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プロメテウス・シスターズ  作者: umeune
貴種流離のシスターズ
83/99

081-幕間の終わり

「本日は誠にありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」


 ラテム商会での買い物を終え、小袋を抱えて店員に見送られながら店の外に出たアルティアとメルティアは、すぐに店の建物の上を確認した。

 特大の魔法の気配が、店の中にまで伝わってきていたのだ。

 案の定、建物の上ではディランのプロメテウスが発動していて、遠巻きに街の人々がじろじろ見つめていた。

 これはアルティアが店の中で予想した通りの結果だった。

 魔法の気配を感じた瞬間、メルティアは一族の誰かがプロメテウスで攻撃を仕掛けてくるのではないかと思い、すぐに店を出ようとした。

 しかし、アルティアがそれを止めた。

 アルティアは魔法の気配から、それがディランのプロメテウスであると特定し、それならば自分たちが動く必要はないと判断したのだ。

 ディランが護衛としての役割を果たすため、プロメテウスを発動したのだろう、と。

 

「姉さん、さっきはディラン兄様をからかってたのに、ちゃんと護衛として信頼してるんだもん。微笑ましくなっちゃった」

「あたしはこの数年あいつにずっと目をつけられてたからね。だからあいつがこの状況であたし達を守ってくれることも、それを成し遂げる実力があることも知ってるのよ」


 妹にそう言って微笑んだ後、アルティアは屋根の上に向かって大声を出した。


「ディラーーン、終わったわよーーー!!!」


 その声に反応して、ディランは自身のプロメテウスの手に乗り、地上まで降りてきた。

 そしてディランはプロメテウスを解除した。

 ディランは明らかに不機嫌な顔をしていた。


「えっ、その……ディラン兄様、私たち、何かやっちゃいました?」

「貴様らは悪くない。……ザイム殿と兵士たちに腹を立てている」


 ハイスバルツの敷地へと帰りながら、ディランは姉妹が買い物している間に何があったかを話した。

 ザイムは建物ごと姉妹とディランを抹殺するつもりだったこと、念の為追撃がないか警戒して屋根で待っていたこと、そしてこの暗殺には大砲を扱う兵士が確実に関わっていること。


「位置が分かりきっていて動くことのない的であっても、この距離の砲撃は容易ではない。それなりに練度のある兵士がザイム殿に飼い慣らされているようだ」

「それ、ディラン兄様にとって相当まずくないですか? 自分の懐に裏切り者がいるなんて」

「それ自体は分かり切っていたことだ。あれだけの人数の兵士がいて、ザイム殿をはじめとした一族の誰かしらに飼い慣らされている者がいないわけがない。俺が問題視しているのは、こうして実際の行動を起こされると、その裏切り者を処罰しないわけにはいかないことだ。大人しく間者として情報のやり取りだけしている分には、街を守る普通の兵士として扱ってやれるものを」

「まるで処罰なんてしたくないみたいな物言いね。ディラン、貴方はハイスバルツのやり方に肯定的じゃなかったの?」

「勘違いするなよ。処罰自体は必要な事だ。秩序を守るための軍において、規律違反は決して許されることではない。俺は貴重な戦力が失われる事を嘆いているんだ。たとえ俺に敵意を抱いていようとも、バルツの街を守るため尽くしてくれるならそれで構わん」

