「カメラは空も、君も映す」
【おはなしにでてるひと】
瑞木 陽葵
昼休み、校舎の屋上。
ひこうき雲が一本だけ、白く伸びていて、
それがなんだか“いい感じの被写体”に見えた。
――誰に見せるでもないのに、思わず言葉があふれるのは、
その空を“わたしの大切な何か”に変えてくれるから。
荻野目 蓮
屋上のドアを開けたら、
スマホを構えながら空に話しかけてる陽葵の姿。
その光景が、あまりにも“らしくて”、
自分のスマホを静かに構えた。
――この一枚は、心のアルバムにも入れておきたくて。
【こんかいのおはなし】
昼休み、
屋上の柵にもたれかかって、
空を見上げていた。
真っ青な空に、
白いひこうき雲が一本だけ。
スマホを取り出して、
構えて、
そっとつぶやく。
「……いいね」
カシャ。
「すばらしいよ」
カシャ。
「ここのアングルからの君も、素敵だよ~」
カシャ。カシャ。
自分でも、ちょっと笑っちゃうくらいテンション高め。
でも、空って、たまに“言いたくなる空気”になるんだよね。
「……なんのポートレート?」
背後から、静かな声。
「わっ!?ちょっ、いつ来たの!?」
「ちょうど今」
蓮が、スマホを持ったまま、
屋上のドアから出てきて、
そのまま私の方を見てた。
「モデルに語りかけながら撮影って、
なかなかの上級者だな」
「や、これは……空がさ、ちょっといい顔してて……」
「うん、知ってる。
……陽葵も、いい顔してた」
「……なっ、なにその台詞。誰の影響?」
「本能」
そう言って、蓮はスマホを構え――
カシャ。
「うそ、撮った!?」
「今の顔、保存価値あり」
「だ、だめっ……変な顔してたかも……」
「大丈夫。
“この空の下、いちばんいい顔”してた」
ふたり、
顔を見合わせて、
ふっと笑う。
そのとき、
校内放送のチャイムが、
昼休みの終わりを告げた。
「……じゃ、教室戻ろっか」
「うん……でも、消してね?その写真」
「ごめん、クラウド同期済み」
「わたしの照れ顔、世界に飛んでったの!?」
「世界どころか、
俺のフォルダ直行です」
「やめて~~~!!!」
そんな笑い声と、
まだ残るひこうき雲と、
昼休みの名残りの光。
シャッターよりも静かに、
ふたりの“今”が刻まれていく。
【あとがき】
ひこうき雲を“モデル”として扱う陽葵、
そして、その陽葵を“被写体”にしてしまう蓮。
この視線の連鎖こそが、
青春の“ささやかな奇跡”なんですよね。
空と笑顔が重なった、昼休みのグラデーション、どうぞ焼きつけてください。