アタシが『いちばん』になるとこを特等席で見せてあげる
「よし、全員準備は出来たみたいだね」
大澤さんは、全員に視線を向ける。
一年八組の生徒全員が決して広くはないピットの中に集まって、彼の言葉を待っていた。
一年生レースに向けた、最後の全体ミーティング。
私を含め、この空間にいる全員の緊張と高揚感が高まっているのを感じる。
「今のところ、状況は芳しくない。古谷くんが九位と悪くない位置だけど、アクシデントがあった浅桜くんは十五位からのスタートだ」
みんなが息を飲むのを確認しながら、大澤さんは言葉を続ける。
「みんな知っての通り、浅桜くんはチームの目標である『少しでも多くのポイントを獲得する』以外に『エースドライバーになる代わりに五位以内に入る』ことを個人目標として設定している。それが達成できない場合は、以後の学内レースでの出場ができないという条件付きだ」
私は自然と、隣にいるセリナの方へ視線を向けた。
彼女は真剣な眼差しで大澤さんの方を見ていて、私は安心感を覚えながら大澤さんの方へ視線を戻す。
「現時点ではその目標達成は難しい。だけど、不可能な目標ではないと僕は思っている」
そこで大澤さんは笑みを浮かべる。
「だからこそ、今目の前にある目標に全力で挑戦をしようじゃないか。僕たちのチームは最下位。そんな逆境なんて跳ね返して行こう! 今の僕たちに、これ以上失って怖いものなんて何もないんだからさ」
「「「おぉーッッッ!!!」」」
大澤さんの言葉に、みんなやる気十分と言ったように掛け声で返した。
そのまま諸連絡を行い、ミーティングはお開きとなる。
「ねぇ、リコ」
「ん?」
と、そこで誰かが私のジャケットの袖をツンツンと引いてくる。
振り返るとセリナが少し恥ずかしそうな表情を浮かべて私を見ていた。
「どうしたの? あれ、何か確認し忘れてたことがあったっけ?」
私の質問に、セリナは「そ、そうじゃなくて」と首を横に振りながら、すっと左腕を出してくる。
肘先から曲げて、拳を握りしめて……これは?
「えっと、それは?」
「ほ、ほら! アンタと東雲さんがやってたヤツよ! 腕と腕をトンってやる、あれ!」
「ルカとやってたって……あぁ、フィスト・バンプね」
そこで彼女が何をしたいのかが分かった。
私はすぐに自分の右手を出して、彼女の左腕にトンと打ち付ける。
それだけのことだけど、なんだか楽しくなって私とセリナはお互いに笑みを浮かべる。
「リコにはアタシが『いちばん』になるとこを特等席で見せてあげる」
「うん、楽しみにしてるね」
私たちはそのまま各々の持ち場へと移動する。
ピットウォールスタンドに到着する頃には、開始時間の一時間前だった。
「始まるんだ」
気温は二十五度、雲の少ない快晴の空の下。
高鳴る胸の鼓動を抑えながら、私はその時を待つ――