「でも、今回って、街に砲撃を……」

「そうだ。守るべき市民を危険に晒すなど言語道断だ。もはや兵士ではなく、逆賊に他ならない……!!」


 ディランの言葉からは怒りが漏れ出ていた。

 ディランがハイスバルツを誇りに思う理由、それは手段はどうあれバルツの街を統治し守っているからだ。

 治安の維持とは関係ない、完全な私欲のために市民に害をなすのは、ディランの理想とするハイスバルツとは真逆の姿だ。


「ハイスバルツの敷地に戻ったら俺は真っ先にこの件の後始末をしに行く。貴様らは自分で自分たちの問題を片づけておけ」


     ◆


 ディランと別れた後、アルティアとメルティアは二人で屋敷への道を歩いていた。


「ねえメル。当主を目指すってのはさっきみたいな襲撃を受けるようになるって事なんだけど。それでも当主になりたいの?」

「うん。いずれ暗殺とかにも備えなくちゃいけないって事は覚悟してたよ。まさかこんなに早くその時が来るとは思ってなかったけど」

「やっぱりあれくらいじゃ諦めないわよねえ」


 アルティアは呆れたように笑う。


「むしろ、一族を変える必要性をより感じたよ。兄様も言ってたけど、あの暗殺はいくらなんでもやり過ぎ。もう、放っておいちゃいけない」

「……そうね。って、次期当主の座を投げ出したあたしが同意して良いのか分からないけど」

「本当に無責任だよ、姉さんは」

「ちょっ、貴方までそんな事言わないでよ……」

「ふふっ、ごめんごめん。からかっただけ」

「もう。……でも。またこの街を離れる前に、あの事だけは責任を取ろうと思うの」

「あの事?」

「……マリーの事。今朝、あの子を見るまで、あんな事になってるなんて想像もしてなかった。……また、あたしの勝手な行動のせいで、傷付けたくない誰かを傷付けてしまったんだって」


 アルティアが先日のクロー、ランビケと同じように、マリーの事もジェーン先生の件と重ねているだろう事は、メルティアにとって想像に難くない事だった。


「どうするつもりなの?」

「……まだ考え中。迂闊に行動を起こして、事態をもっと酷くするわけにはいかないし。でも、いざその時が来たら、貴方の力を借りるかも。……あたしが原因のことなのにね」

「そんな、気にしないでよ。……姉さん、自分を責めすぎないでね。たとえ姉さんに過失があったとしても、そもそもの原因はこの一族なんだから」

「……うん。ありがとう、メル」

「さ、早く小間使いさんのところに行こ。家族会議の準備をしなきゃ」


 両親との家族会議の続き。

 それこそがこの日最大のイベントであり、二人が買い物に出かけた理由だった。

 アルティアとしては、不必要に傷付けてしまった母親に謝りたいし、今度こそ自分の出生についての話を両親から聞き出したかった。


「……そうね。あたしも、何言われても良いように心の準備をしておかないと」


     ◆


 昨日と同じ部屋。

 そして昨日と同じように、アルティアとメルティアは両親と向き合って座っていた。

 一つ違うのは、各人の前には姉妹が買ってきた茶が用意されていた。

 姉妹の母親、メアリはその茶が入ったカップを物珍しそうに見つめている。


「このお茶はなんでしょう? あまり嗅いだ覚えのない香りがします」


 その疑問にはアルティアが答えた。


「異国のお茶です、お母様。でも、茶葉の品種としてはこの地域で飲まれているものと変わりません。製法の違いが差を生み出しているとか」

「そうなのですね。……良い香りです。これはどこで手に入れたのですか?」

「商業区のラテム商会の店です。遠方の家具や雑貨のみならず、嗜好品も扱っていました。……実は、そのお茶を知ったのは、セルリの街なんです」

「確か、フランブルク商会でしたか? 貴方たちが居候していたという」

「はい。そこで友人が振る舞ってくれたのが、そのお茶でした」


 ロベルトが持っていた、姉妹が知らなかった茶葉。

 それを偶然、ラテム商会の店で見つけたのだ。

 香りを楽しむ母親の様子から、昨日の事を引きずり過ぎてはいないと判断したアルティアは、話を切り出した。


「……お母様。昨日は申し訳ありませんでした。……あたしは真実を知りたいですが、お母様を傷付けたい訳ではありません。それなのに、昨日は……自分を抑えることが出来ず、大変無礼な事を口走ってしまいました」

「……良いのです、アルティア。私も昨日は取り乱してしまい、失礼しました。……貴方が自分の生まれに疑いを持つ事も、無理はありません。今日は当主と私が、全てを話しましょう」

 

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