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プロメテウス・シスターズ  作者: umeune
貴種流離のシスターズ
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078-陰謀

 両親との家族会議が中断された後、アルティアとメルティアは実家の屋敷ではなく軍部の食堂で夕食を済ませた。

 そして実家に戻るのは気まずく思えた二人は、そのままディランのいる兵士長の部屋に邪魔していた。

 ディランは最初は「自分たちの部屋に帰れ」と姉妹を追い払おうとしていた。

 しかし、家族会議のことを引きずって覇気のないアルティアを気にしてか、部屋にいることを許してくれた。


「アルティア……貴様、それを直接メアリ様に言ったのか?」


 メルティアから家族会議で何があったのかを聞いたディランは、非難するような視線でアルティアを見た。

 アルティアにはいつものような活発さはなく、顔を俯かせていた。


「……さっきはあたしもどうかしていたわ。しゃべっているうちに、歯止めが効かなくなって、言わなくていい事まで言ってお母様を傷付けてしまった。でも……あたしはやっぱり、自分の出自をはっきりさせたい」

「貴様にとってそんなに出自は大事なのか? ハイスバルツを出ていくつもりなのだろう。この家の血にこだわる理由はあるまい?」

「あのねディラン。この家の血があるかどうかはどうでもいいの。あたしが気にしてるのは……メルとの繋がりよ」

「どうでもいいと言ってのけるか。まったく、貴様を次期当主として認めかけていたのがますます馬鹿らしくなる」


 そう言ってディランは視線を手元の書物に移した。

 顔には出さなくても、姉の返答が癇に障ったのだろうとメルティアは思った。


「姉さん。一週間くらい前、姉さんに出自の話をされてから、私考えたんだ。もしも本当に姉さんが私と血縁のない生まれだったらって」


 メルティアのその言葉に、アルティアは言葉は返さず、顔だけ妹の方に向けた。

 アルティアは怯えたような目をしていた。


「……私にとってはどっちでもいいんだ。姉さんと本当に血縁があるかどうかなんて」

「え……?」

「だって、私にとって姉さんが特別なのは、実の姉だからじゃない。私が生まれた時からずっとそばにいてくれたからなんだよ。楽しい時も、つらい時も、姉さんはずっと私に寄り添ってくれた。だから私は姉さんが好きなんだ」

「メル……!!」

「姉さんは違うの? 血の繋がりがないといや?」

「ちょっ……その聞き方はずるいわよ……」


 アルティアは視線をあちこちに行ったり来たりさせ、しばらく考え込んでから答えた。


「あたしにとって貴方が特別なのは、貴方があたしの妹で、あたしとずっと一緒にいたからよ。貴方の成長をすぐ横で見続けてきたんだもの。愛情を抱くに決まってるじゃない。……たとえ血縁がなくても、一緒に過ごした時間は今更なくならない。だから、大切である事に変わりはないわ。……でもね。だからこそ、血の繋がりが気になるの。あたしと貴方に、確かな繋がりがあってほしいの。……あたしは貴方と何の繋がりもない部外者かもしれないって思うと、怖くてたまらない……!! あたしはそれを曖昧なままにはしておきたくない」

「そっか。……もしも、私と姉さんに血の繋がりがないと分かってしまったら?」

「……多分、寂しくて泣いちゃうわ。その時は貴方をいっぱい抱きしめさせて?」

「うん。いいよ」


 微笑みながらそう返事してくれた妹を見て、アルティアは歯を見せにっこりと笑って見せた。


「それはそれとして、やっぱりお母様には悪いことをしちゃったわね。……最後まで言い切る前にお父様が止めてくれたけど、ほとんど言ったようなものだったし。……謝りたいな」

