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パーティを追放された俺、なぜか女だけの最強ハーレムパーティを作っていた  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)


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第21話 古い石橋の目を起こす

第21話 古い石橋の目を起こす

朝の王城は、薄い雲を肩に乗せたままゆっくり起きていた。

噴水の水音は低くて、耳の奥まで届くのにうるさくない。

昨日の広場の演説で王が置いた短い言葉が、石に染み込んだみたいに静かなままだ。

俺は数珠の留め具に指を軽く乗せ、胸の奥で呼吸をひとつ整える。

急がない。

落とさない。

今日もそれだけ。


「ユウマ!」マリアが中庭のベンチから駆けてきて、俺の前でぴたりと止まる。

蜂蜜色の細いリボンでまとめた髪が朝の光を拾って、小さく揺れた。

「家令さん、探してたよ。

古い石橋の件、朝から確認に行くって」

「昨日の記録の話だな」と俺が言うより早く、セリアが足音も立てずに近づいてきた。

「石橋の繋ぎ目が起きる日。

水量は多くない。

けれど、目が眠っていた分、足に冷たく触れて滑らせることがある」

リリィは剣の柄に触れていた手をそっと離し、短く頷いた。

「私が人の並びを見る。

橋は幅が狭い。

ぶつからないように」

ケイルは肩に杖を乗せ直し、珍しく真面目な顔で朝の空を見上げる。

「俺は火の出番なし、がいいな。

石橋に炎は似合わない」

家令は角から現れた。

薄い地図を抱えているのに、息は乱れていない。

「支援魔法使い殿。

古い石橋へ案内します。

王より伝言。

『落とさず、急がず、静かに整えよ』」

「静かに行こう」と俺は頷いた。


城門を出ると、風は甘く、通りの匂いは重ならずに順番に鼻を通っていく。

川へ向かう道の土は少し湿っていて、薄い光が地面に貼り付いているように見えた。

歩きながら、リリィが俺の袖を軽く引く。

「並ぶ、約束。

今日も」

「並ぶ」と俺は同じ言葉を返した。

昨日の短い約束を、そのまま胸に置く。


古い石橋は城下の端の森を抜けた先にあった。

川幅は思ったより広く、橋の背は低い。

石は濡れているのに怒っていない。

ただ、繋ぎ目だけが薄く目を開けたみたいに角が立っていた。

起きたばかりの目は、触れると驚く。

驚いた石は、足を嫌う。


渡し守の老人が橋のたもとに立っていた。

背は曲がっていない。

目は昔の水の色を覚えている。

「久しぶりに顔を出したね」と老人は橋に向かって話しかけるみたいに言った。

「起きるのが下手な日だ。

人が増えたから、余計に怖がってる」

マリアが橋板――いや、石の表面に指先を近づけて、歌いたい気持ちだけを喉に留めた。

「歌、いる?」

「いる。

短く、静かに」と俺が言うと、彼女は顔を上げて、風より少しだけ低い声で一節置いた。

音が石の端にやわらかく乗る。

過ぎないで残るくらいの短さだ。


セリアは橋の中央へ一歩出て、繋ぎ目の列を目で追った。

「半歩ずつ。

目が起きる場所をずらすだけで、人の足は乱れない」

リリィは人の流れに目を置いて、橋の入口で短く手を上げた。

「待って。

順番を合わせる。

小さい子は大人と一緒に」

ケイルは杖を肩に乗せたまま、橋の端に体を置く。

「俺は押さない。

落ちそうなら、肩で受ける」

老人が歩幅を合わせた声で言う。

「今日の並びなら、まず商人の荷車は止めておくのがいい。

人から渡す。

荷は、後」

家令が短く頷く。

「王にも通す。

今日は人を先に」

俺は繋ぎ目の前にしゃがみ込まない。

触らない。

ただ、呼吸をひとつ深くして、薄い目印を置く。

誰にも見えない目印だ。

石の目が自分の目だと気づけば、起き方は少しだけ穏やかになる。

穏やかな目は、足に優しい。


最初の一歩は老人の杖だった。

杖先が石に軽く座る。

滑らない。

次の一歩は、少女の短い靴。

少女の手を握る母親の指は強くない。

強くない手は、足に合う。

渡る人の間に声は少ない。

少ない声の方が、橋に向いている。


「ケイル、右側の影、少しだけ人の流れを引っ張る」とセリアが小さく言った。


