、もう一回立ったこと。

その話が、耳の中で小さく温度を持つ。


俺は、その温度を受け取って、胸の奥の机の上にそっと置いた。

置き方は乱暴じゃない。

受け取った形のまま、壊さずに。

次の板に近づく。

今度は、王城の料理人が、死んだ友達の味を忘れたくなくて、同じスープを毎晩少しずつ違う塩で作っていたこと。

塩が違うことに気づいたのは、ある晩、誰かが「今日の塩は優しいね」と笑ってくれた瞬間だった、という話。

それを聞いたら、指先に温かさが残った。


「ユウマ、顔が優しくなってるよ」とマリアが小さく言う。

こんな場所でも彼女はきちんと見ているらしい。


「だってみんな、ちゃんと生きてる」

セリアが板を順に眺めて、「この部屋は、王城の心の端だね。

乱れてはいない。

けれど、きれいに並んでいない。

並べ替えまではいらないけど、埃をそっと払う必要がある」と言う。

彼女は掃除の話をする時みたいな穏やかさで、指を動かす。


リリィは壁にもたれて、「ユウマ。

あなたは、こういう場所で強いね」とぽつりと言った。

「派手じゃないから、誰にも見えないのに、いちばん大事なところを引き受けてくれる」

「俺の魔法は、そういう仕事が好きなんだと思う」と答えたら、彼女は少し笑った。

遠慮がない、優しい笑いだ。


部屋の奥へ進むほど、声はもっと小さく、もっと近くなっていく。

誰にも言わないで持ち歩いてきた言葉が、紙の向こうからそっとこぼれる。

疑い、甘え、約束、後悔、笑い。

どれも、捨てなくていい。

ただ、位置を少しだけ変えてあげて、今の呼吸の邪魔にならない場所へ置いていく。


立ち止まった場所で、耳の奥が少し痛くなった。

鋭い。

刃に触れたみたいな痛みだ。

息を整える。

ゆっくり、確実に。

急がない。

痛みは合図で、危険のしるしでもある。

俺は板から指を離して、少しだけ距離をとった。


「ユウマ?」とリリィが心配そうに覗き込む。


「大丈夫。

ここ、誰かの“嘘”が強くて、尖ってる。

正面から触ると刺さる。

横から聞く」

マリアは息を止め、セリアは「見てる」と短く言う。

ケイルは杖を床に軽く置いて、「必要なら、俺が壁になる」と肩を向けた。

こういうとき、彼の頼もしさは疑いようがない。


俺は板の端に耳を寄せて、正面じゃないところから、端っこの音だけを拾う。

尖った音は、正面で大きい顔をしているだけで、端っこではいつも少しだけ弱い。

そこに優しい指を差し込んで、怒っている場所から視線をそっと外してあげる。

誰かの嘘は、たいてい自分を守るための道具で、その形は不器用だ。

守り方がうまくなれば、嘘は薄くなる。

薄くなった嘘は、刃でなくなる。


痛みが消えて、息が楽になった。

背中に置かれた視線が、一緒に肩を下ろしてくれた気がした。

マリアが小さくガッツポーズをして、セリアが目を閉じる。

リリィは「よかった」と一言だけ言って、ケイルは「上出来」と笑った。


部屋の突き当たりには、小さな机があって、一枚だけ板が立っていた。

薄い色で、ほとんど透明な線。

その板に近づくと、声はしなくて、ただ、静けさがあった。

静けさは音じゃないのに、耳に優しい。


「これは……何も言ってないの?」とマリア。


「言わないことを、選んだ誰かの場所だね」とセリアが言う。

「言葉を外に出さないことを賢く選べる人もいる。

ここは、触らない方がいい」

俺は頷いて、手を伸ばさなかった。

触れない選択が必要なときは、触れない方が力になる。

何もしないことをする、というややこしいやり方だけど、今はそれが一番いい。

リリィがわずかに肩を落として、ほっと息をついた。

ケイルは「何もしない、って決断は、案外難しい」と真面目な声で言う。


廊下を戻る。

来たときほど濃くない影が、壁に薄く貼り付いている。

板たちは声を静かにして、部屋全体が落ち着いた匂いになっていた。

ここはもう、誰かの呼吸を邪魔しない。

王城の空気の端が、少しだけ丸くなったのが分かった。


扉の外に出ると、冷たい空気が心地よい。

あの中のさざ波がまだ耳の奥に残っているけれど、痛くない。

