第23話 一生のお願い
『新しいイラスト拝見しました! 今回も細部まで凄く描き込まれていて引き込まれました。特に背景の落ちる紅葉の一枚一枚まで丁寧で本当に感動しました!」
『金の犬さん、いつも見てくださりありがとうございます。金の犬さんの新しいイラストも楽しみにしてます』
金の犬は俺のツイッタのアカウントの名前である。
シュガー先生の新しいイラストが昨日公開されたので、居ても立っても居られず、メッセージを送ってしまった。
結果はご覧の通り。まさかのまたしてもメッセージが返ってきた。神!
「ふへへへへ」
「うわ、相変わらず気持ち悪いにやけ顔だね。またシュガー先生?」
お昼ご飯の弁当を一緒に食べていた蒼がうんざりした声を漏らす。
「なんでバレた!? まさか蒼、読心術の使い手……」
「多分誰でも分かると思うよ?」
やや呆れた表情。解せん。ちょっとにやけてただけなのに。
「それでどんないいことあったの?」
「シュガー先生が新しいイラストを公開したから、コメントだけじゃなくて、直接メッセージを送ったんだ。そしたら返信が来たんだよ」
「おー、それは良かったね。緊張しなかったの?」
「もちろん緊張した。嫌われないかドキドキしたし。恋に悩む女の子の気持ちが分かったぜ」
これまで、一々ぐだぐだ悩む他人の気持ちが分からなかったが、ここにきてやっと理解した。
シュガー先生に嫌わられたら死ねるし、メンヘラ化は確実。今なら悩める人の気持ちに寄り添える自信がある。
こんなところまで成長させてくれるなんて、やはりシュガー先生は神。
「なんか順調に仲良くなってるんじゃない? このまま上手くいくといいね」
「ああ。大事にするよ。有り難さは常々実感してるし、もう毎日履歴を見返して拝んでるくらいだからな」
「それはちょっとキモいかな」
今日も毒が飛んできた。そんなこと言われてもこれはやめられない。つい気になってしまうのだから。これは恋かもしれない……!
まだ会話をしたのは二回目だが、自分のイラストを期待してくれているし、嫌われてはいないと思う。
早く次のイラストを描いてコメントを貰いたい。
仲良くなる未来を妄想していると、蒼がちょっとだけ羨望な視線を向けてくる。
「蓮は順調でいいなー」
「なんだ、上手くいってないのか? 七海と電話したんだろ?」
「それっきり、何にもないんだよ」
「お得意のデートに誘えばいいだろ」
「で、デートって。そんなこと出来るわけないじゃん」
蒼は体の前で両手の人差し指をちょんちょんと突き合わせる。
「なんでだよ」
「断られたら死ねる」
「あー、七海なら笑いながら断ってきそうだな」
「それが一番心に来るパターンだよ……」
呑気にぽやぽや笑いながら、きっぱり断る姿が鮮明に思い浮かぶ。相変わらず蒼は、好きな人が相手だといくじなしだ。
「なんかいい機会ない?」
「……テスト勉強とか? 一緒にやろうって誘えば?」
来週末から期末試験が始まる。今度こそ白雪を倒すべくテスト対策は行っているので、早く勝負をしたいところ。
「テスト勉強。確かにいいかも。でも、白雪さんが……」
うるうるとした瞳でこっちを見つめてくる蒼。上目遣いなのがわざとらしい。そんな目で見るんじゃない。
「2人だとやっぱり緊張するし断られやすいから、白雪さんも誘ってさ、5人でやりたいな」
「し、白雪さんと勉強会だと。それはいいアイディアだ、蒼。ぜひやろう」
白雪がダシにされたことで大翔が食いついてくる。キリッと大翔の顔が凛々しい。やばい、2対1。
じっとこっちを見つめながら、蒼と大翔が二人一緒に瞳を潤ませる。明らかにゴリ押すつもりだ。
「そんなに俺を見るんじゃない」
「頼む。蓮しかいないのだ。蓮が誘うのが一番可能性が高いのだ。一生お願いだ」
手を合わせる大翔にため息が出る。一生お願いほど胡散臭いものはない。姉貴にこれまで一生お願いを50回は使われましたが?
「……誘ってはみるけど、断られたら諦めろよ?」
「いいのか?!」
「頷くまで諦めそうにないしな」
「……ありがとう。あんな美人で可愛い人と勉強会が出来る日がきたら、もう俺は死んでもいい。それにあんなに頭が良いんだから絶対捗る」
相変わらず大袈裟な奴め。そこまで言うなら一応は聞いてやろう。白雪がなんと答えるかは分からないが。
ただ、俺が白雪と一緒に勉強をやりたいと思われるのは嫌なので、ちゃんと友達が言ってるってことを強調して。
教室の端っこで七海と一緒にご飯を食べている白雪を見た。