「姉さん。明日、家族会議の続きに行く前に街に行ってみない? 何かお母様へのプレゼントを買おうよ」

「いいじゃない! もちろん、お父様の分も買わないとね。あたしたちのお願いを聞いてもらえるように!」

「ちょっと待て」


 姉妹が明日のプランで盛り上がり始めたところで、書物を読んでいたディランが口を挟んできた。


「貴様ら、自分たちの立場を忘れたか?」

「当主の娘だけど」

「その妹ですけど」

「貴様らはあの家出騒動のケジメをつけるためにこの街に連れ戻されたんだぞ? 自由に出歩けると思っているのか?」

「なによ、じゃああたしたちにお父様とお母様へのプレゼントなんてするなって言うの?」


 アルティアがそう言い返すと、ディランは頭を抱えてため息をついた。


「……俺が監視でついていく。ついでに護衛もしてやる」

「あら、兵士長様がそんなにあたしたちに張り付いてていいの? お仕事は?」

「俺はもともとあと一か月は貴様らを連れ戻す任務についているはずだった。それが急に街に戻ることになって、俺は手が空いている」

「そうなのね。でも、護衛対象より弱い護衛なんて意味あるの?」

「ちょ、姉さん!!」

「……別に貴様らが街に行けないよう軟禁してもいいんだぞ?」


     ◆


 翌朝、ディランが姉妹との待ち合わせのため、ハイスバルツ家の敷地の門に向かっていると、その道中に珍しい人物がいた。


「……ザイム殿」


 年齢相応に皺だらけだが、年齢不相応に長身のハイスバルツ家の長老、ザイム。

 普段は自身の屋敷にこもっていて、外に出てくることはあまりない。

 その人物が、ディランの住む屋敷から程近い木陰に佇んでディランをじっと見つめていた。


「久しいな、ディラン。此度はよくぞあの姉妹を捕えてきた。お前に告げた無能の誹りは取り消してやろう」

「……ありがとうございます」

 

 ディランは形式的にザイムに礼儀を示しても、内心では警戒を解く気はなかった。

 姉妹が家出騒動を起こしてから、ザイムは次期当主の座を掌中に収めるため、対立候補であるディランとその周辺に有形無形であらゆる攻撃を仕掛けてきた。

 いわばディランにとって、ザイムは政敵に他ならなかった。


「ザイム殿。今日はどうしてこちらに?」

「散歩だよ。わしとて外の空気が吸いたくなる日もある」


 ただの散歩のはずがない。

 何か狙いがあってこの場に現れたに違いないとディランは断定していた。


「ディラン、お前こそ何故敷地の外へ向かう?」

「私はあの姉妹の監視です。ご両親へのお詫びの品を街にて調達したいとのことで」

「そうかそうか。また姉妹に逃げられでもしたら、お前の努力も水泡に帰すからな。無能でない事を示そうと必死なわけだ」


 ザイムが他を見下し嫌味を言ってくるのはいつもの事だ。

 それに今更反応を示すようなディランではなかった。

 だが、その為だけにザイムが現れるはずがない。


「まったく、あの無能姉妹どもが。ハイスバルツ家を荒らすだけ荒らしおって。やはりわしらの世代の歴史をもっと教育してやらねばならないな。それが足りないからハイスバルツ家への敬意に欠けるのだ。お前もそう思わんか?」

「ええ。奴らは、ハイスバルツ家とその先祖たちが積み上げてきたものによって、我々がこの時代を享受できている事を知るべきです。特にアルティアのやつは」

「ああ。あの無能な小娘め、蒼炎を扱えぬ無能の分際で次期当主の座に着き、消えたと思えば舞い戻りおって。あのような屑は処刑して存在しなかった事にした方が良い」

「ザイム殿、それは……」


 いくら長老のザイムといえど、今の発言は流石に目に余る。

 仮にザイムより立場が上の人間がこの場にいれば、即刻処罰されかねない発言だ。

 もっとも、ザイムより立場が上と言える人間は、当主しかいないのだが。


「商業区、ラテム商会の店だ」

「……は?」

「わしのオススメの店だ。はるばる海外から仕入れたらしい品も置かれている。愚かな姉妹たちに教えてやると良い」

「……は、はい」

「邪魔をしてやるなよ? ディラン、お前が有能ならな」


 それだけ言うと、ザイムは一人で自分の屋敷の方へ歩いて行った。

 ディランは確信していた。

 あのザイムが、わざわざ姉妹のために店を教えるはずがない。

 ラテム商会の店。

 そこにザイムが何らかの罠を仕掛けているに違いなかった。

 そして事前にディランにその事を教えてきたのは、協力の申し出に他ならない。


 ザイムは、アルティア暗殺の片棒を担げと言っているのだ。

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