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パーティを追放された俺、なぜか女だけの最強ハーレムパーティを作っていた  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)


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第12話 雨の日の台所で布を敷く

第12話 雨の日の台所で布を敷く

朝から雨だった。

王城の屋根に柔らかい音が乗って、石畳が薄い色を思い出すみたいに暗くなっている。

晴れの日の噴水はきらめくけど、雨の日の噴水は静かで、息を整えるのに向いている。

祭りの余韻が城下の通りにまだ残っていて、昨日笑っていた人たちの声が少し遠くで弾んでいるのが分かった。

こういう日は、急がない方がいい。

俺は数珠の留め具に指を軽く乗せて、胸の奥の呼吸をひとつ整えた。

ゆっくり、確実に。

雨の日は、布を厚めに敷く。


「ユウマ、朝から雨だね」マリアが小走りで来て、足音を減らすみたいに直前で速度を落とした。

金色の髪が湿気で少しだけ重くなって、いつものきらめきが柔らかい。

「でもね、雨の日の布って、綺麗なんだよ。

濡れると色が深くなるの」

「深い色は長持ちする」と俺は笑った。

セリアが傘も差さずに歩いてきて、灰色の瞳にいつもの冷静さを浮かべた。

「雨の日は城の呼吸が遅くなる。

遅い呼吸は悪くない。

台所から『匂いが重い』と連絡が来た。

朝の仕込みで塩を焦がしたらしい。

王の昼食に影響が出る前に、整えてほしい」

リリィは短く頷いて、「台所は人が多い。

声が重なると角が立つ。

私が並びを整える」と淡々と告げる。

ケイルは肩に杖を乗せ直し、珍しく真面目に笑った。

「俺は火の番。

火が強すぎないように、見てるだけでも役に立つだろ。

撃たない火ってのも、ある」

「撃たない火、いいね」とマリアが肩を叩く。

彼女の叩き方は軽いのに、元気はちゃんと伝わる。


王城の台所は朝から賑やかだった。

鍋の音、包丁の音、油の歌、パンの香り。

雨の日の湿気が混ざると、匂いが奥に沈みやすくなる。

沈みすぎると、誰かの声が高くなる。

高い声は元気だけど、尖りやすい。

尖る前に、布を敷く。


「支援魔法使い殿!」料理長が帽子を押さえながら駆け寄ってきた。

祭りの日に「塩を一粒で表情が変わる」と真面目に言っていた彼だ。

今日の彼は眉を少し下げて、肩に重さが乗っている。

「朝のスープ、塩を焦がしました。

焦げは小さいですが、匂いが重くて……王の食事の前に、空気を整えたい」

「整える」と俺は頷いた。

台所の中央へ進み、派手な所作を避けて、匂いの層に指先をそっと置く。

甘さは奥、苦さは手前、脂の重さが真ん中で座りすぎている。

座りすぎると、言葉の端が重くなる。

重い言葉は、料理を難しくする。

だから、少しだけ動かす。

押さない。

引かない。

動きたい方へ、道を示すだけ。


「歌、いる?」マリアが耳元で訊く。

「いる。

静かに、短く」と言うと、彼女は本当に静かで短い歌を置いた。

歌は油の上で薄い膜になって、匂いの角を丸くする。

セリアは鍋の火を目で測って「火、半歩だけ弱く」と淡々と指示を出す。

ケイルはその合図に合わせて杖を手から離し、火加減を手のひらの温度で見守る。

撃たない火でも、彼は役に立つ。

リリィは人の並びを少しだけ変えて、鍋に触れる手の順番を整える。

誰も怒らない。

怒らないから、早い。


料理長が湯気の中で鼻を鳴らし、「軽くなった」と笑った。

「焦げは小さいのに、匂いは大きい。

いつもそうだ。

ああ、助かった」

「焦げは悪くない」と俺は笑う。

「焦げの香りが欲しい日だってある。

今日は違うだけ。

違う日は、違うように整えればいい」

台所の隅で、若い下働きが泣きそうな顔をしていた。

手元のパン生地が伸びず、焦っている。

焦ると手が強くなる。

強い手は、パンを硬くする。

マリアが真っ先に気づいて、膝をついて目線を合わせる。

「大丈夫。

生地、呼吸してるから。

待って、ごめんって言えば、すぐ機嫌直る」

「ごめん……」下働きが小さく囁くと、本当に生地が少し柔らかくなった。

リリィは背中を軽く押して「待つ」と一言だけ言う。

セリアは粉の量を見て「水、半匙」と淡々と補う。

ケイルは「俺はパンを見守る」と謎の宣言をして笑わせる。

笑いは布だ。

布は重くない。

料理は布を欲しがる。


台所の空気が落ち着いてくると、雨の音がよく聞こえるようになった。

雨は拍を刻む。