「おう」とケイルは体を半歩だけずらす。

何も触らないのに、列の拍が合う。

最近の彼は、本当に“受けるだけ”が上手くなった。


「マリア、もう一度だけ」と俺が言う。

彼女は短い歌をもうひとつ置いた。

さっきよりも軽く、さっきよりも短い。

足の裏の緊張が少しだけ溶ける。


リリィは入口で手を下ろさない。

下ろさないけれど、動かさない。

待つ合図は嫌われない。

子供は母親の手から離れない。

離れないのがいい。


橋の中央で、石の目がもう一段階だけ起きた。

角の線が柔らかくなる。

俺は触らないで呼吸を置く。

場所を思い出させるだけだ。


「支援魔法使い殿」と老人が俺の肩の近くで声を落とした。

「昔、この橋で大事な荷を落としたことがあってね。

あの時、誰も怒鳴らなかった。

みんな、黙って一緒に拾った。

今日の空気は、あの時に近い」

「落とさないで済むなら、それが一番いい」と俺は笑った。


渡りきった少女が振り返って、小さな声で「ありがとう」と言った。

声は薄い。

薄い声の方が、長く残る。


一通り人を渡し終えて、荷車の番になった。

車輪の音は硬くない。

硬くないけれど、きれいとも言えない。

セリアが指先で空気の向きを指す。

「左へ半歩」

ケイルが肩で車輪の重さを少しだけ受ける。

「押してない。

受けてるだけだぞ」

「分かってる」とリリィが短く返し、荷車の前に立つ男へ視線で合図する。

男は頷いて、腕の力を抜いた。

力を抜くのは難しい。

けれど、抜けた後は早い。


荷車は渡った。

渡ったのに、誰も走らない。

走らないのに、早い。

渡し守の老人は橋に向かって「よくやった」と独り言みたいに言い、家令は薄い地図の端を指でたたいて「王に伝える」と短く言った。


橋を離れると、土手の小道に屋台がひとつ出ていた。

焼き菓子だ。

蜂蜜色の表面が朝の光に合っている。

マリアが真剣な顔で財布を握り、「休息に必要」と宣言する。

セリアは「二つまで」とあっさり線を引き、リリィは「一つずつ」と淡々と配る。

ケイルは「俺は三つ」といつもの癖を出すが、セリアの視線に負けて二つにした。

家令は「数字はあとから」と照れくさく笑いつつ、結局一つで我慢した。


「ユウマ」と渡し守が焼き菓子を半分に割ってこちらへ差し出した。

「橋の礼だ。

受け取ってくれるか」

「いただきます」と受け取る。

甘さは強すぎない。

こういう朝の甘さは、足に向いている。


王城へ戻る道、マリアが俺の袖を軽く引いた。

「ねえ、ユウマ。

今日の石橋、怖かった?」

「少しね」と正直に答える。

「怖いって思える間は、速度を落とせる」

リリィが横で小さく頷いた。

「怖いって言うと、並べる」

セリアは拍を数えるみたいに視線を落とす。

「落とさない拍で歩いている限り、角は立たない」

ケイルは杖を肩に乗せたまま、「俺も怖かったぞ」と笑った。

「でも、撃たなかった。

撃ちたい時に撃たないの、思ったより難しくない」

家令が横に並んで、薄い地図を抱え直す。

「支援魔法使い殿。

王が小広間で短い話を、と。

橋のこと、人を先にしたこと、待つ合図のこと。

『針は刺さない。

布を敷け。

数字はあとからついてくる』を五度目に」

「行こう」と俺は軽く頷いた。


小広間の窓際で王は座っていた。

膝に手を置き、外の風の拍を目で追っている。

俺たちが立つと、王は短く言葉を置いた。

「橋は、渡るためのものだ。

急げば落ちる。

落とさないためには、待つ。

待つためには、合図がいる。

合図は短いほどいい。

布は怒らない。

針は刺すな。

数字は、あとからついてくる」

ケイルが目を細めて小さく笑う。

「ついてくる」

リリィは真面目に頷く。

セリアは「理にかなってる」とあっさり結ぶ。

マリアは「橋の色、好き」と素直に言って、王は薄く目を細めた。

「それでいい」

話が座ると、侍女が戸口で手を重ねて立った。

「支援魔法使い殿。

城下の市場の片隅で、小さな劇団が昼の手伝いを頼んでいます。

舞の布の扱いが難しく、指先に怪我が出始めました」

「行こう」とリリィが短く言い、セリアは「足元の間隔を整える」と即座に受ける。

マリアは「歌は薄く」と準備し、ケイルは「俺は見る。

押さないで受ける」と肩で笑う。

俺は数珠を撫でて呼吸をひとつ置いた。

市場も橋も、やることは同じだ。


