45.【火球(fireball)】
「ええ。1時に出るよって約束したら、1時になって、徐ろに出掛ける準備をする。だから、目標の時間は、サバ読まないといけない。」
「暢気な奥さんねえ。分かる分かる。ウチは、主人がそういうタイプ。だから、あまり2人で出掛けない。あ、呼ばれたわ。」
======== この物語はあくまでもフィクションです =========
ここは、『祈の国』。
俺の名は、「異次元の殺し屋・万華鏡」。次元を渡り歩く殺し屋だが、殺すのは、人間とは限らない。
俺には聞こえる。殺してくれ、と。
どこの次元でも聞こえている。
跳んで来たのは、産婦人科待合室。
「あら?お一人?ここ、産婦人科よ。」と、ある婦人が俺に行った。
どこから現れたかお構いなしか。
「え?ああ、女房と待ち合わせしていたんですが、遅いなあ。いつものことだけど。」
「いつものこと?」
「ええ。1時に出るよって約束したら、1時になって、徐ろに出掛ける準備をする。だから、目標の時間は、サバ読まないといけない。」
「暢気な奥さんねえ。分かる分かる。ウチは、主人がそういうタイプ。だから、あまり2人で出掛けない。あ、呼ばれたわ。」
その婦人が診察室に消えたので、俺はトイレを探す振りをして、院内を歩いた。
大きな病院だが、迷子にはならない。やたら、外国人の為の表示が目立った。
自販機の隣に、無料の水飲み機を見付け、備え付けの紙コップに水を注いで飲んだ。
「美味しそうに飲むねえ。上手かった?」
「ああ。暑いですからねえ。迷いながら来たから。」
「そうなんだ。病棟作り直して移転したからねえ。駅から遠くなってしまったねえ。」
長いベンチが空いていたので、自然と、その中年男性と話し込むことになった。
南極ぼけの話は、すぐに信じてくれた。
「暑さはこたえるよねえ。ずっと寒いとこにいたんなら。まあ、この国ももうすぐ終わりだけどね。」
「終るんですか?」「知らなかった?ああ、国が無くなるから、呼び戻されたんだよ、きっと。もう南極隊は行かないな。儲からないし。」
彼の話では、やはり国政が無茶苦茶らしい。隣国に媚びを売り、選挙に負けても辞退しない、潔くない、内弁慶の国のトップは『構ってくれないちゃん』というキャッチフレーズで呼んでいるらしい。
「あそこの産婦人科、『行き止まり』なんだよね。ここからよく見える。何者?駅は反対側だよ。」
俺は、観念して、本当のことを言った。
「ふうん。じゃ、私も本当のことを言おう。私は『前院長』、『現泌尿器科医師』。玄関前の組織表の看板見てくれると分かるけど、もう半分は隣国窯の国の人間。窯ヤンが院長になった。元々、2つの大学の派閥があって、その『共和制』で交互に組織していたんだけど、どっちも乗っ取られた。窯ヤンがトップだと、政府から『補助金』が出るんだ。早かったよー。たまたま、私は院長になる前から泌尿器科やってたし、なかなか担い手がないんだな、泌尿器科って。で、どう始末付ける、殺し屋さん。ここの次元では、異国人だらけにした、『構ってくれないちゃん』を辞任させることが出来無いから、党裁選挙の前倒しが決まっている。再来週だ。『政治的に』か『身体的に』で葬られる可能性があるよ、対立候補には。」
「1つ確認していいですか?」「皆まで言うな。院長には未練がない。前前院長のオシがあったから院長になった。私の仕事は患者を診ることだ。政治をすることじゃない。」
「・・・分かりました。」
俺は、前島院長に教えて貰った、この次元での党裁候補3人を匿った。
党裁選当日。
会場には、記者が待ち構えていた。
党裁選。
候補者Aが3分の2、候補者Bが6分の1、現党裁は「1票」、後は棄権だった。
シ
新党裁の記者会見場。
囲まれた、新党裁の向こうに、「前党裁」が叫んでいた。
「そんな、そんな筈はない。あいつは、不倫がばれた。それに、お前は死んだ筈だ。」
「今、あの人、聞き捨てならないこと言いましたね。」と、俺は隣にいた「本物」の記者をせっついた。
記者は、前党裁の所に走った。
「死んだ筈、って、どういう意味ですか?」
記者会見は、テレビでもSNSでも中継をした。
病院。泌尿器科診察室。
「やっぱり、神様はいるんだ。」テレビを消した前島前院長は十字を切って、黙祷し、看護師に言った。
「次の患者さんを呼んで。」
「はい。」看護師は元気よく応えた。
俺の名は、「異次元の殺し屋・万華鏡」。次元を渡り歩く殺し屋だが、殺すのは、人間とは限らない。
今回は、『自殺行為』をして貰った。
さて、今度の次元は・・・南極ぼけ、通じるかな?
―完―
「あそこの産婦人科、『行き止まり』なんだよね。ここからよく見える。何者?駅は反対側だよ。」
俺は、観念して、本当のことを言った。




