表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/29

第22話 白雪凛視点

(やっぱり、思った通りでした!)


 黒瀬さんが話したいとのことだったので、わざわざ時間を作った甲斐があった。

 あの素直でない黒瀬さんが感謝してくるなんて、なかなかいい気分。


 以前、友達の話という体でもっと私と話したいというお誘いがあった。


 おそらくお砂糖シュガーの話をしたいのだろうと予想して今回の機会を作ったけど、予想は完璧に的中した。


 それは黒瀬さんの「察して機会を作ってくれたんだろ?」という発言からも明らか。


 よく分かってる。黒瀬さんの以前の発言から本音を読み取ったんだから。

 私の察しの良さが無ければ、こんな機会絶対起こらなかったと思う。


(ふふふ、黒瀬さん。私の察しの良さに感謝するんですね)


 心の中で胸を張る。鈍感な人だったら絶対、気付けない。あんな遠回しな誘い方、私以外だったらスルーされていたに違いない。


 まあ、結果としては、黒瀬さんの話を聞けて良かったのだけれど。


 楽しそうに話す黒瀬さんは、なかなかにいい表情だった。いつもの腐った目とは違うきらきらとした瞳は未だに見慣れない。


 よくあそこまで私の絵について話せると思う。10分くらいかと思ったら、気付けば30分経ってたし。


 次々と出てくる褒め言葉。どれもこれも私の絵をよく見ていることが伝わってきた。本当に、好きなんだなって思う。


 直接聞くのは、ちょっと恥ずかしいけどやっぱり嬉しい。なかなか直接聞く機会がないから余計に。


(……っていけない)


 未だに30分も聞かされた余韻が抜けていない。思わず熱くなりかけた顔の熱を振り払う。そっと目の前でいい子に座ってるアルフを撫で回す。


 凄く人懐っこいし、可愛い顔をしていて、本当に黒瀬さんが飼ってるのか疑いたくなる。


「本当に犬が好きだよな」


 隣で私の方を見ながら黒瀬さんが呟いた。


「アルフはいい子ですからね。本当に黒瀬さんが飼っているのか疑いたくなります」

「どういう意味だよ」

「黒瀬さんが飼ったら、わがままな暴れん坊になりそうです。はっ、まさか、アルフが可愛すぎてどこからか盗んできて……!?」

「お前じゃねえんだから、盗むかよ」


 呆れたような声が突き刺さる。失礼な人。私だってそのぐらいの分別はある。


「私だって盗みませんよ。アルフは可愛すぎて、お持ち帰りしたくなりましたけど」

「あげないからな?」

「今ならシュガー先生のサインを付けますよ?」

「……っだめだ」


 迷うように視線を彷徨わせる。残念、いい交渉だと思ったんですけど。私が文字を書くだけですし、お買い得というやつです。


「そこまでして他人の犬を欲しがるとか好きすぎないか? ちょっと引く」

「……あなたにだけは言われたくありません。シュガー先生のことを好きすぎでしょう?」

「好きって程度じゃない。崇拝してるんだ」


 真顔で馬鹿なことを言い始めた。なんですか、崇拝って。神様とでも?


 どうやら、ドン引きしてることが顔に出てしまったようで、黒瀬さんはふいっと顔を逸らす。

 呆れてため息が出た。


(まったく、いざって時はあんなに良い人なのに……)


 どうして、こう、残念なのか。普段からもうちょっとシャキッとしていれば、それなりに見えるのに。


 スポーツ大会での黒瀬さんの活躍を思い出す。


 あれはあまりに意外で、予想外で、全く考えてもいなかったことだった。なぜか自分でも分からないけど、ちょっと泣きそうになった。


 わざわざ一位を取ってくるなんて。


 確かに、ぽろっと出れないことが残念だとは口にした。

 期待してくれていたのに、出れないせいで周りに迷惑をかけてしまったことが辛くて、ほんの少しだけ思いを吐露した。


 でもそれはあくまで愚痴みたいなもので、つい緩んで出てしまった言葉であって、何かを期待して口にしたわけではなかった。


 だけど、黒瀬さんはそんな私の気持ちを知ってか知らずか、一位を取ってきた。

 私がいなくても大丈夫だったと示してくれた。


 本当にずるい人だと思う。


 彼は別に私に好意を抱いているわけではない。

 むしろ、苦手な部類に入っていると思う。異性として見ているような視線を感じたことはないし、話しかけると決まって、ちょっと顔を引き攣らせている。


 別に苦手なら苦手で全然構わない。そう思ってこの10年を過ごしてきたわけだし。


 でも、それなら普通は放っておいて助けようとなんてしないはずなのに、なぜか決まって困った時だけ助けてくれるのだ。


 さらっと。自然に。知らないうちに。


 本人は助けてる意識はないようで、お礼を言っても否定してくる始末。こっちはこんなに助けられているのに。


 スポーツ大会の時だけじゃない。その前の委員の仕事も。怪我で交代してくれたり、苦手な男子の意見を集めてくれたり。

 その前には秋口さんに詰め寄られた時に助け舟も出してくれた。さらにその前にはお母さんの形見のネックレスも。


 どれだけ感謝しても、し足りない。


 彼が望むなら、シュガー先生の話を聞いてあげよう。そのぐらいならいくらでも聞いてあげられる。


 それが私に出来ること。苦手なのに助けてくれる、ちょっと変わった残念な男の人。そんな彼に出来る私の恩返し。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