拍が一定だと、人は無駄に動かない。

俺は中央の柱にもたれて、胸の奥の呼吸をもうひとつ整えた。

ゆっくり、確実に。

台所は騒がしくても、整える仕事は静かだ。


料理長が大鍋をひとつ持ち上げ、王の昼食用のスープを奥へ運ぼうとした瞬間、手がすべって鍋が傾いた。

重いスープが縁まで来て、流れ出す未来が見える。

台所にこぼれるスープは、笑いを泣きに変える。

泣きに変わる前に、布を敷く。

俺は走らない。

歩く。

鍋の横に立って、縁の重さを少しだけずらす。

落ちない方を指先で示すだけ。

スープはこぼれない。

料理長が息を吐いて「助かった」と笑った。

笑いは軽い。

軽い笑いは長く効く。


「ユウマ、すごい」とマリアが肩を叩く。

セリアは「動線、合ってる」と小さく頷く。

リリィは「こぼれなかった」と簡単にまとめ、ケイルは「俺、走ってない」と胸を張る。

走らないのは偉い。

偉いけれど、笑える。

笑えることは、台所に向いている。


王の昼食は無事に整って、料理長が皿を静かに並べていく。

塩の表情は優しい。

スープの甘さは手前。

苦さは奥。

油は薄い布の上で休んでいる。

俺は数珠の留め具を指で撫でて、胸の奥にひとつ呼吸を置いた。

仕事は終わった。

終わっていないけれど、終わった。

こういう感覚が好きだ。


台所を出ると、廊下の空気は雨で冷たかった。

冷たいのに、嫌じゃない。

雨は城の角を丸くする。

丸くなった角は、よく見える。

よく見えるから、足が止まらない。

止まらないから、歩きやすい。


「ユウマ」リリィが袖を引いた。

「王が小広間で、短い話をするって。

台所の話を聞いて、城の言葉を少し整えたいって」

「整える言葉は、短い方がいい」とセリアが淡々と受け取る。

マリアは「歌、いる?」と期待に満ちた目で見上げる。

「いる。

静かに」と俺は笑って言った。

ケイルは肩に杖を乗せ直して、「撃たない日、悪くない」と小声で呟いた。

彼は撃たない日が増えている。

増えているのに、退屈していない。

それが、嬉しい。


小広間に入ると、王は窓際に立って雨を見ていた。

豪華な衣は着ていない。

軽い上衣だけ。

年を重ねた顔に溝が増えたのに、目の光は薄くない。

王は俺たちを見て、短く笑った。

「台所、助かった。

雨の日は匂いが重くなる。

重くなった匂いは、言葉も重くする。

だから、言葉を軽くしておきたい」

「言葉は、紙になる」と俺が言う前に、王は頷いて続きを置いた。

「紙は重くなる。

重くなった紙は、人の足を止める。

だから、紙の下に布を敷け。

針は刺すな。

刺したいときは、布を厚くして、待て。

待てば、角は丸くなる。

歩きやすい城でありたい」

短い言葉が床に座った。

重くないのに、座る。

座った言葉は動かない。

動かないのに、邪魔をしない。

俺は胸の奥でひとつ息を吐く。

小広間は整っていた。

整っているときに限って、何かが隙間から顔を出す。


窓の脇で、若い書記官が背の高い帳簿を抱えて立っていた。

昨日、図書塔で迷っていた彼だ。

彼は王の言葉を聞きながら、帳簿を抱え直す頻度が増えている。

抱え直すのは、重いからだ。

重い紙は、抱え直す。

抱え直すと、落とす。

落とす前に、布を敷く。


「帳簿、重い?」と俺が小声で訊くと、書記官は恥ずかしそうに頷いた。

「はい。

王城の外での支出が増えて……祭りの準備も重なって……紙が増えました」

「増えた紙は、減らすより、軽くする方が早い」と俺は笑う。

「重い言葉を下へ、軽い言葉を上へ。

布を下に。

布は怒らない」

セリアが短く「理にかなってる」と結ぶ。

リリィは「並ぶ」と一言だけ重ねる。

マリアは「紙にも歌、いる?」と無邪気に訊く。

「いる。

静かに」と王が先に答えた。

ケイルは「紙の火は撃たない」とふざけて、場の空気を少し柔らかくした。

柔らかい方が、言葉は座る。


王が話を終えると、家令が小広間に入ってきた。

雨で肩が少し濡れている。

彼は俺たちを見ると、息を整えて頭を下げた。

「支援魔法使い殿。

城門の外で小さな騒ぎ。

荷馬車が坂で滑り、子供が転びそうになった。

警備は向かっているが、城下の道の布が薄いところがある。

整えられるなら、お願いしたい」

「行こう」とリリィが先に言った。

セリアは「坂の勾配、理にかなってない場所がある」と淡々と続ける。

マリアは「布を厚くする色、持ってく」と走り、ケイルは杖を肩に乗せ直して「撃たないで支える」と珍しく誇らしげに言った。

俺は数珠の留め具を指で撫でて、胸の奥の呼吸をひとつ整えた。

ゆっくり、確実に。

雨の坂は針を隠す。