劇団は市場の端で舞台を組んでいた。

布の端が時々立って、人の指を引っかいている。

舞手の足音は揃っているが、布の呼吸が合っていない。

俺は袖の影から声をかける。

「布の端は、拍に合わせると怒らない。

息を吸って、吐いて、置く。

置いて、待つ。

持ち上げない。

乗せすぎない」

マリアが薄く歌を置く。

セリアは足元の間隔を指で示し、リリィは舞台前の人の並びを少しだけ整える。

ケイルは風を読むだけ。

読んだ風に合わせて、舞台の端を半歩だけずらす。

怪我は出なくなった。

舞手の顔に安堵の色が戻る。


「ありがとう」と団長が短く頭を下げる。

短い礼は重くない。

重くないから、長く残る。


市場を離れる頃、城下へ入る道の角に昨日と同じ黒い影が立っていた。

距離は変わらない。

風にも消えない。

祠の前で見た姿に似ている。

リリィが横で息をひとつ整え、「気にしない。

近づいてこないなら、並びの外」と短く言う。

セリアは視線だけを動かして、角に薄い印を置いた。

ケイルは杖の角度を変えずに、「俺は撃たない」ともう一度だけ口にする。

俺は影に向けて何も言わない。

何もせず、城へ歩く。


午後、王城の台所から料理長が顔を出した。

「昼は軽く。

甘味は少し。

塩は控えめ。

今日の橋の話に合うように」マリアが張り切って「カステラ!」と叫ぶ。

セリアは「卵は扱いが難しい」と淡々と整理し、リリィは「並んでやる」と短く言う。

ケイルは「火、弱めで」と嬉しそうに腕をまくる。

俺は匂いの層を確認して、甘さが前へ出すぎないように少しだけ場所をずらす。

台所の空気は乱れない。

焼き上がったカステラは、薄い色で、切り口がきれいだ。


「幸せ」とマリアが目を閉じる。

セリアは二つ目の前でほんの少しだけ迷ってから手に取る。

リリィはゆっくり噛む。

「……好き」ケイルは「数字は百」と口にして、料理長が「数字はあとから」と笑って帽子をずらした。


夕方、中庭の光が少し低くなった頃、家令が薄い地図を抱えて歩いてきた。

「支援魔法使い殿。

王城外の古い倉庫で、紙束が増えすぎて棚の呼吸が止まりかけている、と。

今夜は人の出入りも多い。

整えていただけると助かる」

「紙の並び、やろう」と俺は立ち上がる。

セリアは「重い言葉は下へ」と短く準備し、リリィは入口に立って「待つの合図」を握る。

マリアは「歌、薄く」と声を整え、ケイルは「押さないで受ける」と肩を回す。


倉庫は広くないのに、背が高い棚がいくつも立っていた。

紙束は色が地味で、匂いは薄い。

薄いのに、呼吸が止まりかけている。

俺は背と背の隙間に薄い目印を置く。

重い紙は下へ、軽い紙は上へ。

間に息を挟む。

挟んだ息は、人の足に合う。


「軽い」と倉庫番の男が目を見開く。

「同じ紙なのに」

「場所が変われば、呼吸も変わる」とセリアが短く結ぶ。

リリィは「並び、崩れない」と淡々と確認し、マリアは「歌、要らないくらい整った」と笑う。

ケイルは「俺は何もしてない」と言いつつ、実はちゃんと“受けるだけ”をやっている。

家令が肩を軽く叩いた。

「数字はあとから」

王城へ戻る途中、パン屋の灯りが夜に近い色になっていた。

焼きたての匂いは今日もいい。

表面の塩は薄く、甘さは奥に座る。

マリアが「幸せ」と噛み、セリアは「休息、完了」とあっさり結び、リリィは「二つまで」と線を引き、ケイルは「俺は三つ」と言ってすぐに二つに変える。

家令は「数字はあとから」と笑って、ひとつにした。


ベンチに座って空を見上げる。

雲は薄く、風はやさしい。

今さら戻れと言われても遅いんだが――その言葉は、もう胸の奥の床に静かに座っていて、誰かに見せる必要はない。

俺は前だけ見て、落とさないで歩く。

並んで歩く人がいる。

それで十分だ。


王城の鐘がひとつ鳴る。

新しい依頼の合図じゃない。

時間の知らせだ。

時間は短い方が座る。

座った時間は、邪魔をしない。

俺は数珠の留め具を撫で、胸の奥で呼吸をもうひとつだけ置いた。

明日も、落とさない。

急がない。

静かに整える。

数字はあとからついてくる。

今日の古い石橋は、ちゃんと目を起こして、眠る前に人を渡した。

それでいい。


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