マリアが俺の腕に顔を近づけて、「ユウマ、頑張ったね」と笑う。

セリアは小さく頷いて、「王城は、呼吸が良くなった」と言った。

リリィは真剣な顔で俺の手のひらを見て、「痛いの、ない?」と訊く。

俺は首を横に振った。

ケイルは杖を肩に担ぎ直して、軽く肩を叩く。

「お前が落とさないなら、俺は撃つ場所を間違えない」

階段を上がる途中で、王城の空気がやわらかくなったのを、みんなが感じていた。

扉の陰から誰かが「さっきより歩きやすい」とぼそっと言うのが聞こえて、少し嬉しくなった。

こういう変化は、誰にも見えないし、数字にもならない。

けれど、確実にそこにある。


地上へ戻って、中庭の光の下に立つ。

太陽は高くて、風は軽い。

王城の噴水の水音が、ほどよく騒がしい。

マリアが「ねえ、もう一回パンいける?」と言って、セリアが「報告書」と短く返す。

リリィは笑って、ケイルは「パンは報告のあと」とまとめた。

俺は「じゃあ、報告してから」と言って、みんなで謁見の間へ向かう。


王は短い時間で俺たちを会わせてくれた。

玉座の前に立つと、視線が集まる。

兵士も家令も、さっきより少しだけ肩の力が抜けているのが分かった。


「報告を」と王。


セリアが一歩前に出て、簡潔に伝える。

「紋章庫別区画、“囁きの部屋”を整えました。

記録されなかった言葉の群れが静まり、王城全体の空気が落ち着いています」

王は俺を見た。

「支援魔法使い、優真。

どうやって?」

「急がないで、聞きました。

必要なものだけ手前に置いて、残りは静かな場所へ戻しました。

刃になりそうな言葉には近づかない角度を選びました。

ゆっくり、確実に」

王は少しだけ笑って、「お前の言葉は、面白い」と言った。

そして、「王城は、お前の力を必要としている。

数字は、あとからついてくる」と続けた。

ケイルが横で「ついてくる」と小さく復唱して、リリィは目を閉じて一度だけ頷いた。

マリアはぱっと手を挙げて、でも何も言わずに笑った。

セリアは目を伏せ、静かに息をした。


謁見の間を出て、中庭のベンチに座る。

日差しが少し伸びて、影が長くなる。

マリアが「今度こそパン!」と言って、セリアが「報告は終わった」とうなずく。

ケイルは「今日は俺も二つ食う」と笑って、リリィは「私も」と並ぶ。

俺は数珠の留め具を撫でて、ゆっくり息を吐いた。

頭を空っぽにして、パンの匂いだけを吸い込む。

こういう時間は、魔法じゃないけれど、魔法より効く。


列に並びながら、マリアが俺の袖を引っ張る。

「ユウマ。

ねえ、昨日より今日のあなた、ちょっと柔らかくなってる。

いい意味で」

「囁きをたくさん聞いたから、かもな。

みんな、ちゃんと生きてる。

それを知ると、固くなる理由が減る」

リリィは横で黙って頷いて、「並ぶって言ったこと、守る」と小さく言った。

彼女の声は静かで、まっすぐで、心地いい。

セリアは「あなたは落とさない。

だから、私は測る。

うまくいく」といつもの調子で言い切る。

ケイルは「俺は撃つ場所を間違えない。

お前が橋を見せてくれるから」と不器用な褒め方で締めた。


焼きたてのパンを頬張ると、王城も紋章庫も、さっきの扉も、全部いったん遠くに行った。

バターの香り、表面の薄い塩、柔らかな生地。

マリアが目を閉じて幸せそうに笑い、セリアが二つ目に手を伸ばし、リリィがゆっくり噛んで味わい、ケイルが「これは数字にできるな。

うまさ、百」とふざけた。

俺は笑って、「数字はあとだ。

今は、橋を渡ったご褒美だ」と言った。


鐘がまたひとつ鳴って、風が通りを撫でる。

新しい依頼のことは、その時に考えればいい。

今は、パンと仲間と、少しだけ誇らしい自分の足音。

それだけあれば十分だ。

十分じゃないときは、また編めばいい。

橋は何度だって架けられる。

ゆっくり、確実に。

そう思いながら、俺は二つ目のパンにかぶりついた。


読んで下さりありがとうございました!

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