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グライドフォーミュラー・アカデミア  作者: 夜丹 胡樽
エイメイ・サーキット 本戦
40/46

今はそれでいい

 四十五周を終えて、セリナはピットインを行った。


 四位のドライバーをアンダーカットするため、整備科の生徒たちは先ほどと変わらない速度でブレーキの交換を行う。

 ロリポップの表示が緑に変わると、セリナは再びサーキットへと戻っていった。


 その後、ピットインなどで順位の変動があり、四十七周目でセリナは六位を走っていた。

 リコの分析では、あと五周以内には元の順位に戻れるらしい。

 加えてリコと大澤からの指示で『不測の事態に備えて、順位は出来るだけ上げていこう』と伝えられていた。

 そうと決まれば、彼女に残されている選択肢は一つ。


 自分が出せる最速で、サーキットを駆け抜けるだけ。


『セリナ、プッシュしよう! 今のペースを維持できれば、ピットインをしてる人たちを抜けるよ!』


了解コピー


 リコからの指示を受けて、セリナはマシンを加速させていく。

 リアクターの甲高い回転音を響かせて、セリナはホームストレートを目指した。


 そのまま加速を行っていき――そして、相手のマシンが出てくる前にホームストレートに到着。

 アクセルを踏みしめて、先ほど四位と三位にいたドライバーをピットから出てくる前に背後に置き去りにした。


 遠く背後で歓声が響く。


『今のアンダーカットで三位だよ! レースも残り十二周だから、落ち着いてリスクオフのレースをしていこうね』


了解コピーっ」


 リコの無線を切って、セリナは緊張の糸を繋ぎ直した。


 残りの周回数を無事に走りきること。

 それが今のセリナに課せられた最重要課題だ。その上で勝負できるタイミングで上位を狙っていく。


 ――本当にそれでいいの?


 それでいい。

 今のセリナは、胸の奥から湧きあがってくる言葉を諭す余裕すらあった。


 自分は今、自分だけのためにレースをしているんじゃない。

 チームのためにレースをしているのだ。

 それであれば、今取っている選択肢が正解だと胸を張って言える。


『次のマシンとのタイム差は約二秒。前にいるのは、九万瀬さんだね』


「っ……了解(コピー)


 タイガの名前を聞いて、セリナの首筋に熱いものが走った。

 それまで凪いでいた心に気炎が舞い戻ってくる。


 アイツに負けたくない。


 ただそれでも、無理な勝負をする気は起きなかった。

 もし残りの周回中に追いつくことが出来なかったら、次の機会にでも『受けた借り』は返せばいい。


「っ!」


 前との差は約二秒。考えているセリナの眼前に、見覚えのあるマシンの背中が見えた。

 水色をベースに白の雲のマークのロゴが入った機体――『イースタークラウド』のタイガのマシンが、まるでセリナを待つように走っていた。


 セリナは反射的に無線のボタンを押した。


「ねぇリコ、タイガが走ってるのは二秒前じゃなかったっけ? なんでアタシの目の前にいるの……?」


『えっと、そのはずだったんだけど……こっちでわかる範囲だと、九万瀬さんに少しミスをした可能性があるくらいかな。申し訳ないけど、正確な情報は分からないや』


了解コピー……」


 リコからの無線に、セリナは表面上は納得の言葉をしながらも、胸の中には否定の言葉を浮かべていた。

 それは今の状況が模擬戦とあまりにも酷似しているからだ。


(アイツ、わざとペースを落としたんだ)


 それはドライバーとしての直感。アイツならそういうことをやりかねないという、ある種の信頼みたいなものだ。


 わざとペースを落としたのはきっと、自分と勝負をするためだろう。

 見え透いた挑発行為に自然とセリナの口の端が上がった。発火し、再燃した気炎へ応じるようにリアクターの回転数を上げていく。


 それでも思考は明瞭だった。

 模擬戦の時のような焦燥感ではなく、あるのは決着をつけるという気概。


「いい度胸じゃない」


 恐らくここが分水嶺。

 眼前の敵を抜かさないと無駄にマシンを消耗させてしまい、後続からのプレッシャーに耐えられない可能性がある。


 ならば残されている選択肢は一つだけ。


 アイツを抜く――ただそれだけだ。


「勝負だ、タイガッ!!」


 そんなセリナの気迫に圧されるように、マシンは高速の世界へ突入していく――


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