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第15話 暗躍

 翌日の昼休み、お弁当を食べながらスマホを眺めていた。


 表示されているのは俺の趣味垢のホーム画面。毎日練習した成果のイラストを公開しているが、どうにも反応が薄い。


 投稿を始めた当初こそ、ハートを二十人ぐらいから貰っていたが、それ以降増えていない。

 フォロワーも二千人を超えたところでピタリと止まってしまった。


 基礎練習の画像ばかりなのが不評なのかもしれない。


 やはり現実は厳しい。そう上手く行くわけではないことは分かっていてもちょっと悲しい。


「昨日の委員会どうだったの?」


 弁当を共にしていた蒼がこっちを見る。


「別に。特に何もなく終わったぞ」

「なんだー、白雪さんとの久しぶりの会話に盛り上がったりすると思ったのに」

「全然。いつも通りだったな」


 あまりに変わってなかった。無駄に振ってくるところまで。並の男だったら泣いてるよ?


「あ、でも蒼が七海のこと狙ってるのはバレてたぞ」

「え、ちょっと何それ。なんでバレたの!?」


 目をまん丸くして、ご飯をぽろりと落とした。むしろ、バレてないと思ってたのか。


「あんなあからさまに挙動不審になってたらバレるだろ。まあ、七海は気付いていないらしいけど」

「そ、そうなんだ。それは良かった」

「委員会まで交換したんだ。頑張れよ」

「ううっ。蓮ー、僕と七海さんとの仲取り持ってよー」


 上目遣いで泣き目にこっちを見つめてくる。いや、男の上目遣いとかどこにも需要ないから。


 間を取り持つなんて、白雪の鉄壁ガードがあるのに無理に決まっている。適当に「頑張れ」と声をかけておいた。


「委員会まで一緒とは羨ましい。どうであった、隣に座って。女神のオーラは感じたかね?」


 白雪の話題が出てこれば、大翔が興味を示さないはずがなく、目をきらりと輝かせる。なんだよ、女神のオーラって。


「別にいつも通りだったって。何もなくちょこっと会話して終わり、それだけだ」

「む、そうなのか。それでも最近は多少仲良くなっていると思ったのだが」

「変わんないよ。ずっと顔見知りな奴なまま」


 やはりずっと同じ学校というのが気になるのだろう。下手したら幼馴染とも呼べるわけだし。

 だが残念なことに、そんな恋愛みたいなものは始まりやしない。昨日だってめちゃくちゃ睨まれましたし?

 それに謎にフラれた回数も加算中です。


「俺と白雪の仲を疑うなら、大翔だって怪しくなるからな?」

「俺か?」

「秋口に聞いたぞ、幼稚園と中学も同じらしいな」

「そうだが、残念ながら何もないのだ」


 そう言って分かりやすくため息を吐く。そして肩を落としたままぼそぼそと呟き始めた。


「むろん、最初はちょっと期待したのだ。幼い頃の知り合いとの再会。どう考えてもフラグであろう? 意気揚々と話しかけたはいいものの、結局何も起きないまま、ここまできてしまった。……なぜなのだ?」

「現実だからだろ」


 二次元とリアルを一緒にするんじゃありません。


「現実なんてそんなもんだよ。甘いことなんて起きないって。俺と白雪のそんな感じだよ」

「そうであったか……」


 どうにか納得したようで肩を落としていた。


 放課後になり、いつものように秋口の所へ行く。秋口はまだ机の上を整理していた。

 側まで寄ると気配に気付いたようで顔を上げる。


「あら、黒瀬くん」

「今日もよろしく」


 もう慣れた秋口の隣というポジションに、腰を落ち着ける。リュックをドサっと机の上に置いた。


「委員のお仕事はいいのかしら?」

「白雪に要らないって言われたからな」

「え?」

「やらなくていいらしい」

「そ、それはダメよ、黒瀬くん」


 慌てたようにこちらを見る。その眼差しは真剣だ。


「二人に割り振られた仕事なんだから二人でやらないと」

「俺もそう言ったんだけど断られたんだよ」

「それでもよ。ちゃんとやらなきゃ」


 必死に訴えてくる秋口。


「黒瀬くんは白雪さんに対抗してるのよね?」

「まあな。ずっと負けてるが、いつまでも負けてられないし」

「それなら、仕事を白雪さん一人に任せるのはまずいでしょう? 全部白雪さんの手柄になるわよ」

「た、確かに」


 言われてみればその通りである。白雪一人でやっていれば、上がるのは白雪の株のみ。下手したら手伝わなかったってことで俺への評判も下がる。


 例え白雪本人が要らないと言っていたところで、周りがどう思うかは別の話だ。


(これは、まずいぞ……)


 白雪ばかりに活躍させるわけにはいかない。何より元々は俺にも割り振られた話である。

 それを、誰であれ相手に押し付けるのは引っ掛かっていたところだ。


 俺だって出来るところを見せてやらなければ。無能だと思われるのは真っ平だ。


 だが、どうすればいい?