隠す針は、先に見つける。


城門を出ると、雨は細くなっていた。

細い雨は長く降る。

長く降る雨は、角を丸くする。

丸くするけれど、坂は滑る。

城下の坂の途中で、荷馬車が軋む音がして、人の声が高くなっていた。

高い声は元気だが、刺を持つ。

刺は針。

針は刺さない方がいい。

刺しそうなら、布を厚くする。


「ここだ」とセリアが低く言って、坂の端の石に目を落とす。

「苔。

薄いけれど、雨の日は滑る。

露店の荷車が通りすぎるたびに、足が乱れる」

「苔は悪くない」と俺は笑う。

「悪くないけど、場所を選ぶ。

坂の真ん中は苔の場所じゃない」

リリィが人の流れを手で止め、荷馬車の前の男に短く声をかける。

「少しだけ、待つ」男は頷いて、荷馬車の車輪を押さえ直す。

ケイルは杖で坂の端を軽く叩き、石の目を思い出させる。

叩き方は強くない。

強すぎると、石が怒る。

怒る石は滑る。

怒らない石は、足を受け止める。


マリアが布を持って駆け寄り、苔の上に薄く敷く。

布は重くない。

重くない布は、苔に怒らない。

怒らない苔は、少しだけ場所を譲る。

俺は胸の奥の呼吸をひとつ整えて、坂の四隅に目に見えない目印を薄く置く。

坂自身が、自分の坂だと思い出すように。

思い出せば、落ち着く。


子供が一人、雨で濡れた石に足を滑らせかけた。

未来に転ぶ音が見える。

俺は走らない。

歩く。

子供の腰の高さに手をそっと伸ばして、落ちない方へ重さを少しだけ移す。

転ばない。

子供は驚いて俺を見て、すぐに笑った。

「ありがと!」笑いは軽い。

軽い笑いは長く効く。


「ユウマ、やっぱりすごい」とマリアが肩を叩く。

セリアは「坂、整った」と満足そうに目を閉じる。

リリィは「転ばない」と簡潔にまとめ、ケイルは「撃たないで支えた」と自分で自分を褒める。

「偉い」「偉い」とマリアとセリアが同時に言って、彼は照れくさそうに笑った。

照れくさい笑いも、布だ。

布は重くない。


坂の騒ぎが落ち着くと、城下の風が少しだけ甘くなった。

雨の匂いと果物の匂いが混ざる。

混ざるのに重くない。

重くない匂いは、歩きやすい。

俺は数珠の留め具を指で撫でて、胸の奥にひとつ呼吸を置いた。

仕事は終わった。

終わっていないけれど、終わった。

こういう感覚が、やっぱり好きだ。


王城へ戻る途中、家令が坂の上で待っていた。

雨で肩が濡れているのに、顔は柔らかい。

「助かった。

城下の道に布が敷かれた。

王の言葉も、今日の台所も、城門の坂も、同じ話だ。

針は刺さない。

布を敷け。

数字はあとからついてくる」

「ついてくる」とケイルが小さく復唱して、リリィは真面目に頷いた。

セリアは「理にかなってる」と冷静に結ぶ。

マリアは「布の色、また選ぼう」と無邪気に笑った。

俺は何も言わないで、ただ頷いた。

言葉を長くする必要はない。

王城は今、短い言葉で歩いている。


中庭に着くと、雨はほとんど止んでいた。

石畳が薄く光って、噴水の水面が小さく震えた。

パン屋の香りが通りを越えて広がる。

マリアが目を輝かせて「今日はクルミ!」と叫び、セリアが本当に少しだけ笑った。

リリィは「二つまで」と線を引き、ケイルは「俺は三つ」といつもの冗談を言って、家令が「数字はあとから」と照れた顔でまとめる。

俺は塩気だけを舌に乗せて、静かに息を吐いた。

支援は、生きるための術だ。

橋は、渡るためのものだ。

城は、場だ。

人は、群だ。

扉は、依頼だ。

鍵は、俺の手だ。


ベンチに座って空を見上げると、雲は薄くなっていた。

薄い雲は長く見える。

長く見えるものは、覚える。

覚えたものは、橋になる。

俺は静かに口を開いた。

「今さら戻れと言われても遅いんだが」誰に言ったわけでもない。

言葉は自分の胸に座って、それからゆっくり空へ上がっていく。

マリアが肩をぶつけて笑い、セリアは目を閉じて頷き、リリィは唇の端を上げ、ケイルは「知ってる」と少しだけ優しく言った。

家令は何も言わず、ただ頷いた。

頷きは布だ。

布は重くない。

重くない布は、長く効く。


王城の鐘がひとつ鳴った。

新しい依頼の合図ではない。

時間の知らせだ。

時間は布だ。

布は重くない。

重くない布は、明日に続く。

俺は胸の奥で静かな約束をもうひとつ重ねた。

明日も、落とさない。

ゆっくり、確実に。

数字はあとからついてくる。

今はそれで十分だ。

雨の日の台所は静かで、俺たちの笑いは小さくて、でも確かだった。


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