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私と浅桜さんの日常

 昼休み。


 私と浅桜さんは、机を向かい合わせてお昼ご飯&ミーティングを行なっていた。


 と言っても、元々馬が合わない彼女とのミーティングはここ数日、お互いの主張を通すために平行線をたどっているんだけど……。


「なんでそのタイミングで順位をキープするの⁉ 相手のピットインのタイミングなんて完全には読みきれないんだから、中盤は積極的に勝負を仕掛けるべきよ!」


「確かにそうかもしれないけど、中盤はどのチームも順位を上げるために仕掛けてくる。そのタイミングを待ってからでも遅くないと思うけど?」


「何よ、アタシの追い抜き(オーバーテイク)の技術を信頼してないってわけ?」


「そんなことはないけどさ……確かに、浅桜さんの勝負強さは評価してるけど、それでも自分たちからリスクは負うべきじゃないよ」


「そんな弱気になるくらいなら、アタシがもっと勝負できる作戦にして! それに、リスクは負ってなんぼじゃない! こんな消極的な走りばっかりしてたら、絶対に勝てっこない!」


「そうは言っても、現状の浅桜さんのシミュレーションで出てる結果を分析したら、この走りをすることが最適なんだって。何で分かんないかなぁ……これだから攻撃プッシュだけを仕掛ければいいと思ってる馬鹿ひとは嫌なんだよ」


 私の反論に、浅桜さんは怒りの表情になり、食べかけのブロックタイプの栄養補助食品を机に叩きつけた。


「あぁ⁉︎ 今、アタシのこと馬鹿にしたでしょ⁉︎ 喧嘩なら受けて立つわよ!」


「最初に喧嘩を売ってきたのはそっちでしょ? それに私は、脳みそが全部相手を倒すことで出来てる浅桜さんと違って、平和主義者なんで喧嘩なんてしませーん」


「何よその言い方⁉︎ めっちゃムカつくんですけど!」


「まぁまぁ、リコちもセリナちも落ち着きなって。喧嘩するほど仲がいいのは分かるけどさぁ……」


「「仲良くない!」」


 ルカの制する言葉に、私と浅桜さんは同時に否定をする。

 その様子に「そーゆーところが仲良いんじゃん」と、ルカは呆れたように肩を竦めた。


 周りを見渡すと、クラスメイトは「またやってるよ……」といった風な視線を送っていた。

 その冷ややかな視線で冷静さを取り戻せた私は、大きく息を吐き出して彼女へ向き直る。


「はぁ……とりあえずは、浅桜さんは私の提示した作戦で走ってよ。そもそも、そう言う約束でペアを組むことになってたじゃん」


「嫌だ」


「ガキか」


「誰がガキよ! アンタこそ、戦略分析科ならアタシのレーススタイルとかも込みで作戦を立ててよね!」


「私が分析するのはあくまでレースに関してで、浅桜さんの乙女心ではないんだけど?」


 私の反論に、浅桜さんは頬を赤く染める。


「だ、誰が乙女よ! 大体、アンタの作戦が良いものだったら大人しく従ってるって!」


 彼女の言葉に、私の眉がムッと持ち上がる。

 作戦が良いものじゃない。その発言は聞き捨てならなかったからだ。


 自分が立てる作戦は、浅桜さんの言う通り消極的なものかもしれない。

 それでもドライバーの安全性とリスク管理を天秤にかけて、バランスの取れた作戦だと自負していた。


 納得できないのならわかる。

 それは話し合いで解決すればいいが、それでも私にだって譲れないものがあるんだ。

 それにいい加減、話し合いが平行線になるのに辟易としていたところだったし。


 私は強張る表情をなんとか緩めながら、浅桜さんの瞳を見つめた。


「じゃあさ、勝負しようよ」


「勝負?」


 言葉の意図が掴めないと言ったように眉を顰める浅桜さんに、私は頷く。


「うん。明後日の『合同シミュレーション』で、私の指示通りにレースをする。それで今回目標としてる五位……いや、四位以内に入ることが出来たら、私が立てた作戦で本番を走ってもらうっていうのはどう?」


 私の提案に、浅桜さんは更に眉を潜める。


「もし、四位以内になれなかったら?」


「浅桜さんの指示通りに、積極的なレースになるように作戦を組み直す。それで文句はないでしょ?」


 言い切る私に、浅桜さんは不敵な笑みを浮かべた。


「逆にその条件でいいの? もしそれでアタシが手を抜いたら、四位以内に入れないかもしれない。アンタが不利になる条件にしか思えないけど?」


「へぇ、怖いんだ」


「……どういうこと?」


 私の言葉に、浅桜さんの表情が怒りに似たものになる。

 そんな彼女の様子にはここ数日で慣れてしまったから、私は気にせず続けた。


「だってそうでしょ? 手を抜くってことは逆に『手を抜かなきゃ目標達成できる作戦だった』って証明しているようなもんじゃん」


「ぅぐ……」


「だから怖い。私の立てた作戦で上手く行っちゃった日には、それこそ言い訳なんて出来ないからね」


「っ!」


 浅桜さんは、私の言葉に悔しそうな表情を浮かべる。

 私だって彼女の言い分を大人しく聞くつもりなんてないし、聞いてあげる義理もない。


「だからレースで白黒付けようよ。それにこれは、浅桜さん側が有利な勝負であることには変わりないんだし、勝負をしない理由はなくない?」


「……分かった」


 浅桜さんが大きく息を吐き出す。


「やってやろうじゃない! その代わりアンタが負けた時は、アタシが走りやすいような作戦に練り直してもらうから覚悟して!」


「うん、女に二言はないよ」


 こうして、成り行きとはいえ私と浅桜さんは勝負をすることになったのでした。


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