 白雪が一人で出来ると言った以上、正面から「俺にもやらせろ」と言っところで拒まれるだろう。

 あれでかなり頑固な奴なのは知っている。大人しく、仕事をやらせてもらえるとは思えない。


 だとしたら白雪にバレないように、こっそり先回りしてやっておくのがいいだろう。終わらせてしまえば、あいつだって文句は言えない。


 よし、それなら。


 丁度良いことに、蒼からも相談されていたところだ。それを利用しよう。効率よく先回りできる。


「確かに秋口の言う通りだ。ちゃんとやるようにするよ」

「そ、そう。分かってもらえたなら良かったわ。白雪さんと仲良くやるのよ」

「ああ、任せておいてくれ」


 ばっちり考えた作戦で親指を立てた。


♦︎♦︎♦︎


 翌日、登校してすぐに蒼の元へと向かう。


 昨日家に帰った後、蒼に七海へ連絡するよう頼んでおいた。七海が白雪から委員の仕事に関わる話を聞き出してくれているはず。


「蒼、おはよ」

「おはよう、蓮! 七海さんとの会話のネタを提供してくれてありがとう。お陰で電話までしちゃったよ」


 幸せそうな笑みを浮かべて、ピースを見せつけてくる。


「随分仲良くなってるな」

「まあね。これでも慣れてるからね」


 ちょっと得意げに胸を張る蒼。あれ、昨日泣きついてきたの忘れてません? 頼んできたのはどこの誰でしたかね?


「上手くいったなら良かったよ。それで、聞き出してくれたんだろ?」

「あ、そうそう。とりあえず仕事自体は一人でも問題ないみたいだよ」

「そう、なのか」


 まじか。あの仕事量なので確かに一人でも問題はないのだろうが、割り込む余地がないと先回りできない。


「あ、でも」

「でも?」

「クラスTシャツの申請を1週間後までにしないと間に合わないみたいなんだけど、クラス全体で話し合う時間がないから、それで悩んでるって言ってた」

「なに? ナイスだ。蒼」


 いい事を聞いた。これは活かせる。クラスTシャツは確かに、全員の意見を聞く必要があるので大変なのは間違いない。


「女子は問題ないけど、やっぱり男子の意見を聞き回るのが微妙に困ってるみたいよ」

「あー、なるほどな」


 まあ、男子が苦手なあいつのことなので、苦々しそうに顔を顰めてる姿が容易に想像できた。


 書類関係は白雪が持ってるのでこっそりできないが、男子の意見を纏めることならこっちで出来る。

 それに周りにも仕事をしてるアピールが出来るので丁度いいかもしれない。


「よし、それならこっちで男子の意見を纏めるのをやるか。話題を提供してやったんだ。蒼も手伝ってくれよ」

「全然いいよ。でも、よく白雪さんのこと手伝う気になったね」

「こんな大変なこと白雪一人にやらせられるかよ」

「ふふふ、なるほどねー」


 白雪一人でやらせたら、俺が出来ないやつみたいに思われてしまう。それを避けるためという意味で言ったのだが、蒼はなぜか、にやにやしていた。


 やることは決めたので、善は急げと早速取り掛かる。


 生徒会室から新たなクラスTシャツの申し込み用紙を持ってきて、希望のTシャツデザインの意見を聞いていく。


 あくまでこっそりと。白雪にバレたら「余計なお世話です」とでも言って、止められるだろう。


 蒼には運動部や賑やかな連中の意見を聞くことを任せて、自分は地味目な人たちの話を聞いていく。


 そこまで拘る人はおらず、あっさりと昼休みには、意見が纏まった。


「はい、これ」

「おう。ありがとな」


 蒼から手渡された意見の紙を束ねてホチキスで綴じる。パチンッと音が鳴る。


「いやー、意外と簡単に集まったね」

「二人で手分けしてやったからな。それに男子の分だけだし」


 女子の分の意見も聞いて、それを纏めるのは1週間だとギリギリになるのは間違いない。そりゃあ、あいつも頭を悩ませるか。


「じゃあ、あとは白雪さんに渡すだけだね。蓮もお手伝い頑張ってよ」

「ああ」


 綺麗に束ねられた用紙を見つめる。さて、いつ渡そうか?


 そっと白雪の様子を窺うと、珍しく七海と一緒ではなかった。机に向かい合い、白雪は真剣な顔で何か用紙に記入している。委員会の書類なのかもしれない。


 それなら渡すのに丁度いいタイミングだろう。


 席を立ち、白雪の元へと向かう。一歩、また、一歩進むたびに、白雪の後ろ姿が近くなる。

 席の横に立つと、白雪が顔を上げた。


「黒瀬さん」

「よう」

「なにか用事ですか?」


 教室で俺から話しかけたことなど滅多にない。瞳に僅かに警戒を滲ませながら、首を傾げる。


「ほらよ。これを渡したかっただけだ」

「……なんですか、これ」


 手渡した書類を見つめて、目をぱちぱちと瞬かせる。


「クラスTシャツの男子側の希望調査。困ってるんだろ?」

「なんでそれを……」

「七海から聞いたんだ」

「そう、ですか」

 そう告げると、一度目を伏せた。そして、細い声でぽそりと呟く。


「……別に、私一人でも出来ました」

「知るか。俺がやりたくてしただけだし」


 白雪一人に手柄を取られるわけにはいかない。これで、幾分かは俺も仕事をしたことになるだろう。


「……まったく。困った人ですね」


 白雪はほのかに表情を緩めて、優しく呟いた。


少しでも続きが気になると思った方はブックマークをして頂けると嬉しいです。作者の励みになります( ੭ ˙ω˙ )੭

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― 新着の感想 ―
ここまで一気に読んだがいつになったら 「これ、友達の話なんだけど」展開になるのやら。
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